MARGINAL NOTES:周辺から考えたこと【9月1日 創刊】

五人の名文家と一人の編集者の Web ZINE。お題は月替わり。あなたも、私も、生きて…

MARGINAL NOTES:周辺から考えたこと【9月1日 創刊】

五人の名文家と一人の編集者の Web ZINE。お題は月替わり。あなたも、私も、生きている。

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ツインターボ、あの夏の暴走賛歌|残暑/01 #5|栗下直也

「競馬は人生の縮図だ。これほど内容の詰まったミステリー小説は、ほかにない」といったのは小説家のアーネスト・ヘミングウェイだった。 競馬の予想は仮説を立てて、検証する作業だ。ミステリーを読み進めるのに確かに似ている。天候や騎手、展開などの情報を整理し、勝ち馬という名の「犯人」をみつける。だが、その推理が当たったとしても、残念ながら結果論に過ぎない。根拠たる根拠はない、ただただ非合理的な世界であり、その非合理性が僕を惹きつけた。 「環境が人を育てる」とはよくいうが、政治家の子

    • 夏を諦めて|残暑/01 #4|安達眞弓

      いつまでも暑い。 翻訳の興が乗ると、つい寝食を忘れてしまうことがある。夏場にこのゾーンに入ってしまうと、かなりの確率で脱水を起こす。まあでも、スポドリを飲んで横になっているとおさまる程度のことだ。仕事を終えて帰るメッセージを送ってきた夫に「脱水起こしたから寝てた」と返事をすると「スポドリ買ってこようか?」と、必ず書いてくる。飲んだからいいと答えても、500mlのペットボトルを持って帰ってくる。そういう人だった。 今年、私はスポドリ救援隊のいない、はじめての夏を迎えた。

      • 名残惜しさを感じたなら|残暑/01 #3|関野哲也

        留学していたフランス・リヨンの街を、ローヌ川が流れている。この川のように、ゆっくりと時間の流れるその街が、わたしは好きだった。 フランス北部に位置するメッス大学で、哲学の学士・修士号を取得したのち、フランス南部のリヨン大学へ移り、いよいよ博士論文の準備に入った。フランスの哲学者であるシモーヌ・ヴェイユ(1909-1943)について研究する日々が始まったのだ。 ところが研究は、まるで暗闇を歩くようでなかなか見通しがつかず、総じて苦しいものだった。けれど、どうしても知りたいと

        • 抵抗の快楽|残暑/01 #2|山下陽光

          2024年8月31日のこと 1. おはようございますリビング文学 2. 昨日は起きて、朝ごはん食べてから、アトリエ部屋で締切原稿を書く。こんなもんかなと、とりあえず放置して、散らかり部屋を片付ける。 3. 9月3日から始まる山下陽光のおもしろ金儲け実験室という展覧会が三軒茶屋の生活工房でありまして、そこに1トンくらいの荷物を運んだんです。 4. よくもまぁそんな荷物があったなぁと、加工前の古着や布がほとんどで、そこにミシンを持ち込んでバイトの子も出勤してもらって、職場

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        ツインターボ、あの夏の暴走賛歌|残暑/01 #5|栗下直也

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          静寂から目を移す|残暑/01 #1|鰐部祥平

          夏は地上が最も賑わい輝く季節だ。木々が青々と茂り、草花が咲き乱れ色彩が増した大地を冬とは比べ物にならない光が明るく照らし、空の青さは底が抜けたような深みを増す。そんな青い空を真綿のような白い入道雲が縁取り美しいコントラストを演出している。また視覚だけでなく音も賑やかだ。昼夜問わず蝉の鳴き声が鳴り響き、時にはうるさいくらいだ。こうした夏の景色は毎年同じように繰り返されるが、何度見ても心が沸き立つような感覚を与えてくれる。 少年の頃の私はとにかく昆虫が好きで、夏になると虫取り網

          静寂から目を移す|残暑/01 #1|鰐部祥平

          私たちのこと|MARGINAL NOTES

          ※ MARGINAL NOTES は、編集者と五人の執筆者によるWEB ZINEです。毎月一つの主題で、各執筆者が随筆を寄稿します。 声明 自身の「読みたい欲望」に従うことにした。 このひとの文章を読みたい。 このひと自身のことを読みたい。 五人の書き手に声をかけ、毎月随筆を書いてもらうことにした。公開されている彼らの文章は多くない。しかし、強烈に私の「読みたい欲望」を呼び覚ます文章を書く人たちだ。MAGINAL NOTES とは「傍注」の意味だ。 二十代で編集者にな