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パンジー商店の福福兄弟 第2話

 猫麻呂は言った。
「十二支のうちの寅の力・・・・・・先ほどの虎の子は、その力そのものなのだ」
「十二支? 寅・・・・・・? 猫麻呂、話が見えないんだが」
 幸申は頭を抱える。何のことかさっぱりだ、と言いたげに。
「ここ十二支ヶ丘は、かつて大妖怪が暴れ、封じられた場所・・・・・・その封印が、この時代に破られようとしているのだ。十二支の力は、封印を再び施すために人間と協力する必要がある」
「寅の力が、大虎に助けを求めたって事か?」
「そうだ」
 はあ、と幸申は息を吐いた。やっかいなことになったーー

「おれ、協力するよ」
「おい、大虎!」
「よく分からないけど・・・・・・。兄貴、オレ、こいつの力になりたい」
「・・・・・・どうなっても知らんからな」

 大虎は湯船につかり、ふうと息を吐いた。
「なあ、寅。お前、出てこれる?」
「ぐるう?」
 軽い爆発音とともに、寅が大虎の身体から出てきた。
「協力って、具体的に何をすればいいんだ? 大妖怪って、どんなやつなんだ?」
「・・・・・・だいようかい、かなしいやつ。できれば、ふういんせずに・・・・・・ねむらせてやりたい」
「眠らせる?」
「ぐる・・・・・・」
 寅はうなると、あくびをして再び大虎の体へと消えていった。
「・・・・・・封印じゃ、だめなのか?」

「猫麻呂、寅の力ってのは、どんな力なんだ?」
「・・・・・・十二支の中でも、戦闘力が極めて高い」
「それだけか?」
「それだけと言われればそれだけだ。問題は、その力を授かった物の頭脳が重要なのだ。もしくは、他の力を持った者と連携がとれるかーー」
「詳しいんだな」
「・・・・・・まあ、な」
 猫麻呂は窓から注す月の光に目を細める。
「大妖怪・・・・・・酒呑童子とは、古くからの付き合いでな。けれど、彼には眠っていてもらいたいのだ」
「眠る? 封印じゃなく?」
「そうだ、永い眠りについてほしい・・・・・・奥方様とともに」
「猫麻呂、お前は妖なのに、どうして人間に有益な情報をくれるんだ? 俺たちは、敵じゃないのか?」
「・・・・・・私は、裏切り者だからな。本当ならとうの昔に消されるべきだった」
「猫麻呂・・・・・・?」
「幸申」
 猫麻呂は、穏やかな表情で
「今宵は良い夢が見られるといいな」
 と言い、部屋を後にした。

 幸申が大虎の様子を見に行くと、彼はとうに眠りについていた。腹を出して布団を蹴っていたので、幸申は起こさないようにそっと布団をかけてやる。
 十二支の力は強く、その力を手にしたものは幸福を招くという。
 ーー大虎に幸福を招く力があるのなら、俺には災いを招く力があるんだろう。
 そう思いながら、幸申はそっとドアを閉める。
「・・・・・・気持ちよさそうに寝てんな」
 おまえのその幸せそうなツラを見てる、人の気も知らないでーー

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