詩『春のパレットを広げよう』#シロクマ文芸部
朧月。夜明けが足音を立てて、近づいている。風が春を孕んで、色彩を連れてくる。首元が緩んで、ぐるぐる巻きマフラーがほどけてゆく。袖口も呼吸をして、あたたかい息遣いで、肌に接吻する。衣服も着られるばかりではなく、季節とともに生きている。パフスリーブは膨らんでは萎む蒲公英の綿毛のように。
*
(case-A)
(x-ray、32歳女性、独身)
/朝一番に/はちみつレモンを摂取しよう/うっかり蜜蜂が肺に花粉を滑らせてしまったから/風でお掃除して頂戴/黒いレントゲン写真に/元カレが昆虫針で留められているのが写っていた/
Dr.『最近、失恋されましたか?』
患者A『はい……』
Dr.『まだ完治していませんね』
患者A『毎晩、眠れなくて……』
Dr.『春一番を処方しておきますね』
《ー風が涙を吹き飛ばしたー》
(case-B)
(MRI、51歳男性、妻子あり)
/塩分控え目の味噌汁を一杯/健康オタクの妻の手料理は薄味/たまにはカップラーメンの海で泳ぎたい/頭を輪切りにしたら/ジャンクフードの夢が詰まっていた/
Dr.『頭の断面がぱんぱんに膨れ上がってますね』
患者B『はい、毎晩、夢に見るんです』
Dr.『まあ、適度にストレス解消して下さい』
患者B『妻が厳しくて……』
Dr.『家族分の花見弁当を出しておきます』
《ー清水の舞台から飛び降りたー》
(case-C)
(カウンセリング、15歳、性別未回答)
/朝は常温のカフェオレ/白でも黒でもあり/白でも黒でもない/胸の灯台で青と赤が混ざりあいながら/むらさきいろの明かりが灯りました/
カウンセラー『性別が未回答になってますが、何か理由があるのですか?』
患者C『性別に縛られたくないんです』
カウンセラー『生物学的性と心の性自認の不一致ですか?』
患者C『男でも女でもないものになりたいんです』
カウンセラー『羽化するまで蛹を育てていきましょう』
《ーだんだんと風が雪解けへ誘うー》
*
ざわざわとパステルカラーの風が
極彩色へと色づいてゆく
いろんな方向から吹いてくる潮流
どの風も未開の地を開拓してゆく
流れてゆく雲海
それぞれの春はもうすぐそこだ
The spring is almost here.
photo:見出し画像(みんなのフォトギャラリーより、AIRPORT chickiiさん)
photo2:Unsplash
design:未来の味蕾
word&poem:未来の味蕾
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