衣替えと笑い声
ウォークインクローゼットがあれば
こんな面倒な衣替えいらないのに。
そう思いながら積み上がった冬服と棚に入る夏服を交互に見た。
終わる気がしないその量に深いため息をつくのは毎年恒例。
仕事があるから昼はできない。だから夜にまとめてやる。
でも明日も仕事だし、本当に面倒。
私は片付けが苦手。
だからやり始めるまでに時間がかかる。
私にお金があれば、家政婦さんを雇ってやってもらうのに。
私が魔法を使えたら、ステッキ1振りで衣替えなんて終わるのに。
そんな夢物語を描きながら一つ一つ服を選別する。
絶対着るから取っておこうって決めた夏のワンピースは結局今年1度も袖を通すことは無かった。
でも、来年こそは着るでしょうと思うと、また捨てられなくて夏服の保存袋に入る。
25の時、一目惚れで買ったワンピース。もうすぐ30になるけど、まだ似合うかも、まだ着れるかも、そう思って捨てられない。
本当は、もう3年袖を通してないのに。
私は冬服のニットを手に取り、毛玉カッターで毛玉を取る。
正直、この作業も面倒で嫌い。
どうせ出来るニットの毛玉を1個1個丁寧に、切る。
面倒、面倒、面倒。
でも、段々綺麗になっていく服を見ると、
謎にやる気が出てくるのよね。
私は時折、コンビニで買ってきたホットコーヒーを飲みながら衣替えを続けた。
始めたのは23:00。
24:00、25:00、気づいたら25:30。
大体終わってきた頃に、楽しそうな笑い声が聞こえて不意に窓を開けて外を見た。
若い大学生3人くらいが肩を組み合って歩いていた。
「さみー!!」
「本当急に寒くなりすぎだろー!」
そんな寒ささえも、彼らにとっては笑いの種。
何か発する度に全てが面白くなる、奇跡の年代。
「…幸せだねぇ〜」
縁側に座るおばあちゃんのような声で、私は彼らに向かってそう呟いた。
冷たい風に思わず震えて、窓を閉めた。
振り返ると、あと少しの冬服の山。
「よし、やりますか!」
袖を捲って、ホットコーヒーを一口。
少し冷めてもなお温かいコーヒーに、どことなく幸せを感じながら、ニットをたたむ。
今年も、冬が来る。
ゆっくり、ゆったり季節を感じる、
毎年恒例の、私の衣替え。
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