#285「ビジネス頭の体操」 今週前半のケーススタディ(4月26日〜4月28日分)
はたらくおとな向け。普段の仕事と無関係なケーススタティで頭の体操。
その日にちなんだ過去の事象をビジネス視点で掘り下げています。
普段の仕事を超えて、視野を広げ、ビジネスの頭の体操をするのにぴったり。
考えるための豊富な一次情報やデータもご紹介。
→部分は、頭の体操する上での自分に対する質問例、です。
4月26日(月) 中国の研究開発費、20年で○○倍!?
世界知的所有権機関(WIPO)が2000年に制定した、世界知的所有権の日(World Intellectual Property Day)です。
1970年のこの日、「世界知的所有権機関を設立する条約」が発効し、同機関が発足したことに因みます。
知的所有権。
国としても重要な分野として取り組んでいますし、当然企業としても研究開発の上、特許取得などを通じて守ろうとします。
実際、どれくらいの特許が申請されているのでしょうか?
特許庁が公表している「特許行政年次報告書2019年版」の「出願年別でみる特許出願・審査請求・特許登録等の推移」によると、特許の出願件数は2004年から減少傾向ですが、特許の登録件数は2004年の15.5万件から2013年18.3万件と増加しています。これは、出願するときに厳選することが浸透していることを示します(下図)。
次に、世界の特許の出願・登録件数の推移を見てみましょう(下図:出典同)。共に増加を続けており、2008年と2017年を比較すると約1.5倍以上になっていることが分かります。
グローバルな時代ですので、日本だけ特許が認められても海外市場で知的財産が保護できない場合があります。一方で、各国に個別に出願するのは大変な手間がかかります。
それを解消するために、PCT国際出願制度というものがあります。これは、特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願のことで、ひとつの出願願書を条約に従って提出することによってPCT加盟国である全ての国に同時に出願したことと同じ効果を与える出願制度です(特許庁HP)。
そのPCT国際出願制度を使った国別の出願件数の推移がこちら。中国が急激に増えており、日本を上回ったことがわかります(出典同)。
ここまで特許出願件数、という数の面を見てきました。
気になるのは質の面です。
特許を出願するに至るには、多くの場合研究開発があるでしょう。文部科学省の「科学技術指標2020」に「主要国の研究開発費総額の推移」のデータがありましたのでご紹介します(下図)。
2018年の日本の研究開発費総額は17.9兆円(OECD推計)で、対前年比は2.3%増でした。アメリカは60.7兆円(対前年5.1%増)で1位を維持しているものの、中国の伸びは突出していますね。2018年では58.0兆円(同10.3%増)です。
ドイツと韓国も目立たないですが増加しています。
研究開発費を投入した成果の1つが論文でしょう。
国別論文数上位25ヵ国の推移を見てみると(下表)、これをみると、日本は論文数では2位→3位→4位と減ってはいるものの一定の存在感があります。研究開発費を急増させていた中国は、9位→2位→2位とその効果が伺えます。
とはいえ、質はどうでしょう?
質をみる1つの手法に論文がどれだけ他の論文に引用されているか(補正論文数)という指標があります。以下は引用数がTop1%の論文の数の推移ですが、日本は4位→7位→9位となってしまっています。
アメリカは常に1位というのはさすがですが、中国も16位→6位→2位と伸ばしています。
アメリカが中国を意識するのも分かりますね。
さて、こうして蓄積した知的財産ですが、企業にとって肝心なのはどれだけ稼げるか、です。
マクロでの目安のひとつとして、貿易収支があります。
医薬品、電子機器、航空・宇宙の3つの産業を「ハイテクノロジー産業」、化学品と化学製品、電気機器、機械器具、自動車、その他輸送、その他の産業を「ミディアムハイテクノロジー産業」と定義し、それぞれについて、貿易収支比の推移データ(「主要国におけるハイテクノロジー産業の貿易収支比の推移」)がありましたのでご紹介します(下図)。
これをみると、11990年代前半は日本の春、だったんですね…
現在は「ハイテクノロジー産業」ではマイナス、つまり、貿易収支赤字、になっています。「ミディアムハイテクノロジー産業」では、まだ日本の優位は健在です。
「ジリ貧」感を感じてしまうチャート、ですよね…
なんとなく過去の成功体験が偉大すぎて大きく方向転換できないまま、過去の遺産を食い潰しているようにも見えます…
→過去数年、日本人のノーベル賞受賞者ラッシュがあった。多くの技術開発や発見がその瞬間よりも一定期間経過後に評価されることを考えると、不安になる。過去分も含めた特許を最大限活用すればまだ競争力に繋げることは可能だと思われるがどのような方法が考えられるだろうか?
4月27日(火) 箱根駅伝放送のスポンサーは10億円支払っているが、選手には一銭も入らない!?
1917年のこの日、京都・三条大橋から東京・上野不忍池までの508kmを3日間かけて走る東海道五十三次駅伝競争が行われた、「駅伝誕生の日」です。
駅伝。
もっとも有名な駅伝といえばやはり箱根駅伝でしょう。
関東の大学しか出れないというものを取り上げるのもやや気が引けますが今回は箱根駅伝の主に経済面について調べてみました。
1920年に始まった箱根駅伝ですが、これだけメジャーになったのは、1987年に日本テレビが中継を始めた頃からとされています。
現在では平均視聴率20〜30%という人気コンテンツです。ちなみに2021年の視聴率は往路が31.0%、往路が33.7%といずれも歴代1位だったそうです(コロナ禍で沿道での応援ではなくTV観戦を推奨したこともあるようです)。
さて、これだけの人気コンテンツ、しかも正月の2日間に渡って朝8時のスタート前から午後2時までという長時間(野球やサッカーと比べても長いですよね)というのは広告効果も高いでしょう。
公表されていないので正確には分かりませんが、中継当初からメインスポンサーであるサントリーのスポンサー料は10億円とも言われています。
これだけの人気コンテンツ、通常プロスポーツであれば当然その放映権料などを受け取った競技団体から選手や参加チームに還元されますが、箱根駅伝はないそうです。
昨年これを、「箱根駅伝の財務内容を明らかにしませんか」とオリンピアンである為末大さんがSNSに投稿して話題になりました。もちろん何の開示もされなかったそうですが、確かにどうなっているんでしょうね?
それとは別の動きとして、2019年12月にWA広告規程が改定されたことを受けて日本陸連でもユニフォームへの広告の表示が2020年4月から認められることになりました。認められる範囲は以下の通りです(下図、日本陸連「競技会における広告及び展示物に関する規程」)。
さて、この「広告枠」の価値について、スポーツスポンサーシップに係るコンサルティングを提供する株式会社Eraが、TV中継で映る時間とTVCMのコストとを比較する形で算出を試みています。
それによると、箱根駅伝の出場チームに広告を出す効果は約7千万円だそうです。
ちなみに、実際の相場は数百万円から1千万円と言われているそうですので、費用対効果は高いと言えそうです。
実際には、
☑️ 青学は合宿でお世話になっている妙高市に100万円
☑️ 東洋大学は18年から麦茶を提供している伊藤園の健康ミネラル麦茶
☑️ 明治大学は「カーボローディング」に「サトウの切り餅」を使っていたことから「サトウのごはん」
☑️ 法政大学は20年前から支援を受けていたビルメンテナンス会社の「郵生」
という感じでこれまでのご縁から、というのが多かったようです。
なお、東洋大学、明治大学のスポンサー料は非公開、法政大学はこれまでの恩返しで、無料、ということです。
箱根駅伝のおカネの流れについてはかなり分かりやすく紹介しているnoteがありましたのでご紹介させて頂きます。
最後に、出場する大学にとっての効果の一つである出願者数の増加、ですが、東洋大学の初優勝により大幅に増えた、という報道が多い中、実際に受験者数は増えたが、それは大学が都心にキャンパスを移転するなどした影響だ、と冷静に分析(以下等)して無関係、と結論を出している論文「箱根駅伝優勝による大学評価への影響について」をご紹介します。
→学生スポーツだから、確かに手弁当だろう。一方で、強豪校は長期に渡って合宿したり用具を揃えたりすることで費用がかかるのは事実である。今回の広告枠の解禁は一歩だが参加校や選手に何らか還元できるスキームは他にどんなことが考えられるだろうか?
4月28日(水) 飲料の容器はPETボトルが◯割!?
1954年のこの日、明治製菓が日本初の缶ジュース・明治オレンジジュースを発売した、「缶ジュース発売記念日」です。
缶ジュース。
そういえば最近みかけないですね。ペットボトルばかりで。
今回は、中身ではなく容器について調べてみました。
まず、清涼飲料市場の規模ですが、富士経済の調査によると、2019年見込で5兆2,212億円となっています(下図)。
これに対する容器の内訳ですが、一般財団法人全国清涼飲料連合会の「2019年容器別シェア(生産量ベース)」によると、なんと、4分の3はPETボトルで、缶は2位ではあるものの、11.9%となっています(下図)。多いとは思っていましたがこれほどとは…
昔は缶も多かったと思うのですが、いつ頃からこれほどのシェアになったのでしょうか?
同連合会の「容器別生産量推移」というデータでは2010年からの推移が分かります(下図)。
2010年にはすでに圧倒的、で、さらに差が開いた、ということが分かります。
2010年以前のデータとして、社団法人全国清涼飲料工業会の「清涼飲料におけるリユース製品の現状と課題」にデータがありましたのでご紹介します(下図)。
これによると、1993年には圧倒的に缶が多かったのですがPETボトルが逆転したのが、2000年です。以降はその差が開く一方だったことが分かります。
なぜこれほどPETボトルが伸びたのでしょうか?
ちょっと調べてみたのですが、はっきりしたことは分からないのですが、
☑️ 炭酸飲料が増えたことで圧力に耐えられるPETボトルが増えた
☑️ 蓋が閉まるという点で一度に飲み干さなくて良い利便性でPETボトルが増えた
☑️ メーカー側の差別化意向としてデザインの自由度が高いPETボトルが増えた
といったところが考えられます。
もう一つ大事な観点としてリサイクル性の高さがあると思います。
本日のテーマである缶はスチール缶とアルミ缶に分かれます。
素材別にリサイクル協会が設けられています。まず、スチール缶リサイクル協会によると、2019年度のスチール缶リサイクル率は93.3%となっています(下図)。
次にアルミ缶リサイクル協会によると、2019年度のアルミ缶リサイクル率は97.9%となっています(下図)。
両方とも9割を超える水準で推移していてリサイクル性は高いことが分かります。
他の素材はどうでしょうか?
スチール缶リサイクル協会で他の素材のリサイクル協会が公表しているリサイクル率をまとめた表がありましたのでご紹介します(下図)。
PETボトルは84.6%(2018年度)となっていて思った以上に高いものの、スチール缶、アルミ缶に比べると低い水準になっています。
こうしてみると、PETボトルのシェアが圧倒的なのはもっぱら利便性、なのでしょうか?
→利便性とリサイクル性、常に問題となるが、近年の傾向では多少利便性を犠牲にしても環境を重視、というものだ。一方で、こうした身近な消費財では利便性を選んでいるように思える。こうした消費者の動きをマーケティングで解決することは可能だろうか?
最後までお読みいただきありがとうございました。
「知財」では具体的数字で改めて中国の勢いを認識するとともに、1990年代の日本の凄さも確認できました。
「駅伝」では学生スポーツという建前で隠されてしまっているものの10億円を超える資金が絡むビックイベントとなった箱根駅伝の姿と広告スペースの解禁という話題でした。
「缶ジュース」では、PETボトルの隆盛と環境問題と消費者の利便性とのバランスの難しさを再認識しました。
こうした「頭の体操」ネタを昨年7月から続けています。
だいぶ溜まりました。よろしかったら見てみてください。
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