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自己を受け止める

電車などの公共の場で、あたり構わず大声で泣き散らかす小さな子ども。

そしてそれを睨みつける人。

きっと彼らは羨ましいのだ。

心が狭い、不寛容なのでは決してない。

自分も大声上げて泣きたいのに、それが叶わないから嫉妬するのだ。

人は年を取れば成長していく。
みんな無条件にそう思っているように感じる。

けっしてそんなことはない。

赤子や幼子のほうが優れている、鋭敏な感覚はたくさんある。

大人しくなる。
理性を身に付ける。

それは本当に成長だろうか。

日本人も赤子の頃は「L」と「R」の発音の違いを聞き分けることができるという。

生育の過程でそれを捨てていくのだ。
なんせ周りは日本語話者ばかり。
毎日嫌というほど日本語を聞かされながら言葉を学んでいくのだ。

そりゃあLもRもわからなくなる。

色だってそうだ。
リンゴの赤とトマトの赤と血の赤は全く同じと言えるだろうか。
きっと違う。

けれど大人から「これは同じ赤という色なんだよ」と教わる。
そうするとこれはいっしょくたに「赤なんだ」と学ぶ。

学ぶとは真似ぶ→まねぶが基なので、
文字通り模倣していくわけだ。

そうやって徐々に「公衆の場で大声で泣き喚くのはよくない」「そうしないことが大人なのだ」と学んでいく。

果たしてそれは「ひと」にとって良いことなのだろうか。

きっと子どもがうるさくて子どもが嫌いな人は、うるさいから嫌いなのではない。

自分が謳歌できない自由を彼らは享受しているように感じるから、
それへの羨望が嫌悪に変わっているに過ぎないのだ。

しかし子どもたちには別に「自由を謳歌している」なんて自覚はない。

日々必死に生きているからだ。

むしろ大人にはできる色んなことが自分たちにはできないことを不自由に感じ、
「早く大人になりたい」と嘆く。

しかし思春期を迎えると、なりたかったはずの大人は思っていたより楽しそうに見えないことに気づく。

そして言う。
「ずっと子どもでいたいなあ」と。

冒頭に挙げた、子どもを羨む大人は、きっとその延長線上にいる。

ずっと子どもでいたかったけど、
いれなかった。

責任を背負うことの愉しさを知るより前に、
その負の側面を知ってしまったが故に、
背負うことの無かった時代をなつかしみ、
「子どもに戻りたいなあ」と思って大人でいる。

そりゃあ子どもが嫌いになるのも仕方ないと言える。

僕は子どもが大好きだ。
では、なぜ僕は子どもが好きなのか。

それは、僕が「子どもの頃に戻りたい」などと思っていないからだ。

子どもの頃どころか、「あの頃に戻りたい」などと思うことは無い。

今が1番楽しいから、という模範解答を披露しようとは思わない。

今が楽しい。
あの頃は楽しかった。

そんなにも端的にその時期を言い表せるわけがない。

僕の答えはこうだ。

あの頃もそれなりに楽しくて苦しかっただろうし、
今も同じように楽しくて苦しいはずだ、と。

誰だってこう表現するしかないはずだ。

「今が一番幸せだから」は少し無理をしている気がするし、
「あの頃はよかった」はきっと美化された良いことにしか目が向いていないだけだ。

だから僕は、どの時期にも戻りたくはない。
今が一番とも思わない。

もちろん特定の過去の思い出を振り返って、
「大学2年の時に行ったあの旅行楽しかったよね」
などと話すことはあるだろう。

ただ、「大学2年のあの頃は良かった。あの頃に戻りたい」とは思わないだけだ。

それは現在の自分を受け止めようとしているからだ。

「あの時こうしていれば」
「もっとこうだったら」
そういった気持ちは当たり前にある。
けれど、今の自分を受け止めている。

肝心なことは、この「受け止める」という行為が「受け入れる」や「肯定する」とは違うということだ。

ある意味「諦め」や「正当化」に近い。

自己を尊重し、「よしよしヾ(・ω・`)」してあげるのではなく、
「そっか」と受け止めるのだ。

それによってどんなことが起こるのかと言われても、僕にはわからない。

最近、「これをしたらこうなる」という
「結果と原因」に拘泥する考えから解放されつつあるからだ。

この世界が「結果と原因」だけで成り立つものばかりでないこと、いやむしろそれでは説明できないもののほうが多いらしいことが何となくわかってきた。

なので、今のところは「あの頃に戻りたいなどとは思わない」「今の自分を受け止める」の先に何があるかと聞かれても、
「泣き喚く子どもにイライラせず好きでいられる」
としか答えようがない。

昨今「自尊感情」や「自己肯定感」と言った言葉が流布しているが、
僕はそれよりも「自己受け止め」(もっと良い言葉があればいいなあ)のほうが大切なのではないか、と思っている。

小野トロ


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