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ゆっくり大事に読む創作大賞記事

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創作大賞用に投稿された記事をじっくり読む用に作ったマガジンです。
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2024年6月の記事一覧

【小説】迷い猫 1

【小説】迷い猫 1

【あらすじ】

 大学生の山本茉莉は、ある日、大通り沿いの側溝で衰弱する猫を見つける。通りかかったゼミの同期である小田友梨佳とともにその猫を助けた茉莉は、猫を保護し元の飼い主を探し始める。
 難航するかに見えた飼い主探しはすぐに解決したが、飼い主として現れた人物から醸し出される不気味な雰囲気に戦慄した茉莉は一時的に猫を自宅へ匿うこととする。
 猫を匿ったことにより茉莉と友梨佳は脅迫めいたメッセージ

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空き家の子供 第1章 現在・冬(1)

空き家の子供 第1章 現在・冬(1)

あらすじ現在・冬。久しぶりに実家に帰った私(平井聡子)は、子供の頃に深い関わりのあった「空き家」が壊されたと知る。その跡地に出かけた私は、「空き家の子供」に襲われる。危ないところで近所に住む慶太に助けられるが、慶太は「捕まればよかったのに」と言うのだった……。
過去・夏。十五年前、十一歳の平井聡子は、空き家の絵を描くことに夢中になっていた。クラスメートの慶太の導きで空き家に入った聡子は、「空き家の

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さよなら炒飯!一皿目

さよなら炒飯!一皿目

その店だけ時給が飛びぬけて高かった。

二十八歳で職を失い、とりあえず金を稼がなくてはならない。口座にある数字をかきあつめても家賃二ヶ月分。ファミレスでメニューを選ぶのに躊躇する。実家はそこまで太くない。
転職でステップアップを目指すところだが、正社員ってやつがしんどい。責任、決断、上司、後輩、顧客。そんなもの考えたくない。
バイトを探す。実入りがよい肉体労働を考えたがキツイ事はしたくない。飲食店

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プレジャー・ランドへようこそ_第1話

プレジャー・ランドへようこそ_第1話



プロローグ



「うたた寝でも悪夢かよ」
ノキアは小さく独りごちて、舌打ちをした。

同じような家が建ち並ぶ住宅街の中に、山中ノキアの家はある。中学二年生のノキアは、生理痛を理由に部活をサボって早めに家に帰ってきていた。時刻は夕方の6時半。腹痛はすでに回復していたものの、なんのやる気も起きず、ノキアは制服の白いシャツとジャケットそしてスラックスを着たまま、ベットの上に横たわっていた。窓から

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大阪城は五センチ《 1 》 【創作大賞2024】

大阪城は五センチ《 1 》 【創作大賞2024】



脱いでいた服を身につけた後は、宇治のそばにいる資格をすっかり剥奪されたような気持ちになる。

バスルームに水の音が響くのを聞きながら鏡台の前に立ち、クリーニングしたてのスラックスをしっかり引き上げ、新品のセーターの裾を整えた。申し訳程度に眉を書き足し、色付きの薬用リップを塗っただけのささやかな顔が、鏡の中から心配そうにこちらを見つめ返してくる。励ますようにショルダータイプのスマホケースを肩から

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【創作】オーガニックコットン 第1話

【創作】オーガニックコットン 第1話

"You have a golden heart!"

英会話教師のジェームズは
額の皺を更に深くするように
グレーの目を大きくし、
両腕を広げて大袈裟に言った。

職業を告げたときの
周りの反応が私は好きじゃない。

「何て良い人なんだ!」

少し声を高くして言われた後に

「私には出来ない」

と続く。

「他人の下の世話なんて」って。

どうしてだろう。

下の世話なら看護師だって
毎日行な

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夢と鰻とオムライス 第1話

夢と鰻とオムライス 第1話



 飛んできたのは五百円玉だった。
 よりによって一番攻撃力の高そうな硬貨の側面が、俺の眉間に命中したのだ。
 鋭い痛みが目頭から眼球の裏へと伝わり、泣きたくもないのにじわりと涙が滲んだ。
「いってぇ……」
 俺は両手で目を覆い隠した。痛みのせいで勝手に湧いてきた涙をそれとなく拭って、顔を上げる。

「何すんだよ!」
 渾身の力を込めて睨みつけると、ほんの一瞬だけ、兄はうろたえた表情を見せた。

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それは、パクリではありません!【第1話】【全4話】

それは、パクリではありません!【第1話】【全4話】

各話リンクはこちら

第2話
第3話
第4話

第1話 

パクリなのか、それとも

 チカチカした画面を、何度も食い入るように覗き込む。ブルーライトの光が瞬き、瞳の奥が痛い。瞼を、ぐいっと指で擦る。残像が霞み、スクリーンの輪郭が朧げになる。このまま、何もかも幻覚になり、いっそ消えてなくなればいいのに。

 缶チューハイを持つ手が、カタカタと音を立てる。腕にしゅわっと泡が流れ、パチパチと音を立てた

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言の葉ノ架け橋【第1話】

言の葉ノ架け橋【第1話】

第1話 かけはし
まだ夏は遠いけど、紫外線の強くなる季節。
首元に日焼け止めクリームを丹念に塗り込んでいると、「希生先生、希生先生」と庭から優しい声で呼ばれて慌てて振り返った。

「ヨウちゃん、そんなところにいたの。びっくりさせないで」
「希生先生、いそがんと学校に遅れるよぉー」

私はふぅと息を吐き、手の甲にもクリームをたっぷり塗り込んだ。
「サチ祖母ちゃんの声マネするのいい加減やめて欲しいわ。

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残夢【第一章】①手錠

残夢【第一章】①手錠


女は髪を振り乱して俺から逃れようともがく。手首は白くて折れそうに細い。
俺はそのコートから伸びでた手首を素早く掴んで捻りあげ、女がそれ以上抵抗できないようにブロック塀に体を押し付ける。
 
「イヤッ……」
 
小さく息を漏らした女のおくれ毛は汗ばんだ頬に張り付き、思うように身動きの取れなくなった上半身を必死に動かし振り向こうと再び藻掻く。
 
抵抗しても無駄だ。
俺は必要最小限の力を込め女にそれ

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花畑お悩み相談所 プロローグ 

花畑お悩み相談所 プロローグ 

プロローグ

 寝る前にスマホを見ないのは、良い眠りのためのお約束だそうだ。
 そう言われましても。若い頃からずっと夜型で、寝室へ向かう前に最後のメールチェックをしてしまう。退職した今でも、その習慣は変わらない。富原律子は老眼鏡をかけると、スマホの画面をタップする。
 深夜のリビングに、かすかな金属音が届く。家の前の空き地に、マンション建設が始まっていて、今夜は突貫で電気工事をすると知らされていた

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白雪美香は彼氏ができない!_第1話

白雪美香は彼氏ができない!_第1話



プロローグ

「はぁ、はぁ、はぁっ」

白雪美香は、ぽっちゃりとした白く柔らかな肉体を揺らしながら、福岡市のセントラルパークと言われる大濠公園を走っている。

5月中旬の福岡は夏日になることもあり、今日の気温は25度を超えていた。気温が上がることは白雪美香もわかっていたが、ここまで暑くなるとは予想だにしていなかった。もう夏じゃないか、と白雪美香の荒い呼吸の中にため息が混じる。今更ながら厚手の服

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