#267「ビジネス頭の体操」 今週後半のケーススタディ(4月8日〜4月9日分)
はたらくおとな向け。普段の仕事と無関係なケーススタティで頭の体操。
その日にちなんだ過去の事象をビジネス視点で掘り下げています。
普段の仕事を超えて、視野を広げ、ビジネスの頭の体操をするのにぴったり。
考えるための豊富な一次情報やデータもご紹介。
→部分は、頭の体操する上での自分に対する質問例、です。
4月8日(木) 少子化で苦しんでいるかと思いきや…!?
学習参考書を出版する出版社で組織する学習書協会が1984年(昭和59年)に制定された「参考書の日」です。
「花祭り」の日であり、全国的に入学式が行われるこの日が選ばれた。参考書の大切さを知ってもらうことが目的。
参考書。
少子化も進んでいるし、市場としては縮小傾向なのでしょうか?調べてみました。
調べてみると、確かに書籍市場自体は減少傾向ですが、昨年、2020年は対前年でプラスとなっていました。
公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所によると、2020年の電子版も合わせた出版市場規模は前年比4.8%増の1兆6,168億円。紙が1.0%減だったのに対し電子版が28.0%増と大きく伸びた結果です(下図)。
原因としてすぐに思いつくのが「鬼滅の刃」効果でしょう。実際、コミックス(単行本)は約24%の大幅増です。
今回のテーマである学習参考書も、昨年3月の臨時休校を受け、大幅に伸びました。
楽天ブックスの部門別売上ランキングによると、2020年2月には7位だった「語学・学習参考書」が、3月には5位、そして4月には1位となっています(下図:出典楽天ブックス)。
中でも、小学校低学年向けのドリルが伸びたようで、2020年4月の語学・学習参考書ランキングでは、トップ10に8冊もランクインしています(下図:出典同)。
これはあくまで楽天ブックスだけのデータですが、学習参考書を中心に扱う出版取次の以下のような話が紹介されていましたので、全体としても伸びたことは間違いないようです。
「先生たちが宿題も渡せず、春休み中に何をしなさいという指導もできないままいきなり学校が休みになってしまった。単月の計算ではありませんが、参考書の売り上げは前年度比200%を超えているお店が結構あります。そこまでじゃなくとも、120%、130%の伸び率がザラです。32年間この仕事をしていますが、こんなことは初めてで、特需と言える状況です。まとめ買いが多いので、先週は売り切れて商品がないという書店が多かった。今週に入ってある程度商品が書店に並び始めていますが、先週参考書を手に入れられなかった子だけでなく、手に入れていた子たちも1冊やり終えてしまって追加で買っているという状態です」
昨年の特殊事情を除くと、やはり少子化の影響を受けているのでしょうか?
出版科学研究所「出版指標年報」によると、実は、学習参考書市場規模は、2011年から7年連続で成長しているのです。
2018年は前年比5.9%減の457億円となりましたが、これは、前年に大ブームを巻き起こした小学生向け「うんこ漢字ドリル」が落ち着いた影響です。
書店POSデータ(金額ベース)では、2011年6%増、12年3%増、13年2%増、14年6%増、15年7%増、16年4%増、17年8%増となっています。
これには以下の4つのポイントがあると、プレジデントオンラインの記事で分析しています。
☑️「やり切れる」ように量を絞る
☑️ 人気アイドル、ブランド、キャラとの「コラボ」
☑️「机に向かう」を前提にしない
☑️ 暗記以前の「学び方」を教える
縮小する市場でどう売上を作っていくか、他のビジネスにも役立ちそうな記事の内容ですのでご一読ください。
また、なんといっても一大ブームを巻き起こした「うんこ」シリーズ。昨年の6月時点で累計550万部を達成しています。単価980円換算で約54億円の売り上げです。
日経トレンディネットで「生みの親」古屋雄作さんの取材記事がありました。「『うんこ川柳』の本を作りたかったのがスタート」、という、なんとも規格外の発想がうかがえます…
→「児童書」「学習参考書」ともにユーザー(子)と購入者(親)が異なるが、どのようなマーケティング上の工夫がされているのだろうか?
4月9日(金) 世界における日本の美術品市場のシェアは?
1667年のこの日、フランス・パリで世界初の美術展が開催されたことを記念した「美術展の日」です。
フランスの王立アカデミーが、アカデミー会員の作品を一般公開したが、当時の人はあまり関心を示さず、反応はいまひとつ。美術は王侯貴族のものであって、大衆にはそんな余裕はなかったことが理由。
美術展。
昨年は感染症の影響もあり中止や縮小といった影響もありましたが、日本は世界の著名な作品が企画展などでみられる、世界有数の国でもあります。
美術年鑑社の「展覧会入場者数BEST30」2019年版によると、美術展で最も入場者数が多かった「塩田千春展」(森美術館)で66万人ですが、次に多い「クリムト展」(東京都美術館)57万人、「フェルメール展」(大阪市立美術館)54万人、「ゴッホ展」(上野の森美術館)45万人という感じで、上位に入るのは海外の所蔵品の企画展が多くなっていることでも分かります。
これら美術館・博物館の入場料は434億円(2019年)となっています。
これだけ美術に関して興味関心が高い国であれば、美術品のマーケットでもそれなりの地位を占めていそうですが、そうではありません。
文化庁と一般社団法人アート東京とが毎年公表している「日本のアート産業に関する市場レポート2020」によると、2019年の世界の美術品市場規模は641億ドル(約7兆円)。日本の美術品市場は2,270億円でシェア3.2%と推計されます(下図)。
中国がアメリカ、イギリスに次いで3位というのも勢いを感じるデータです。
なお、日本と世界の推計方法が異なるためあくまで参考ですが、世界のデータ、Art Basel & UBS「The Art Market 2019」では、国別で日本は登場していないことからも、スペインより小さいと思われ、その存在感はないに等しいことがわかります。
これについては面白いデータがありました。
「過去3年間に美術品を購入した方」と「過去1年間に博物館・美術館を多く訪問した方」の重複は少ない、というものです。
つまり、美術展の愛好者の増加が美術品購入者の増加にはつながるとは限らないということです。
これは個人的な感想になるのですが、日本人は(ってまとめるのは良くないのは承知していますが)、海外のものや既に評価の定まっているものをありがたがる傾向が強く、まだ無名だったり評価が定まっていないものを自分の判断で評価する、というのは苦手な傾向があると思います。
となると、国内外の評価が定まった著名な画家や作家の作品の展覧会は数千円の入場料を支払っても見てみたい、と思うものの、通常、個人が購入できるような価格帯の美術品は評価が定まってないことが多いですが、それを仮に気に入ったとしても数十万円数百万円で購入する、というのはハードルが高いのではないでしょうか。
さて、この「日本のアート産業に関するレポート」は毎年公表されているのですが、毎年違った切り口で興味深い分析をしています。今回は2018年の同レポートから1つご紹介します。
2018年は山口周さんの「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」が出た翌年ということもあり、「ビジネスとアートの関係性に特に注目が集まった年」として、アンケートの回答者の中から「国際経験豊かな」「首都圏在住の20代-50代の就労者」「過去1年間に2回以上美術館・博物館に訪問した」という条件に当てはまる「国際経験豊かなビジネスパーソン」を対象に分析しています。
まず、日本全体では16%に留まる美術品購入経験ですが、なんと半数が購入経験あり、と答えています。そして、購入経験がない方でも3割は関心を持っているのです(下図)。
さらに、一般の方には敷居が高いであろう、画廊、ギャラリーには約半数、アートフェアには3割強の方が過去1年の間に訪問しています(下図)。
そして、芸術に関する価値観では、2016年に一般の方に対して行ったものと同じ設問に対して行い、比較を行っています(下図)。
いずれも多くなっているのですが、以下の2つの質問で最も差が大きくなっています。
☑️ 芸術的視点は産業競争力の強化において重要である
☑️ 芸術的視点はあなたの仕事において重要である
なんとなく山口さんの本に影響されているのかなぁ、という気はしないでもないですが…
最後に、展覧会、というテーマに戻って、アンケート対象者全員に尋ねた、過去1年間に訪問したミュージアムをご紹介します(下図)。
東京ばっかりですね…
一応全国の方が対象の調査ですが、首都圏が4割ぐらい占めているのでどうしてもこうなるのでしょう。地方にも魅力的な美術館はたくさんあるのですが。
→美術展好きだが、美術品は買わない理由には、先ほどあげた筆者の個人的見解以外にも理由はあるはず。市場を広げるとしたらどのような対象に、どのようなプロモーションが考えられるだろうか?
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考書は○○○なんて言葉をnoteに書くことになるとは思いませんでした…
美術展は混む企画展は避けて空いている常設展に行くのが好きなのですがそれも1年行ってません…買っちゃうっていうのもありなんですね。
何か「へぇ〜」と関心を持って頂けるところがあれば嬉しいです。
昨年7月からシリーズで続けておりだいぶ溜まってきました。
興味のある話題が必ずあると思います。
よろしければご覧いただければ。