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「人間は考える葦である」は、円滑なプロジェクト推進には弊害?
前回、「トラブルプロジェクトのノウハウは、何故伝承されないのか」というテーマで、日本人に多くみられる「意識、考え方の影響性」という側面から考察しました。
プロジェクトの推進においては、すでに確立された「開発手法、技法」が数多く流布、定着し、使用されているのは周知のとおりです。本来であれば、それに従って取り組むことで、円滑にことが進められそうなハズではないでしょうか。しかしながら、そうなっていないのが現実です。
今回は、そうしたことがどこから来るのか、何故起こるのかということについて、人の「根源的な観点」から再度考察したいと思います。そう、パスカルが残した言葉である「人間は、考える葦である」ということです。
1.マニュアル通りは、評価されない?
昔から、「マニュアル通りにしか対応しない」という言葉は、良い意味で人を評価することには使われていないことは、ご承知のことかと思います。そう、マニュアル通りにやることは賢い人間がすることではないという風潮が一般的にあるような気がします。さらに、型通りに物事を進めることも「融通の利かないやつ」といったことで、あまり評価されてこなかったのではないでしょうか。
それゆえ、「他人の経験談(失敗談)」や「手法・技法通り実践する」ということに対し、抵抗感とまでは言いませんが、そのままでは「使えない」、ちょっとでも違うと「適用できない」とし、自身の経験を優先しようとすることになっているのではないでしょうか。特に、システム構築におけるプロジェクト運営は、モノへの対応(例:機械点検や、工事点検、検査点検など)と異なり、「絶対その通り実施しなければダメ(危険)」ということはなく、「人と人の裁量 」を上手く活かさないと成り立たない世界です。自身の力量を試せる、示せる絶好の機会でもあるということです。
2.要件通りにシステムを作ったら
システム設計の際、良く「誰でも、間違えないように、考えなくても使えるような仕組みにしよう」という要件で進めることが多いと思います。特に、入力画面などは、入力順や入力項目などについて、「初心者でも説明無しに使える簡単な仕組みにすべき」といった要件になる傾向が高いと思います。
以前、そうして作ったシステムで、それを使用するオペレーター(パート)の方々に教育をしていた時、「あまりにも簡単すぎて『私達を馬鹿にしているのではないか』という声が出て、辞めて帰られてしまった」という「話」を聞かされたことがありました。その時、顧客担当の方から、「考えずに使える方式」ではなく、少し「考えさせる」仕組みを残さないとダメなのかもという話が出たのです。その時は、何となく、納得してしまいました。
3.日本における特性?
コンピュータ世界は「1」か「0」の世界であり、「均一な対応ができる、マニュアル通り実践する」ということは、本来なら褒められることであるかもしれません。ただ、そのまま何かをするということに対し抵抗感があるのもその通りでしょう。そういった考え方が「失敗や、人の経験談から真に学ぶこと」を妨げているのかもしれません。標準指標、標準チェック事項、手法、技法も多く出回っていますが、「固定化した取り決め事項」という認識であり、あくまで「サンプル、一事例、参考事項だ」といった意識で扱う傾向になってしまっているように思います。
こうしたことは、欧米社会(マニュアル、訴訟社会)ではありえない話かもしれません。
【マニュアル社会】
指示通りやることを、契約しているという考え方。マニュアルに例え不合理な点があったとしても、その通りしなければ、逆に罰せられることにもなりかねないという意識。(それが、当たり前というカルチャー)
【訴訟社会】
契約書やマニュアルに規定されていないことでトラブルが発生した場合は、規定していなかった側が責任を負うべきと言う社会カルチャー。マニュアルに従うこと、従っていれば自身の問題にはならないハズといった意識が根付いている社会。
4.では、どうする?
システム構築は、「人」で行わざるを得ないこと、また「人が考える葦」であることを考えますと、「ミス、誤認、誤解、誤操作、モレ、異なる理解、異なる手法、異なる種々選択など」といった事態を「0」にすることは避けられない事だと思います。さて、どちらを優先すべきなのでしょうか?
・人としての思考(自主性)を活かすべきか?
・それとも従順に従い、黙々と作業させるべきなのか?
「人間は、考える葦である」ということを受け入れるのであれば、「良いとこどり 」を願うことの他に、やはり、「リスクを意識した取り組み 」が必須ということになることを肝に銘ずる必要であるということです。以前(第2回行動様式)にも記しましたが、「自分の常識は、他人の常識ではない」ということを理解した取り組みが必要と考えます。
*1:「人と人の裁量」
人とは、「顧客、上司、同僚、リーダー、プロマネ、外注要員など」の関係者すべてを指す。
*2:良いとこどり
人(自社社員の多く)は、相手の気持ちや文面(報告書、仕様書記載事項など)の背景(行間)を汲み取り、考え行動してくれるハズといった思い込みで、指示などを含め取り組もうとすること。
*3:リスクを意識した取り組み
往々にして、「そんなことはしない、起きない」といった自身の常識を前提にした取り組みになりがち。「性悪説」とまでは言いいませんが、うまく事が運ばないことがあるという想定や、ミスや誤解がされることを前提としての対策を立てた上での運営を行うこと。悪意も考慮要。
【関連記事】
・第1回(通算第53回)
・第2回(通算第54回)
・第2回(システム開発に求められる行動様式)