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よりぬき伝奇さん

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これまでこのnoteに掲載した記事のうち、特におすすめの作品に関するものについて、よりぬいています。
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2024年3月の記事一覧

六道慧『安倍晴明あやかし鬼譚』 晴明と紫式部、取り合わせの妙を超える物語

六道慧『安倍晴明あやかし鬼譚』 晴明と紫式部、取り合わせの妙を超える物語

<大河ドラマに便乗して本の紹介その4>
 初単行本時には『源氏夢幻抄 安倍晴明伝』のタイトルで刊行された作品の改題文庫化された作品は、タイトルのとおり、源氏物語と安倍晴明が交錯するユニークな作品――物語と現実が複雑に入り乱れる平安伝奇の名品です。

 大陰陽師として知られながらも、齢84となり、数年前から衰えを隠せない晴明。しかしある晩、自分が「光の君」と呼ばれる少年となった夢を見た晴明が目を覚ま

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平谷美樹『虎と十字架 南部藩虎騒動』 猛虎脱走! 混沌の謎の行方は 

平谷美樹『虎と十字架 南部藩虎騒動』 猛虎脱走! 混沌の謎の行方は 

 時代小説と歴史小説を中心に活躍する平谷美樹ですが、時代小説においては実はミステリ色が強い作品を得意とする作家でもあります。本作はそれが前面に出た作品――家康から拝領した二匹の虎の脱走を巡って南部藩を揺るがす複雑怪奇な騒動に、藩の徒目付が挑みます。

 かつてカンボジアから徳川家康に贈られた二匹の虎・乱菊丸と牡丹丸を拝領し、盛岡城内で飼っていた南部利直。しかしある晩、この二匹が檻から脱走するという

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東曜太郎『カトリと眠れる石の街』 二人の少女が挑む怪奇伝奇な冒険

東曜太郎『カトリと眠れる石の街』 二人の少女が挑む怪奇伝奇な冒険

 19世紀後半のエディンバラを舞台に二人の少女が冒険を繰り広げる、伝奇色も強い児童文学の快作であります。街に蔓延する謎の眠り病の原因を突き止めるため、カトリとリズ――生まれも育ちも違う二人の少女が、街に隠された秘密に挑みます。

 スコットランドの都市・エディンバラ――新市街と旧市街に分かれたこの街の旧市街で、同級生たちから一目置かれるカトリ。金物屋の養女である彼女は、病で寝付いた父に代り、母の仕

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東曜太郎『カトリと霧の国の遺産』 少女の見えない将来と幻の街の魔手

東曜太郎『カトリと霧の国の遺産』 少女の見えない将来と幻の街の魔手

 児童書にして優れた伝奇ホラーでもあった『カトリと眠れる石の街』の待望の続編です。エディンバラの博物館で働くことになったカトリの周辺で起きる連続失踪事件。それは幻の街にまつわる古物収集家のコレクションの展示に深く関わっていました。そして謎の魔手はカトリにまで及ぶことになります。

 エディンバラで流行した謎の眠り病事件解決に奔走する中、博物館に興味を抱き、家業を捨ててそこで働くという道を選んだカト

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