書評:八代嘉美・海猫沢めろん『死にたくないんですけど iPS細胞は死を克服できるのか』(ソフトバンク新書)
2013年に刊行された、SF作家が生物学者に教えを乞う「iPS細胞」入門で、わかりやすく基本的な知識の身につく、楽しい一冊である。
本書で、私が注目したのは、「生命倫理」の問題における「日本人特有のダメさ」である。
「生命科学」の分野においては、常に「生命倫理」の問題が重くのしかかってくるというのは、素人でも容易に察しのつくところだろう。
本書でも、卵子をもとにして作成される「ES細胞」が、ローマ法王庁(カトリック教会)や、キリスト教保守派の信者であるブッシュjr大統領からの批判にさらされたという事実が紹介されており、無宗教者の多い日本人読者としては、さもありなんと、素直に納得のできたのではないだろうか。
(キリスト教信仰に基づく「妊娠中絶」反対派)
しかし、問題は、「ES細胞」や「iPS細胞」などの開発研究における「生命倫理」の問題に絡んで、自主規制が多いのは、意外にも、イギリスやアメリカといったキリスト教国ではなく、日本の方だという事実である。
一一なぜなのだろうか?
ややもすると日本人は、キリスト教信者の欧米人を「非科学的なキリスト教徒」だといって馬鹿にするところがあるけれども、少なくとも「信念を持って、真剣に議論をして、筋を通す」という点は、キリスト教圏の欧米人には到底かなわない。
昔から言われるとおり、日本人を律したり支配したりするのは、「ロジック(論理=是非善悪=言葉)」ではなく「空気」だということだ。
(タイトルの微妙な改訳・どこからが人間なのか?)
まったく情けない話だが、例えば、本書を酷評しているレビュアーだって、信仰的信念を持つ欧米人とは違って、著名人である著者を目の前にして、同じことを言えるほどの信念を持ってレビューを書いている人など、一人もいないだろう。なにしろ、平均的な日本人は、自身の中に神を持たないぶん、世俗的権威にはめっぽう弱いからである。
初出:2021年6月9日「Amazonレビュー」
(2021年10月15日、管理者により削除)
再録:2021年6月18日「アレクセイの花園」
(2022年8月1日、閉鎖により閲覧不能)
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