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日本で「オフショア開発」がうまく行かない理由を考える

残念なことに、「オフショア」を活用してうまく行ったという話をあまり聞くことがありません。それより、活用したことで「工期が大幅に延びた」、「大損失を出した」というケースの方が多く聞こえてきます。
今回は、こうした事態を、単に「プロジェクトマネジメント上の問題だ」として片づけてよいのかということについて、考察したいと思います。


1.主なトラブル課題

私が、初めて今でいう「オフショア」を知ったのは、40数年前のことでした。開発を委託(外注)した日本のソフトハウスが、海外の企業を活用しているとのことで、間接的にではありましたが、初めて利用することになりました。確か「台湾」の会社だったと思います。いつの時代も、先進的な会社はあるものです。
当時、「オフショア」といったような言葉や概念はありませんでしたし、その時は単に「そうですか」という程度の認識で、「(外注費が)安く収まるんだ」ということだけを意識していたような気がします。その他のことは、プログラミングの世界でもあり、世界共通であまり変わることは無く、「国内と同じようにやってくれるハズ」ということ、また日本企業に発注した意識もあり、対応を変える必要も特にないだろうと考えていました。
しかし、出来上がってきたモノの検証時、「仕様通りではない、チェック事項への考慮が足りない」と問うことになり、その時に相手先から返ってきた答えが、「仕様書に明確に記載されていませんよ」というものでした。初めて、「日本の業界習慣、業務上の常識では当たり前」ということを記載していなかった事に気づかされた次第です。国内の企業相手には許されていた、「常識でしょ」が通じないということを、痛感させられたことを未だに覚えています。契約先が日本のソフトハウスで、日本人でしたので、「何とかしてくれるだろうという甘えがあった」ことが大きかったような気がします。

グローバル化した現在、今は、海外のオフショア会社と直接対応することが一般化し、それが当たり前の時代になったことに対し、「自身の認識が追い付いているか」ということを、改めて考える必要があると思います。

【主な課題】
・技術力の問題より、こちらから提供する仕様の品質。(詳細度、明確度などプログラム品質に大きくかかわる問題)
・オフショア会社からの、応答時間のタイムラグ。(ブリッジSEや、日本法人経由での対応。時間がかかる)
・通訳が必須。(意思疎通がとりにくい、歯がゆさ(本当に理解してくれているか?))
・仕様書理解における齟齬。(翻訳文の精度(直訳傾向)、ブリッジSEの理解力依存など)
・業務理解不足。(当然ながら、日本流の業務のあり方への理解は無い)
・活用するサイドの認識不足。(日本の委託先と同じような意識での対応)
・契約社会の理解不足。(契約書、指示書等に書かれていることしか、対応できない)
                             など

2.主な課題の発生要因

どうしてこのようなことが、課題になってしまうのでしょうか。その原因の多くは、日本サイド(発注、委託する側)に起因していると考えています。

【発生要因】
・オフショア先(海外)との「カルチャー、常識」の違いを、理解しないままでの活用。

ということに、尽きるのではないかと考えています。それは、日本人の多くが自身に都合の良い「思い込み」をしてしまういうこと。そうした性格が、「モロ」に出てしまうことによるもののではないかと考えています。ご都合主義と言っても良いと思いますが、「自分と同じように考えてくれるハズ、やってくれるハズ」という自身の思い込みを前提に、事を進めようとする傾向が高いからではないかということです。

【陥りやすい認識】
・日本(人)と同様、最後は何とかしてくれる(話し合い、双方痛み分け)という思い込み。
・仕様書などの文面の背景を、読み取ってくれるだろうという思い込み。
(逐一書き込まない、書き込めない、書き込まなくても分かってくれるハズという思い込み)

3.解決策は…

日本人は、良く言えば「性善説」で考えることが染みついてしまっていると考えています。そう考えることから、未だに抜け出せないでいると言っても過言ではないかもしれません。性善説で臨むことは、自身を「楽」にしてくれるということにも繋がっているからだと思います。
ただ、これは「ドメスティックな社会(日本人相手のみ)でのみ通用すること」であることが、理解できていないということでもあるかと思います。
グローバル化の進展とともに、それが通用しなくなっていることを、未だに理解できていないのかもしれません。そこからの脱却が、最大の課題でしょうか。

【必要な取り組み】
・通訳、翻訳、応答時間などを考慮したスケジューリング。(時間的余裕)
・背景などを含めた、「具体的、簡潔」な仕様書の作成。(業務理解不要)
・ブリッジSEの評価、意思疎通の強化。
・契約明細の厳格化。(委託内容、違約事項、完了条件などの明確化)
・オフショア先カルチャーの理解。(国柄、ビジネス感覚)
・日本人感覚からの脱却(潜在的な驕り、思い込みを捨てる)
                               など

今、ビジネスのグローバリゼーション化という観点から、単に「オフショア(プログラミング委託)」活用ということだけではなく、「サービス開発」や、現地国におけるサービス製品発掘といった面での活用に広げることが注目されています。
これまでのような「コストカット」だけを目的にするのではなく、今一度、海外の利活用の在り方について振り返る時期に来ているのではないでしょうか。


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