マガジンのカバー画像

介護

38
運営しているクリエイター

#自宅介護

実家にて ~父倒れる~

実家にて ~父倒れる~

 小さな春を満喫しに近所の公園へ行った。ベンチに座りバックから文庫本を取り出す。柔らかい日差しの下、風を感じながらページを数ページめくった。しばらくするとケータイが鳴った。実家からだった。

 「あ、はな?お母さんだけど。あのね、今朝お父さんが転んじゃったのよ。朝は動いていたんだけど、今ベットから動けなくなったの」

 すぐにタクシーを拾い実家へ向かう。父はベットで横になっている。触っても特に痛が

もっとみる
母の入浴介助と読書会

母の入浴介助と読書会

 雨は柔らかな湿気をふくみ、冬にほんのりと温もりを与えている。今日は実家で母の入浴介助。入りたくないと駄々を捏ねた月初めが頭をよぎる。大雪が積もったあの日と比べたら、今日は雨でも良い方かもしれない。

 透明なビニール傘越しに雨粒を感じる。この音が誰かの声だといいのに。プライベートで友人と会うことも憚れ、無口な主人との二人暮らしがどんどん口の筋肉の劣化を誘う。話して分かり合える相性ではない。結婚の

もっとみる

パンが好きな父、ワンピースを作る母

 今日もいつものように両親の入浴介助の為実家へ行く。今年92歳の父は一人で入るので、入浴の準備だけ、今年91歳の母は車椅子なので風呂の中まで入り介助する。仕事柄慣れているのがありがたい。職業選択を正しくできたと思う今日この頃だ。

 お風呂の後は洗濯、そして昼食だ。お弁当の宅配を頼んでいるので夜と朝はそれを食べている。昼食はパンなのでまとめ買いをして持っていく。今回は黒糖蒸しパン、どら焼き、カステ

もっとみる
最終章への助走はケアマネさんと共に

最終章への助走はケアマネさんと共に

いつも優しいケアマネさんが声を詰まらせ驚いている。

「 えっ!ショートステイもリハビリも辞めるんですか?! 」

1月に圧迫骨折で入院、そして老健へ入所、いまはショートステイと自宅で過ごせるようになった母が、来月から自宅だけで父とふたり老々ステイホームとなればそりゃ心配するでしょう。

ケアマネさんは少しでも長く生きてほしくてリスクが少ない方法を提示して下さる。私も同じ意見だったけど、家に居たい

もっとみる
バス停の先に見える景色

バス停の先に見える景色

「出来ると思ってたけど、何にも出来ない」

一時間前にはずっと家にいると宣言した母はパンツもきちんと上げれず、よっちらこっちら歩きながらため息をつく。

来月からショートステイは行かない、家で出来ることをゆっくりやりたい、そう言い張るが、実際どうなんだろうね。

ショートステイだと自分が自分で無くなるもどかしさ、家では己の身体に責任をもつ事への不安感で揺れているんだろう。

その度にケアマネさんに

もっとみる
実家を後に 〜 驚愕の事実

実家を後に 〜 驚愕の事実

人間五十年 下天のうちを比ぶれば  夢幻の如くなり 一度生を受け 滅せぬもののあるべきか。

信長が好んだとされる【 敦盛 】の言葉だ。

人の命は50年と短きものだ、仏界と比べれば、まるで夢や幻のようであり、この世に生まれたからには、滅びないものはない。

好きな言葉だ。

ただ今と昔が違うのは、人間50年では無い事だ。私の両親で言えば、人間90年!なんとプラス40年である。

先日実家に行った

もっとみる
実家を後に 〜 ムリったらムリなのだ

実家を後に 〜 ムリったらムリなのだ

バスの車窓から見る夜の街並みは昼間と違って温かい。グレーや白いマンションが夕闇の中、橙色の燈を灯すから。たくさんの人や家族が放つ光だ。

今夜実家を後にした。ショートステイから帰ってきた母を見るため泊まるつもりだった。昨日までは泊まっていたけれど、私は実家を出て我が家に帰って来た。

今日は久しぶりに父と母がふたりきりで家にいた。母は日帰りのリハビリ施設に行くのを拒否し、結果老々自宅待機である。心

もっとみる
失われた日常の先の明日に

失われた日常の先の明日に

気づけば19時32分、夕飯も作らず眠っていた。今日は夜勤明け、自宅で緊張が解けたのだろう。録画した番組を見ながら寝落ちするという、何て贅沢な時間だろう。

ぐっすり寝ている間、途切れ途切れに夢を見た。昔の自分の写真を見てたり友人が自殺する夢。夢占いで調べてみたら何のことはない、ザックリ言うとストレスがたまっているようだ。

一昨日泊まった実家で目を覚まし、ショートステイへ行く母の準備をして我が家に

もっとみる
実家にて 〈 7日目 〉 母と猫と夕暮れ

実家にて 〈 7日目 〉 母と猫と夕暮れ

夜の10時を過ぎると実家の周りは静寂の一言。ただ隣のお風呂の水浴びの音がバッシャーンバッシャーンと聞こえるだけ。私は2階から階段を降り、母のトイレ誘導へ向かう。

夕方、買い物に出た。尿とりパットが少なくなったから。多く吸水する夜用も150mlの2回吸水から6回吸水まであって( ほぼ1ℓじゃん)、4回吸水を買う。1300円くらいで30枚、お買い得商品だ。勤務先の病院では何気なく使っているけど、いざ

もっとみる
実家にて  〈 6日目 〉 すき焼きとオンライン読書会

実家にて  〈 6日目 〉 すき焼きとオンライン読書会

実家に泊まって今日で6日、自宅には荷物を取りに一度寄っただけ。仕事と家の往復の間に、WOWOW見たり好きな本読んだりのまったりとした日常が少しずつゆがんでいく感じがする。

今日は休日、久しぶりに自宅に帰って洗濯したり、ゆっくりお風呂に入ったり、夕食を作ったり自分時間の充実をはかった。夕食はすき焼き。タレさえあれば、私失敗しないので(笑)。

もうひとつ帰る理由があった。zoomでオンライン読書会

もっとみる
実家にて 〈 5日目 〉 ツバメの巣作りとピッピッおじさん

実家にて 〈 5日目 〉 ツバメの巣作りとピッピッおじさん

ピッピッピッピッー!軽快なリズムで交通整理をしながらおじさんが三叉路に立っている。朝の6時45分、おじさんというより80歳は超えていそうなおじいさん、通称ピッピッおじさん( 私がつけたニックネーム )は私が実家から職場へ向かうバス停の側で町内の安全を守っている。

職人のような慣れた動作で車の道案内をし、また道ゆく人に「いよっ!」と手を上げ止まらせたり、進ませたりしている姿はここで会う全ての人々に

もっとみる

実家にて  〈 4日目 〉 食事と自由

朝5時半のアラームで目を覚ます。久しぶりの早起き。空は明るい。

仕事に行く準備をし、出かける直前に母のトイレ介助をする。紙パンツに吸水パットを2枚重ね、お昼過ぎに1枚引き抜くように伝える。それだと、夕方までポータブルトイレに行かずとも漏れにくいから。

今日は入浴介助の日。蒸し暑い浴室でマスクして、熱中症になりそうだ。  

時間はあっという間に過ぎてお昼の準備。ひとりひとりテーブルまで温かいご

もっとみる
実家にて 〈3日目〉 ドクターの訪問

実家にて 〈3日目〉 ドクターの訪問

怒涛の2日間が終わりいささか放心状態で朝を迎える。

昨日母が言った「あんたに騙された!帰って!」その言葉のトゲが刺さっている。

ベットで起き上がる時も、歩行器でトイレに行く時も、見守るだけ。決して手は貸さない。意地悪かもしれないけれど、病院や施設と違って時間だけはたっぷりあるのだ。

やはり母は朝からは特に動きが悪く、昨日の勢いはない。

昼にかかりつけの病院の先生が来てくださった。優しい先生

もっとみる
実家にて〈 2日目 〉 愚痴にも負けず、怒声にも負けず

実家にて〈 2日目 〉 愚痴にも負けず、怒声にも負けず

「もう夜が明けたのね」

朝5時から聞こえる母と父の会話。

久しぶりに一緒に朝を迎えて安心したのだろう。

昨夜はオムツ交換もスムーズにやれた。肉親だとお互い抵抗あるかな、と思っていたけれどいつもの職場と同じ。腰は上がるじゃん、やりやすっ!

朝からはパットに便も少々出ていて、本人曰く「こんなこと初めて!」との事。

タオルの切れ端をお湯で濡らし丁寧に拭く。思ったより抵抗なし。

介護の仕事につ

もっとみる