MARGINAL NOTES:周辺から考えたこと【9月1日 創刊】

五人の名文家と一人の編集者の Web ZINE。お題は月替わり。あなたも、私も、生きている。

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氷河期世代ど真ん中の楽観主義|運/03 #5|栗下直也

《人は悲惨だと思ったときに初めて悲惨になる。こだまでハイボールを飲みながら己の「運」について考えた》 平日の午後に新幹線のこだま号に乗り、京都から東京に戻っている。ハイボールを飲みながら、ノリ弁を食べ、1円にもならないこの原稿を書いている。 「何と僕は運が良いのだろうか」と続きを書きかけたが、果たして、「新幹線に乗りながらハイボールを飲み、金にならない原稿を書くこと」は運が良い人生なのだろうか。 文章を書くのが苦手な人からすれば「酒飲みながら文章を書くとか変態かよ」と笑

    • ペシミストは朝、泣く。|運/03 #4|安達眞弓

      《ペシミストだけど、「まあいいか」なところもある。ペシミストの己を懐かしむ若き日の1コマ》 【お知らせ】:安達眞弓の最新訳書『異性愛という悲劇』(ジェーン・ウォード著/トミヤマユキコ解説/太田出版)は、11月21日発売。 親譲りのペシミストで、子供の時から損ばかりしていた。 母は豪放磊落を絵に描いたようなタイプなのだが、めちゃくちゃ悲観的な人だった。たとえば大学受験を控えていた娘のわたしに「落ちた時のことを考えて勉強しろ」と、繰り返しふきこんできた。親からそんな暗示をか

      • コインを投げる:「運がわるい」は「運がよい」に裏返せる|運/03 #3|関野哲也

        《病気、仕事、人間関係……すべてがままならなかった哲学者・関野哲也。絶望での決意表明が本の出版に繋がった》 「運がよかった」と思えたことがある。想像すらしていなかった出来事だ。それは、Twitterを始めた1年後に、書籍の編集者さんに見つけてもらい、本を出版できたこと。 今から3年前、わたしは福祉施設の新規オープンにたずさわっていた。上司に頼まれ、施設用のTwitterのアカウントを作った。それをきっかけに、自分でも個人のアカウントで哲学的なことを呟いてみようと思いついた

        • 成功してる奴に限って「運が良かっただけ」、とか言う現実について 03 #2|山下陽光

          《環境をいい感じに整えたほうが運が良くなるだろうけど、いい感じに整えられる奴はそもそも成功してる奴じゃない?という話から》 【お知らせ】:「山下陽光のおもしろ金儲け実験室」は生活工房ギャラリーにて12月26日まで。 うん、うん、運? うん、うん、運ですよ、今回のテーマ。 なんだろな、運がいいかどうか、言いたくなるし、成功してる奴に限って、たまたま運が良かっただけ、自分は何もやってなくて、人に恵まれてた感謝! 皆さんのおかげです。 こればっかりで、そうかもしれんし、そうじ

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        氷河期世代ど真ん中の楽観主義|運/03 #5|栗下直也

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          2本

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          素行が悪かった私は、なぜ書評家になれたか|運/03 #1|鰐部祥平

          《中卒で素行も悪かった鰐部祥平。なぜ本を読むようになり、書評家としてデビューできたのか?》 運に関する研究では社会学者のダンカン・ワッツらが行った「ミュージックラボ」と呼ばれる実験が有名だ。48組のインディーズバンドの代表曲を載せたウェブサイトを作り、訪れた人にどのくらい気に入ったかを評価することを条件に、曲をダウンロードできるようにする。ダンカン・ワッツはまずそれぞれの曲の「客観的」な良さを知るために、得られた評価の平均点を算出する。「客観的」とは人々が他者の評価を見られ

          素行が悪かった私は、なぜ書評家になれたか|運/03 #1|鰐部祥平

          酒場が学校だった時代に|学校/02 #5|栗下直也

          《酒場をめぐる風景が変わりつつあるのは、時代のせいか、個人の人生のせいか》 英国の詩人のバイロンは「酒場が学校だった」と書いたが、僕にとっては会社の飲み会が学びの場だった。 人よりも長い学生活を終えて、業界紙を発行する会社に入ったのは2005年だった。25歳だった。当時、日本の会社は飲み会文化がまだ健在だった。旧態依然とした業界だったからか、新年会に忘年会、花見に社員旅行と理由をつくっては飲んでいた。社内イベントがあれば打ち上げと称してとりあえず飲んだ。考えてみれば、何も

          酒場が学校だった時代に|学校/02 #5|栗下直也

          寺子屋とカタパルト|学校/02 #4|安達眞弓

          《自分で選び取った学校に進んで、プロの翻訳家になった。挫けそうなときにそばにいてくれた存在とは》 小学校をみっつ、中学校をふたつ。父親の転勤で日本各地を渡り歩いた。高校と大学は父親の望んだ名門校には行けず、「馬鹿」と呼ばれて人間扱いされなかった。だからだろうか、親がかりで通ったところではなく、自分で働いて学費を払った翻訳学校に愛着がある。わたしが選んだ、わたしの母校だ。 その学校は「寺子屋」と呼ばれていた。 寺子屋は少人数制だ。ひとクラスに受講生が10人もいれば大所帯で

          寺子屋とカタパルト|学校/02 #4|安達眞弓

          私淑する|学校/02 #3|関野哲也

          《勉強を学ぶだけの場ではない。生き方や学びに対する姿勢を教えてくれた恩師のこと》 高校一年生のとき、クラスで下から二番目になるまで成績が落ちた。 勉強をしなかったからである。わたしは高校の寮にはいっており、夜は先輩のマッサージや身の回りのお世話に忙しかった。夜の自習時間は一時間半あったのだが、そのあいだに勉強できた記憶はほとんどない。先輩のためにコーヒーを入れたり、ラーメンを作ったり、先輩に話しかけられたり、とにかく集中できない。加えて、人の三倍努力しなければ何ごとも身に

          私の中に安倍が居る。蓮舫とオレ敗退/学校 02 #2|山下陽光

          《ネットとリアルの人気差とは? 展示「山下陽光のおもしろ金儲け実験室」にて考え中》 2024年9月29日のこと 1. おはようございます庭文学 2. 昨日はフリマで買った物を買った値段で転売する日。 3. こんな嬉しい出来事って無いと思うんだけど、思ってたよりも売れなかった。 4. なんでかな? 5. 売れそうなものは売れたけど、それでもたくさん残ってて、買った物が尖りすぎてたのか?とか思ったんだけど、そうじゃなくて、途中でやめる買いたいけどネットはいつも即完売だ

          私の中に安倍が居る。蓮舫とオレ敗退/学校 02 #2|山下陽光

          「起立、礼、着席」さえ苦痛な子どもだった|学校/02 #1|鰐部祥平

          《羞恥心を抱かせ子を支配しようとした教師と、集団生活がどうしても苦手だった自分のこと》 学校が嫌いだった。とにかく私は学校というものが好きにはなれなかった。別にイジメられていたわけではないし友達がいなかったわけでもない。しかしとにかく学校が嫌いだった。 まず理由の半分は私の性格の問題であろう。私は基本的に協調性が著しく欠けており集団行動が苦手なのだ。「起立、礼、着席」といった授業が始まる前の集団行動さえ苦痛なほどで、運動会の練習で行われる行進やら、朝礼での整列やらは、いま

          「起立、礼、着席」さえ苦痛な子どもだった|学校/02 #1|鰐部祥平

          ツインターボ、あの夏の暴走賛歌|残暑/01 #5|栗下直也

          「競馬は人生の縮図だ。これほど内容の詰まったミステリー小説は、ほかにない」といったのは小説家のアーネスト・ヘミングウェイだった。 競馬の予想は仮説を立てて、検証する作業だ。ミステリーを読み進めるのに確かに似ている。天候や騎手、展開などの情報を整理し、勝ち馬という名の「犯人」をみつける。だが、その推理が当たったとしても、残念ながら結果論に過ぎない。根拠たる根拠はない、ただただ非合理的な世界であり、その非合理性が僕を惹きつけた。 「環境が人を育てる」とはよくいうが、政治家の子

          ツインターボ、あの夏の暴走賛歌|残暑/01 #5|栗下直也

          夏を諦めて|残暑/01 #4|安達眞弓

          いつまでも暑い。 翻訳の興が乗ると、つい寝食を忘れてしまうことがある。夏場にこのゾーンに入ってしまうと、かなりの確率で脱水を起こす。まあでも、スポドリを飲んで横になっているとおさまる程度のことだ。仕事を終えて帰るメッセージを送ってきた夫に「脱水起こしたから寝てた」と返事をすると「スポドリ買ってこようか?」と、必ず書いてくる。飲んだからいいと答えても、500mlのペットボトルを持って帰ってくる。そういう人だった。 今年、私はスポドリ救援隊のいない、はじめての夏を迎えた。

          名残惜しさを感じたなら|残暑/01 #3|関野哲也

          留学していたフランス・リヨンの街を、ローヌ川が流れている。この川のように、ゆっくりと時間の流れるその街が、わたしは好きだった。 フランス北部に位置するメッス大学で、哲学の学士・修士号を取得したのち、フランス南部のリヨン大学へ移り、いよいよ博士論文の準備に入った。フランスの哲学者であるシモーヌ・ヴェイユ(1909-1943)について研究する日々が始まったのだ。 ところが研究は、まるで暗闇を歩くようでなかなか見通しがつかず、総じて苦しいものだった。けれど、どうしても知りたいと

          名残惜しさを感じたなら|残暑/01 #3|関野哲也

          抵抗の快楽|残暑/01 #2|山下陽光

          2024年8月31日のこと 1. おはようございますリビング文学 2. 昨日は起きて、朝ごはん食べてから、アトリエ部屋で締切原稿を書く。こんなもんかなと、とりあえず放置して、散らかり部屋を片付ける。 3. 9月3日から始まる山下陽光のおもしろ金儲け実験室という展覧会が三軒茶屋の生活工房でありまして、そこに1トンくらいの荷物を運んだんです。 4. よくもまぁそんな荷物があったなぁと、加工前の古着や布がほとんどで、そこにミシンを持ち込んでバイトの子も出勤してもらって、職場

          静寂から目を移す|残暑/01 #1|鰐部祥平

          夏は地上が最も賑わい輝く季節だ。木々が青々と茂り、草花が咲き乱れ色彩が増した大地を冬とは比べ物にならない光が明るく照らし、空の青さは底が抜けたような深みを増す。そんな青い空を真綿のような白い入道雲が縁取り美しいコントラストを演出している。また視覚だけでなく音も賑やかだ。昼夜問わず蝉の鳴き声が鳴り響き、時にはうるさいくらいだ。こうした夏の景色は毎年同じように繰り返されるが、何度見ても心が沸き立つような感覚を与えてくれる。 少年の頃の私はとにかく昆虫が好きで、夏になると虫取り網

          静寂から目を移す|残暑/01 #1|鰐部祥平

          私たちのこと|MARGINAL NOTES

          ※ MARGINAL NOTES は、編集者と五人の執筆者によるWEB ZINEです。毎月一つの主題で、各執筆者が随筆を寄稿します。 声明 自身の「読みたい欲望」に従うことにした。 このひとの文章を読みたい。 このひと自身のことを読みたい。 五人の書き手に声をかけ、毎月随筆を書いてもらうことにした。公開されている彼らの文章は多くない。しかし、強烈に私の「読みたい欲望」を呼び覚ます文章を書く人たちだ。MAGINAL NOTES とは「傍注」の意味だ。 二十代で編集者にな