二三味ゆきね(にざみゆきね)

妖怪とファンタジーが好きな人。ファンタジー小説を中心に書いてます。時々イラストやハンドメイドも。よろしくお願いします。

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マガジン

  • 十二支とボクら

    「十二支」「令和初期っぽい」「妖怪」をテーマに書いていきます。 どのお話を読むか迷った際は、メインストーリー「黒山家の秘密」をおすすめします。

  • 海と共に

    日本にあるかもしれない島で、西洋のモンスター達が出たりでなかったりするお話。

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序章 ー零ー

 靴音が響く度に、からくり人形である少女の足下の血溜まりが、小さく揺れる。 からくりの少女は笑みを浮かべ、ずるずると息も絶え絶えな術者の襟をつかんで引きずった。その術者の胸部からは血が流れていて、つんと鉄臭い。 「ねー、封印の間はこっチ-?」  少女は引きずっている術者に声をかける。だが、術者はわずかに首を振り答えない。 「ねー、こたえテヨ-!」 「……ぐ」  わざと傷に響くように、少女は背後の男の体をたたきつけるように動かした。 「あ、ここダ!」  厳かな雰囲気と、わずかに

    • 蛇女とオタクくん

       高校の入学式当日の朝、私は長くてボサボサの黒髪を剃った。  陰鬱な中学時代とおさらばしたかった私。  起きてすぐに洗面所に駆け込んで、三面鏡の前でクセ毛を少しでも長髪にするべくブローしていた。  本当はストパーをしたかったけれど、小遣いが足りなかったので諦めるしかなかった。  ふと、ドライヤーの電源を切って鏡を見る。  なぜだろう。何だかこの毛の集合体が、私から生えているのが気持ち悪くなってきた。 今まで感じた負の感情の集合体が、髪一本一本に宿っているこの感じ。  あ、そ

      • LINEスタンプ、第二弾が出ました。

        やわらかメンダコちゃんと、猫麻呂のLINEスタンプ、第二弾が出ました! 今回は猫麻呂多めです。 あいさつを中心に作りましたので、使いやすいかと思います。 よろしくお願いします。

        • 猫麻呂の記憶の断片 その3

           酒呑童子が呪いを放ったその村は、ただ一人の少女を残して滅びました。  辺りには、固く目を閉じた人々が放つ死の匂いが漂っております。 「ふむ。みな死んだか」  酒呑童子は含み笑いをして辺りを見回します。瑞雅は、目の前の惨状に冷や汗をかき、ゴクリと唾を飲み込みました。  村のいたるとこに死体、死体。背筋が凍るほどの惨状でした。  けれど瑞雅はその中にいると、段々と気分が高揚してきます。 ああ、この者達は無力で、中には自分の様に変わった人間がいると石を投げて、さげすむような者もい

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        • 十二支とボクら
          21本
        • 海と共に
          6本

        記事

          人生初、LINEスタンプを作りました。

          今回は、お知らせです。 この度、やわらかメンダコちゃんと猫麻呂のLINEスタンプを作りました。 審査が通るかドキドキしていたのですが、無事販売開始できました。 よければたくさん使ってやってください。 (実は、猫麻呂が多めな第二弾も考えていたりします……)

          人生初、LINEスタンプを作りました。

          わたしのヒーロー

           幼いわたしの手を固くにぎったその大きな手は、確かにヒーローのものだった。  小学生になったばかりのことだ。  母に連れられていったデパートの屋上で、とある看板に目が留まる。  わたしはバーゲンに夢中になっている母をその場に残して、こっそり独りである場所に向かった。  当時大好きだった、戦隊ヒーローのショーだ。  前の方の席が取れたわたしは、きちんと三角座りをしてヒーローを待ちわびる。  司会のお姉さんが挨拶をして、ヒーローを呼ぶ。  目の前に颯爽と現れた赤いスーツに身を包

          猫麻呂の記憶の断片 その2

           酒呑童子の妖力。それはとてつもなく強大であり、邪悪でした。  手頃な人間、もとい、封印の警備をしていた術者に乗り移った酒呑童子。 彼は、瑞雅(みずまさ)を小脇に抱えて歩き出します。  術者の面影はすでに消え去り、額には立派な二本の角が生えておりました。 「おい、坊主」  瑞雅を抱えた腕を振りながら、酒呑童子は低い声で唸るように言いました。 「……」  瑞雅は、全てを諦めた表情で何も言いません。だらしなく手足を地に向けて垂らし、口は真一文字に閉じています。 「

          猫麻呂の記憶の断片 その2

          猫又の記憶の断片 その1

           それは、とおいとおい、むかしむかしのお話。  あるところに、それはそれは栄えた家から逃げ出した青年がおりました。  青年は、本来その家の人間には相応しくない力を宿しておりました。  彼はその身に宿した「妖力」を疎まれ、蔑まれ、彼の母は彼を産んだことを責められました。  彼は成人する頃、自分はこの家を出ていくから、どうか母だけは許して欲しい、と父の前で泣きながら両手をつき、頭を床に擦り付けました。  その頃の母の心は荒み、もう限界でした。  ある朝、青年が目を覚ま

          きらめきのひと

           見回す限り、同じ「推し」を推す人達であふれている。  彼女が好きなもの、メンバーカラーのアイテムを手にしている人達に囲まれた場所で、私はすうっと息を吸う。  ああ、この空間がたまらなく好きだ。  会場の照明が、ゆっくりとライブ開始を告げるように暗くなる。  これから始まる瞬間への興奮と期待に包まれていたライブ会場が、しんと静まり返る。  推しの単独ライブが始まった。  推しが所属しているグループの曲を使ったイントロ映像が流れる。推しが映る度に、黄色い歓声が上がっては消えた

          「猫麻呂からお手紙が来たようだ」

           さて、8月1日でございます。  紛う事なき夏、それも連日うんざいするほどの最高気温をたたき出す酷暑ですなあ。  ワタクシが生まれた頃よりずうっと暑くて、妖の分際ながら身体に堪えるものです。   雨が降らない日が続いた日は特に、「救急車」とやらの音が何度も聞こえていたほどでございます。  さて、佐野家のエアコンとお友達になったのかと思うほど世話になっている今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうかな?  夏休みに入った学生さん、子供が連日家にいて献立に四苦八苦されている

          「猫麻呂からお手紙が来たようだ」

          黒山家の秘密 第十一話

          「っ!?」  俺は空間の中で目を覚ます。  汚れを知らない白に囲まれたその場所では、無数の淡い光が浮かんでは消えていた。 『起きたのね』  声のする方を見る。オレの足下より少し離れたところに、それはいた。  真っ白な体毛に、ブルーとイエローのオッドアイの猫。きちんと前足を揃えておすわりをしていて、尻尾はその足元に巻き付くようになっている。 『あんた、「戌」の子よね』 「そう……だけど。君は?」 『アタシは――フンッ。ホントは名乗るのも不服だけど』  不服そうに舌打ちをした猫は

          猫麻呂はホントは

          (※ホラー注意!) 「猫麻呂ってすっごく弱そうな見た目してるよね。強い妖力を持ってるなんて嘘じゃないの?」 「ほお……それは愚弄ですかな」 「え?」 「ワタシはあくまでも猫又でございます。専門はあくまで呪(まじな)いですが……。人の子の腕や一本や二本喰いちぎるなど、赤子の手をひねるよりたやすいこと。くれぐれも口の聞き方には気をつけなされよ……」 「ご、ごめんなさい」 「分かれば良いのです」

          黒山家の秘密 第十話

          「……あれ?」  目を開くと、無数の白い光の玉が浮かぶ空間が見えた。夜の日本庭園の中にいるようなその場所は、現実味がなくて何だか異世界のようだ。  ――と、脳内にノイズのような物が走ると共に、ある映像が浮かんだ。  大きな瞳から涙があふれている着物の女性と、俺とそっくりな顔をした子供の、悲しそうな表情の映像。  ――これは、一体。 「ゆ、ゆーくん。ここ、どこだろうね?」 「なんだ? 光がたくさん浮いてる……」  声のする方を見ると、不安そうに佇む理花と、キョロキョロと辺りを見

          黒山家の秘密 第九話

          「……ふーん」  長髪の女性は、俺と理花を上から下までじろっと見ると、長いため息をついてその場を去って行く。 「あ、あの! 君は」 「なんであんた達には『悪意』が無いのよ。こっちは焼き尽くしたくてしょうがないのに」 「え?」  カツカツと靴音を鳴らして去って行った先は、先ほど車から見ていた立派な洋風の建物だ。改めてみると、本当に豪華だ。 「ふたりとも、怒らないであげてね」  咲楽さんは少し困ったように笑いながらそう言う。 「あの子はちょーっと人付き合いが苦手な子ってだけだから

          空虚編

          「に、人魚姫? リリー、貴方そうなの?」 「今はそれどころじゃないわこころ! あいつ……人間と、契約してしまったのね」  不快そうに顔をゆがめるリリーとは対照的に、ミソハギは牙をむきだして笑う。その羽は、愉快そうにゆらゆらとはためいた。 「クックッ、あの人間は非常に愚かだったなあ。愛の恋だのに溺れて、しまいには自分を投げ出してしまう『従属契約』をしてしまうとは……まあ、そのおかげでボクはこうやって自由に動けるわけだが」 「そんな……あ、貴方は一体誰と契約を」 「アハハハハハッ

          幕間 青い瞳の少女は、今日も海の夢を見る

           朝。ベッドから起きると同時に、一番海がよく見える窓まで駆けていく。 小さな手で開けた窓の隙間から、海の香りを嗅いだ。朝日に温められた潮の香りが、鼻から通って私の頭に朝を告げる。  朝食を運んできたメイドに怒られて、渋々窓を閉める。海には行ってはダメですよ、今日はナントカの予定があるので早めに召し上がってくださいね。とブツブツ文句を言われながら、私は運ばれてきた食べものを喉へと押し込む。  でも、朝食と身支度の間は、私が空想の中の海へと飛び込める時間だ。  海の味とはほど遠い

          幕間 青い瞳の少女は、今日も海の夢を見る