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わたしの読書記録

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自然や生物を題材にした本、純文学、海外文学、ノンフィクション。 文学は1900年初頭~昭和半ば頃までに書かれたものや、戦争文学が特に好き。 谷崎潤一郎、堀辰雄、原民喜、梅崎春生、…
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2022年9月の記事一覧

コミさんの脱力系戦争文学《ポロポロ》

コミさんの脱力系戦争文学《ポロポロ》

【読書記録】
少し前に暇つぶしのために入った小さな書店でたまたま手に取ったポロポロ。

表題作のポロポロは谷崎潤一郎賞受賞作で、ポロポロの他には、田中小実昌独特の脱力系表現で戦争体験を語った6つの短編が収録されている。(“書いた”というよりも、まさに“語った”なのである)

一度スタートすると次々に話が枝分かれして、「ふんふん」と聞いているうちにその話の中を引き回される感じがまるで私の母の話を聞い

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「名もなき人たちのテーブル」席では、ひっそりと面白いことが起こることになっている。

「名もなき人たちのテーブル」席では、ひっそりと面白いことが起こることになっている。

【読書記録】

文字を目で追っていると、瑞々しい言葉が波のように心に寄せては返し、胸の奥で沸き立つ静かに熱く燃える何か…を抑えきれなくなった。
鼻の奥がツンとして、視界がぼやける。

─人生
─その中で出会う人や事物
─自分を失い、流され、落ちゆく深淵

出会わなければよかったのに出会ってしまった人。
出会うべくして出会えた人。

その誰とだっていつでも会える、なんてことはない。

懐かしい声を聴

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〈あの図書館の彼女たち〉 戦時下における本の力について考える

〈あの図書館の彼女たち〉 戦時下における本の力について考える

戦争✕図書館──
つい手に取ってしまう本のテーマである。

【あの図書館の彼女たち】

今年4月に出版になった《あの図書館の彼女たち》は、第二次世界大戦中のパリ…にあるアメリカ図書館を舞台にしていて、実在の出来事や人物を基に肉付けされたストーリー、というのが私の読みたい意欲を掻き立てた。

本が人と人とを結びつけ、心を育ませる一方で、つらい別れをも呼び込むこととなる。
図書館に収蔵された本の運命と

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