- 運営しているクリエイター
記事一覧
黒山家の秘密 第一話
ずっと疑問だった。俺の両親は、どんな人だったのだろう。
婆ちゃんは、俺の両親の話を一切しなかった。
きっと、幼い俺を捨ててどこかへ行ってしまったことに怒ってるんだろう、と思う。
俺はばあちゃんが大好きだ。ちょっと素っ気ないけれど、両親がいない分、たくさんの愛情をくれた。
入学式の時はたくさん写真を撮ってくれたし、運動会の時は大きな弁当箱に俺の大好きなおかずをたくさん詰めてくれて、卒業式の
パンジー商店の福福兄弟 第2話
猫麻呂は言った。
「十二支のうちの寅の力・・・・・・先ほどの虎の子は、その力そのものなのだ」
「十二支? 寅・・・・・・? 猫麻呂、話が見えないんだが」
幸申は頭を抱える。何のことかさっぱりだ、と言いたげに。
「ここ十二支ヶ丘は、かつて大妖怪が暴れ、封じられた場所・・・・・・その封印が、この時代に破られようとしているのだ。十二支の力は、封印を再び施すために人間と協力する必要がある」
「寅の力が
黒山家の秘密 第二話
婆ちゃんが消えてしまった後、俺はその場でただうずくまっていた。
かけらひとつさえ消えてしまった婆ちゃん。どうして、どうして。夕方の春風の冷たさが、体に染み渡っていく。
『ユウイチ・・・・・・』
ラピスの声が、頭に反響する。彼女の声に、悲しみがにじんでいた。
「おい、お前」
「・・・・・・?」
声のする方へ振り返ると、そこにはーー
「妖を浄化するとは・・・・・・お前、十二支の力を授かったん
黒山家の秘密 第三話
夢を見た。小さい頃の夢だ。
俺がまだ小さい頃、誰かと一緒にいたときの夢。
あの後ろ姿は、婆ちゃんじゃない。
……君は、誰だ?
目を開けると、俺の布団をのぞき込むように白い馬が立っていた。大きな鼻で俺の顔のにおいを嗅いでいる。
「お目覚めかい?」
「ぎゃっ!?」
俺は思わず布団を蹴っ飛ばし、まくらを盾にした。何、どういうことだーー!?
「あはは! 驚きすぎじゃないかい?」
「う、馬がし
黒山家の秘密 第四話
「イヤッ離して!」
「はー? なんなのアンタ、ちょーウザ」
裏庭の人目につかない木々の影で、理花が数人のヤンキーに絡まれていた。
そのうちの一人が、理花の髪を乱暴につかむ。
「ちょっと可愛いからって、チョーシに乗ってんじゃないワヨ!」
頬を拳で思いっきり殴る音が、辺りに鈍く響いた。
「いっ……」
「いいねいいね、やっちゃえやっチャエ!」
「なっ……!」
俺は全身の毛が逆立つのを感じた。腹の
黒山家の秘密 第五話
理花を保健室のベッドに寝かせて、俺はふうと息をつく。
咲楽さんは理花の頭を優しく撫でていた。理花の傷は驚くほどキレイさっぱり治っていて、俺は驚いた。あとは、目覚めるのを待つだけだーー
「さっきの妖は「魑魅魍魎(ちみもうりょう)」と言ってね。まあ簡単言えば小さな妖達の集合体みたいなものなんだ。普段は大人しいんだけれど……」
そう言って、咲楽さんは窓辺へと移動した。指先がガラスに触れる。窓からは桜
黒山家の秘密 第六話
「え、えーと。先輩達は……」
やっと解放してもらえた。押さえられていたところが、まだじんじんと痛い。
女子の先輩は俺の方を興味深げにじっと見つめているが、一方で男子の先輩は俺を品定めするようにガンを飛ばしてくる……。
「貴方……朝に男の子を助けるために「戌」の力を使ってた……コよね?」
「妖以外に十二支の力を使って攻撃するのは、本来御法度なんだがな。まあ見なかったことにしてやるよ。今回は、な?
黒山家の秘密 第七話
「な、何言って……。俺は、そんな」
「私には分かる。君の心は空っぽだ。虚しいのだろう? お婆さんが消えてしまって」
「っ……」
ルリさんは真っ直ぐな言葉で、俺の心を抉る。その目は、まるで俺のそんな心を憂うようだ。
そうだ、俺はあの時から、ずっと。
「……そう、ですね。そのつもり……です」
俺は、せき止めきれない想いを吐露する。ラピスが俺の中で、静かに息をのんだ。
「婆ちゃんと、もっと一緒にい
黒山家の秘密 第八話
屋敷の中の深い深い闇で、ぼうっと人魂のように蝋燭の明かりが数個ほど浮かんでいる。
蝋燭が置かれた間に鎮座するように、複数の「モノ」がいた。
皆それぞれが人の形を成しているが、何本もの長い尾があるモノ、耳まで口が裂けたモノ、人と言うにはあまりにも大柄で角があるモノーーそして いつもは鬼の面を付けている、青の着物を身につけた男が姉様の隣に控えていた。
「おや姉様。義秋様は、すでに?」
わたくし