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Kashmir 『ぱらのま 4』 : 〈豊かな人生〉とは、こういうこと。

書評:Kashmir『ぱらのま』第4巻(楽園コミックス・白泉社)

Amazonの創業者で、宇宙企業ブルーオリジンの創業者でもあるジェフ・ベゾスが、先日、同社のロケット「ニューシェパード」初の有人飛行に自ら参加して、無事に宇宙から帰還した、というニュースを聞いた人も多いはずだ。
言うまでもなく、ベソスは、世界有数の大富豪で、おおむねやりたい放題のできるご身分なのだが、しかし、そんな華やかな生活を送る彼にも、当然、彼なりの苦労や苦しみはあるだろう。「人間だもの」というわけである。

その点、我らが主人公の「旅鉄」お姉さんは、宇宙にまで飛び出すわけではないし、無論、富豪でなどないものの、何をして稼いでいるのかは不明だが、好きな時にのんびりと鉄道旅行を楽しめる、そうとう恵まれた謎の庶民。
そんなお姉さんは、世界一の大富豪ベソスと比べられ「どっちが幸せか」と問われても決して負けてはいないだろうし、「どっちになりたいか」と問われて、けっこう多くが、お姉さんのような生活を望むのではないだろうか。
これは多分、いくらお金があり遊ぶ時間もあって、何でも好きなことができたとしても、それだけでは人は「幸せ」にはなれない、ということを、多くの人が直観的に感じ取っているからではないだろうか。

例えば、お姉さんは、鉄道乗車用ICカードの履歴に、駅名を、

 一ノ江
 二重橋前
 三田
 四ツ木
 五香
 六美
 七光台
 八木崎
 九品仏
 十条

という具合に「一から十」まで並べるためだけに、最も効率的な駅を探しておいて、たびたび乗り換えをし、時には駅の間を歩いて移動するなんて、贅沢きわまりない遊びをするのだ。

そして、この履歴を、同じ鉄オタである実兄(普通のサラリーマン)に見せて自慢する。
すると兄の返事は、

「おお すごいな アホだな」

と的確な評価。
それを聞いて、お姉さん(妹)の方は「うへへ いやー」と、まんざらでもなさそうな照れ笑い。
すかさず兄も「いや 半分以上は ほめてないぞ (7割アホだ(汗))」と、すかさずツッコミ。

そのあと、鉄オタ兄妹の無邪気でマニアックなやりとりがしばらく続いた後、「そういえば」「こういうのは 前にやったな」と、兄がスマホに保存された乗車履歴を妹に示すと、そこには、

 東浦和
 西浦和
 南浦和
 北浦和
 武蔵浦和
 浦和
 浦和美園
 中浦和

と「浦和」のつく全駅名が並んでいた。

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「外回りで 近くに行ったから そのまま やってみた」そうだ。
妹は「おおお」と感心して、思わず「URAWA8!!」と叫び、

「浦和マスター って 呼んでいい?(カッコイー)」と、嬉しそうに握りこぶしの親指を立てて「グッジョブ」サインを、兄に送る。冷静な兄は、ひとこと「やめろ」。


こんな幸福は、ジェフ・ベゾスだって、そうは体験できまい。一一そう感じるのは、私だけではないはずだ。ちなみに、私は鉄オタではない。

初出:2021年8月15日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)

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