詩『雨、そしてワルツ』#シロクマ文芸部#創作大賞2024
雨を聴く、
雨 、 雨 、 雨 、
雨。。。。。雨
雨。。。。。雨
雨。。。。。また雨
(AM)
雨、
しとしと、薄暗い部屋の窓を濡らして、
女が啜り泣くように降る、
雨、
1日の始まりから跳ねあがる、しずく、点々と。ブラウスに抽象的な水染みが広がってゆく。重なり合う斑な染み。ひとーつ、ふたーつ、みーっつ……数えて、草臥れたソファに体重を預けながら、歪んでゆく四肢。雨の日の重低音を奏でる。かじかむ指、欠けた爪。お湯を沸かして、茶葉を熱湯のなかでゆったりと踊らせる。じんわり滲む琥珀。茶色い魚が鰭をはためかせて、ひらひらとポットのなかで透明だったお湯を染める。渋い小魚のワルツ。くぐもるハミング。あつい海から浮いたり、沈んだりして、遠泳してゆけ。
(PM)
雨、
ぽつぽつ、沈殿する室内の静寂。
午後を過ぎてゆく時計の針よ、
雨、
ひびきあっている、波紋、拡大されてゆく水紋、時間をかき混ぜて、曇り空を歌っている、どこかしらへと流れてゆく水音、耳が反応しながら、詩集の頁をめくって、黙読中。頭の器のなかで、おとのない音楽が流れている。誰にも聞こえない、もうひとりの自分がこっそり発語する、音読する、表現する、旋律。文字がひとつずつ硝子窓を滑ってゆく。人工の電気を殺した沈黙の牙城、漂うかげとかげ。明日の予定が引き潮のように去ってゆく。ここにはことばのみが浮遊している、時間の流れはーーー、内部が凍結して、瞬間の炎の煌めきがぱっぱっと咲いて散る。
(午後二時~)
雨、
やがて止んで、雲と雲の晴れ間から、
太陽が覗く、虹の架け橋、
雨 上がり、
透ける空気、水たまりに反射する青空のモンタージュ。日干しされて古典文学のふるい紙の香りが日向に匂い立つ。初版の熱は残留しているのだろうか。Who are you?or Who am I?廻っている色んな声。ことばの水蒸気は上がっていたのだろうか。虹は半分透かしが入っている。その半分向こうに、在りし日の逆光がシルエットを浮かび上がらせる。教えて、漱石、教えて、芥川、教えて、中也、教えて、朔太郎、教えて、太宰、教えて、賢治……オノマトペやことばの遊戯がゆらゆら揺れている。後世に遺された文豪からの手紙として受け取り、何度も、何度も、息を吹き返した夜のひかりのしたへ。
photo:見出し画像(みんなのフォトギャラリーより、クロノツカヤさん)
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word&poem:未来の味蕾