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本を読んで考えたことを中心に書いています。 文学、哲学、社会学、歴史、批評など、人文系…

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本を読んで考えたことを中心に書いています。 文学、哲学、社会学、歴史、批評など、人文系の本が多いです。 日英仏翻訳者です。翻訳ついても書きます。

最近の記事

【読書記録】 YOUR UTOPIA by Bora Chung / translated by Anton Hur

Your Utopia Bora Chung / translated by Anton Hur 8つの短篇が収められた短篇集。 前作『Curst Bunny』は、全編を通して、土着的、呪術的、そして神話的な設定、登場人物の体温や、汗や血や排出物の匂いを生々しく表現する作品集でした。『Your Utopia』はまるで逆、各物語に共通するのは、宇宙、終末、無生物、ディストピアなどの要素。無機的な世界です。前作との対比の鮮やさが第一印象でした。 2つの作品集の圧倒的な温度の違い

    • 『二人キリ』村山由佳

      『二人キリ』村山由佳 集英社 昔某国で『愛のコリーダ』の無修正版をふつうに深夜放送で見ました(芸術作品枠だったのか)。体調が万全でなかったせいか中毒症状を呈し、わたしの記憶にあるのは肉と血と体液と粘膜、そして不思議な仏語字幕のみ。テーマはもちろんあの「阿部定」事件です。 そんな阿部定の物語『二人キリ』は、脚本家である主人公自身の語り、定の回想、そして事件にまつわる人間たちの証言をもとに組み立てられた定の物語、脚本家から作家へと開眼していく主人公の創作、そして定を主人公にし

      • 哲学史入門Ⅱ デカルトからカント、ヘーゲルまで 斎藤哲也編

        上野修、戸田剛文、御子柴善之、大河内泰樹、山本貴光、吉川浩満 斎藤哲也編 NHK出版新書 9月は哲学史入門月間です(テーマを絞った積読消化ともいう)。 今回読んだのは『哲学史入門』の第2弾。 17世紀の代表的な哲学者から、イギリス経験論、三批判書を中心にカント哲学、ドイツ観念論とヘーゲルまでがカバーされています。 哲学にかんして一家言のある人はよく、「入門書や解説書なんかより一次文献を読め」というオソロシイことをおっしゃいますが、哲学の徒にあるまじき権威主義だと思ってしま

        • ハイファに戻って/太陽の男たち  ガッサーン・カナファーニー 黒田寿郎/奴田原睦明訳

          パレスチナの作家ガッサーン・カナファーニーの作品集。12歳で難民になり、解放運動に携わりながら創作活動を続け、36歳の若さで暗殺されました。短く過酷だった彼の人生があったからこそ、これらの厳しい清冽な祈りのような作品が生まれたのかと思うと、運命と芸術の神の残酷さを思わずにはいられません。 以前ヨーロッパに住んでいたころ、パレスチナ・イスラエル問題のニュースはよく報じられていたけれど、戦争の悲惨が今のように連日SNSによって伝えられるという時代ではありませんでした。あからさま

        【読書記録】 YOUR UTOPIA by Bora Chung / translated by Anton Hur

        • 『二人キリ』村山由佳

        • 哲学史入門Ⅱ デカルトからカント、ヘーゲルまで 斎藤哲也編

        • ハイファに戻って/太陽の男たち  ガッサーン・カナファーニー 黒田寿郎/奴田原睦明訳

          9月1日 今月は、今持っている哲学史や西洋哲学入門の本を全部読むのが目標です。 読み込んだうえで1冊ごとに細かく読書記録を書いていたら、読む冊数が減るので、今月はメモを取る程度にしようと思います。あえて「読了」とか「理解」は目指しません。 毎月縛りを決めて読む新しい遊び開始。

          9月1日 今月は、今持っている哲学史や西洋哲学入門の本を全部読むのが目標です。 読み込んだうえで1冊ごとに細かく読書記録を書いていたら、読む冊数が減るので、今月はメモを取る程度にしようと思います。あえて「読了」とか「理解」は目指しません。 毎月縛りを決めて読む新しい遊び開始。

          東京に着くと、あれもこれも読んでないと焦って本をどんどん買ってしまうの もちろん読むスピードは追いつかないけど、気持ちは安定する (はじめてここでつぶやいてみた)

          東京に着くと、あれもこれも読んでないと焦って本をどんどん買ってしまうの もちろん読むスピードは追いつかないけど、気持ちは安定する (はじめてここでつぶやいてみた)

          資本主義がわかる「20世紀」世界史講義的塲昭弘

          資本主義がわかる「20世紀」世界史講義 的塲昭弘 日本実業出版社 日本を代表するマルクス研究家による、世界が西欧資本主義を中心に動いていた20世紀の世界史講義。苦手なためについスルーしがちな経済学や経済戦略の話も、世界を動かしていた力ととらえて読み進むことができました。冷戦時代のソ連や東欧諸国に滞在していた著者の体験や見聞も興味深く、あまり知らなかったこれらの地域の実情を垣間見ることができました。それぞれの時期の世情や思想潮流を反映した哲学や文学書の紹介もされています。戦争

          資本主義がわかる「20世紀」世界史講義的塲昭弘

          『獄中からの手紙』ローザ・ルクセンブルグ

          『獄中からの手紙』 ローザ・ルクセンブルグ 秋元寿恵夫訳 (岩波文庫) 革命家が書くものといえば、もっぱら檄文だという思い込みがありました。 ましてやローザ・ルクセンブルグはスパルタクス団の政治理論担当者、ブレーンだったのです。 しかもタイトルは『獄中からの手紙』。 第一次大戦直後のドイツの最左翼革命家らしい、厳しく激しいメッセージを期待してしまったのでした。 ところが、幼馴染のゾフィーにあてた手紙は、どのページを開いても、明るい空気や風のささやきや、木々や草花や鳥たちと

          『獄中からの手紙』ローザ・ルクセンブルグ

          白痴 上・下 ドストエフスキー 木村浩訳

          白痴 上・下 ドストエフスキー 木村浩訳 (新潮文庫) 主人公ムイシュキン公爵は「白痴」、ではなく「ダイヤモンド」なのでした。 天然無垢の孤高の輝きで人々を魅了します。誰もが好きになってしまう。 しかしその存在自体が美しすぎて不吉でさえあり、近づく人間の運命を狂わせる。 ダイヤモンドは他を傷つけるが自らは傷つきにくいもの。 ただ靱性は低く、大打撃を受ければ粉々に割れてしまいます。 ムイシュキンこと「純度の高すぎるダイヤモンド」は、逆説的にブラックホールさながらに俗悪や欲や

          白痴 上・下 ドストエフスキー 木村浩訳

          君が異端だった頃 島田雅彦     (二人称私小説の離れ業)

          郊外の森で遊びながら自我に眼ざめ、多摩丘陵や川崎南部での荒唐無稽な空騒ぎを通して表現者たる自覚を固め、女の子と性欲に振り回され続け、文壇デビューしてからも変わらぬ行動力と破壊力で突き進む主人公の「君」、自称「島田マゾ彦」。 昭和から平成、そして現在もつねに注目を浴びる、無茶と優雅が矛盾なく同居している異端者が遺そうとする「記憶、記録」の「文書化」は、盛ったり削ったりした自伝という「ノンフィクション」ではなく、不都合な真実もためらいなく書かれた私小説という「虚構」の形を借りて

          君が異端だった頃 島田雅彦     (二人称私小説の離れ業)

          哲学史入門Ⅰ 古代ギリシアからルネサンスまで 斎藤哲也編

          万事につけ万年入門者であるわたしが今挑戦しているのは、全3巻で古代から現代までをカバーする「哲学史入門」です。第1巻を読み終わりました。 全編、編者の斎藤氏による哲学者へのインタビュー形式。「です・ます」体なので、心理的負担が少ない気がするのはビギナーだから? 中身が難解である本ほど、口当たりは素人にとって大切ですが、質を落とすわけにもいきません(余計なお世話)。しかし哲学界の碩学のお話ですからそんな心配は無用なうえ(だから余計なお世話だってば)、そこかしこに余裕酌酌のユー

          哲学史入門Ⅰ 古代ギリシアからルネサンスまで 斎藤哲也編

          『アメリカの思想と文学』分断を乗り越える「声」を聴く 白岩英樹

          講義録をもとにして構成された本書のキーワードは「声(ヴォイス)」。 B・フランクリン、R・W・エマソン、H・D・ソロー、W・ホイットマン、そしてS・アンダーソンの作品の中で紡ぎ出された「声」に耳を傾けながら、人工国家アメリカにおける「声」がどのように国民統合のバックボーンを創っていったかを丁寧に解説しています。 「声」を紡ぎ出すプロセス、それは「交感」です。 肉体を持った生身の人間の「声」が、さまざまな形で複層的な思想となり、ポリフォニーとなって、社会を再構築し、個の生き直

          『アメリカの思想と文学』分断を乗り越える「声」を聴く 白岩英樹

          詩集『Reborn』高山京子 を読んで

          高山京子氏の第一詩集です。 ネット(noteや旧Twitter)上で読んだ彼女の詩に、みぞおちを打たれるような感じを何度も覚えました。気持ちが弱っているときなど読みながら泣いてしまうことも。 とくにこれとかすごい。 https://note.com/takayamakyoko/n/nfb19dc2f39c9 いたわりあう老夫婦へ向ける眼差しが、激しい性愛に生きることの本質を見つめる心の眼に変化していくさま。「性、なんて」というヤサグレたタイトルは、野暮ったいようでいて一周回

          詩集『Reborn』高山京子 を読んで

          キリストのさまざまな肌の色をめぐって(木村智氏の論文を読んで)

          今回の読書記録は書籍ではなく、イエール大学の宗教・視覚文化研究所のジャーナルに掲載されている、木村智氏の論文を拝読した記録と感想です。 タイトルは、 In Search of Multiple Colors of Christ: Daniel J. Fleming and the American Protestant Encounter with Asian Christian Visual Arts, 1937-1940 (キリストのさまざまな肌の色をめぐって:1937年

          キリストのさまざまな肌の色をめぐって(木村智氏の論文を読んで)

          【読書記録】Doppelganger : a trip into the mirror world / Naomi Klein

          Doppelganger : a trip into the mirror world(ドッペルゲンガー:鏡の国への旅) Naomi Klein(ナオミ・クライン)著 Knopf Canada刊 (自己の拡張+アテンションエコノミー+キャンセルカルチャー)×(COVID+アンチ科学)=ドッペルゲンガー@鏡の国  ↑勝手に直観的に作った式なのであまり信用なさいませんように。 『ショック・ドクトリン』の著者として知られるナオミ・クラインは、ここ十年以上、「もうひとりのナオミ」

          【読書記録】Doppelganger : a trip into the mirror world / Naomi Klein

          近況072224(読んだ本・拙訳書刊行)

          記事を書かなくなってもう1カ月以上経ちます。 本の翻訳の仕事がこの2年ほどずっと切れずにあって、ありがたいのだけれど、最近はとくに翻訳作業そのものに消耗し、締め切りにビビりながら暮らしています。仕事以外の文章を書く気力と体力がない。 読んだ本のことは、そのうち時間ができたら記録したり感想を書いてアップしようと思って書き散らかしたメモばかりが増えて、わけもなく焦ります。 とりあえず最近読んだ本をメモ: Doppelganger Naomi Klein 君が異端だった頃 島

          近況072224(読んだ本・拙訳書刊行)