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創作ものがたり

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2021年10月の記事一覧

ふわりふわりと少年は

ふわりふわりと少年は

蝉の鳴く声が
遠くにも響かなくなった季節

僕は今
旅をしています

ふわりふわりと
気持ちを宙に浮かせ
僕自身を誰も知らない街を旅しています

そこには何も無くて
人もいない
嫌いもなければ
好きもない

平和な街

街を歩く中で僕は
とあるお店を見つけたので入ってみました

入った先に勿論店員はいなく
雑多な食器が並んだ食卓が1つ

使われた形跡もなく
ただ並べられた食器たちを見て

僕はまた

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衣替えと笑い声

衣替えと笑い声

ウォークインクローゼットがあれば
こんな面倒な衣替えいらないのに。
そう思いながら積み上がった冬服と棚に入る夏服を交互に見た。

終わる気がしないその量に深いため息をつくのは毎年恒例。
仕事があるから昼はできない。だから夜にまとめてやる。
でも明日も仕事だし、本当に面倒。

私は片付けが苦手。
だからやり始めるまでに時間がかかる。

私にお金があれば、家政婦さんを雇ってやってもらうのに。
私が魔法

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なんでそれを、買ったのか

なんでそれを、買ったのか

夜、帰宅。ベッドの上にカバンごと飛び込む。

今日は友達のアケミと久々のショッピングで、つい浮かれて色々買ってしまった。

カバンから財布を出し、レシートを見る。
なんでこんなもの買ったんだろうって後悔する。

訳の分からない顔をしたお揃いのくまのキーホルダーと、大して可愛くない銀色のピンキーリング。

その場では、とても可愛いと思った。
だから買った。
でも家に帰って見てみると、さほど可愛くない

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届いたりんごの行方

届いたりんごの行方

実家から沢山のりんごが届いた。

「いや…嬉しいよ、嬉しいんだけど」

段ボール1箱分のそれは、一人暮らしの許容量をゆうに超えていた。
数にして30個。
1日1個で1ヶ月。

「りんご好きなら…行けるのか…?」

そう思いながらまずは1つ、皮をむいて食べた。
昔母から教わった、簡易的なりんごの剥き方。
アニメのようなとぐろを巻いた皮は出来ないけど、
しっかり溜まった蜜を逃がさない、そんな剥き方。

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ディスペンサー室のバリスタ

ディスペンサー室のバリスタ

「コーヒーでいいですか」

大して仲良くない後輩が、俺に対して聞いた。

「ああ」

大して仲良くないから、すんっと答えた。

「……」

積み上がった紙コップを1つ取り、
仲良くない後輩はディスペンサーからコーヒーを出して、入れた。

「ガムシロはいりますか」

「いや」

「ミルクは」

「いや…てか自分でとるよ、そのくらい」

俺が少し手を伸ばせば届く位置に、
いま仲良くない後輩が聞いてきた

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優しい子

優しい子

いつも食べてるどら焼きの味が変わって
変だなぁって思った。
それは小学校から変わらない味だったから
尚更、変だなぁって。

僕が小学生の頃からお母さんに買ってもらってた
ササキ屋のどら焼き。
なんでこんなに味が変わったのだろう?
何か、あったんだろうか。

人間、ストレスを感じると味がおかしくなるらしい。
インターネットにはそう書いてあった。

てことは、だ。
ササキ屋の店主さん、もしかしてストレ

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後悔しない声の失い方

後悔しない声の失い方

僕はいつか、声を失うそうだ。
そういう病気。もう逃げられないんだって。

だから僕、いつか声が無くなる日まで
君の名前を呼ぼうと思うんだ。

大好きな君の名前を。

なーんて。
医者に言われた時はそんなこと言ったけどさ。

結局君の名前だけを呼ぶわけじゃないんだよね。
沢山の人の名前を呼ぶ。

なんかの歌の歌詞にもあったな。
声が無くなるまで君の名を呼ぶよって。
じゃあ本当に無くなるって言われたら

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先輩の延長コード

先輩の延長コード

延長コードが壊れた。
もう代替も無いし、正直ショック。
いや、新しいの買えばいいんだけど。
この延長コードだけは、なんというか。
壊したくなかったっていうか。

「これ、先輩にもらったやつなのに」

とある高2の夏休みの合宿。
私は小説を書くことを主に活動している「ストーリー部」の部員だったんだけど、小説を書くための合宿で
憧れの佐藤先輩と同じグループになったの。

合宿先は長野県の高遠。
自然が

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翔太くんは耳鳴りがするらしい

翔太くんは耳鳴りがするらしい

「あの日から、耳鳴りがするんだ」
クラスの翔太くんが、友達の輪の中でそう言っていた。

あの日。
それは、彼ら翔太くんグループの男の子4人が心霊スポットと呼ばれるトンネルに行った日。

そのトンネルでは昔、男の子が亡くなったらしい。
その男の子は親からネグレクトを受けていて
友達もいなくてすごい寂しい思いをしていて
ある夜にベランダから家を抜け出して、どこかにある幸せを見つけに走っていたら、
その

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橋にまつわる男女の話

橋にまつわる男女の話

それは、ひどい雨の中。

女は、言った。
「相変わらず雨男なのね」

男も、言った。
「相変わらずってなんだよ。たまたまだよ」

女はお気に入りの赤い傘を少し回しながら
男は使い込んでボロボロになった傘を

それぞれ差しながらここへ来た。

ここは2人の思い出の地。
少し坂を上った所にある、橋の中心。

雨で川の水が増え、ここへ来るのにも危ないぞ、と何度も声をかけられた2人。

それを無視して、傘

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