運転免許の更新に行った。 もっと早く行こうと思っていたのに、気づけば失効期日が目前に迫っている。 1度あったタイミングを生理前の肌質の悪さを理由に見送ったらそこから忙しさが重なり、結局また周回してきたボロボロ肌期に更新せざるを得なくなってしまった。何故かいつもこうなんだ私は。これを仕方ないねで片付けるから成長も変化もしない。 新しく受け取った免許証の顔写真は、肌の色と目つきがものすごく悪かった。そのことよりも、免許証に写っている3年前の自分の肌質がこんなに良かったんだとい
相川颯。今でも名前を覚えている。変なやつだった。まるで呪いのように記憶に残り続ける、それだけ不思議で、忘れられないやつだった。 私は大学に入学したばかりで、まだ10代が特有に持つ妙な自信と、そこから来る尖った感性を堂々と振りかざしていて、たぶん、だからこそ相川を見つけたのだと思う。彼に会ったのは、大学生活にも少しずつ慣れてきた頃だった。 葉桜も終わり、青々と茂る木の下に、彼は大の字で寝転がっていた。顔には開いた本が乗っていて、覗き込むと私の知らない海外作家だった。白シ
叔母さんが東京の自宅に戻ってきているらしいと聞いて、会いに行くことにした。叔母さんはふらっとどこかへ行き、連絡もつかなくなることが度々ある。でも2年も音信不通になることはたぶん今回が初めてで、叔母の兄にあたる僕の父でさえ、この数ヶ月は叔母さんの安否を心配していたみたいだった。 消息を断つ前に叔母さんと最後に会っていたのは、彼女の家に遊びに行った僕だ。帰る間際になって叔母さんはふと、玄関で靴を履いている僕の背中に向けて「これからしばらく留守にするから」と言った。僕は靴を履
通っていた保育園の裏には小さな杉林があって、先生がお散歩コースにそこを選ぶたび、飛びはねるくらい喜んだのを覚えている。夏になるとひび割れた鱗のような幹のそこかしこにセミの抜け殻が張り付いていて、私はそれをひとつひとつ集めるのが大好きな子どもだった。 杉林の奥には滑り台があった。それは長い長い滑り台で、上から覗いても一番下がどこまでつながっているのか分からないほどだった。先生は「危ないから」と遊具で遊ぶことを禁じた。だから私たちはその滑り台には近づかなかった。 たしか
太陽を反射した月からの光が、深緑の木々の合間を器用に縫って、無造作に道端へころがされた缶やビニール袋を照らしている。星一つ見えない深淵の空に豊満な円を描いた月は妖艶さを醸し出していて、反対にその眼下に広がる薄汚れた地上はなんだかとても無様で、滑稽にも見えてくる。太陽だって月だって、そんな残念なものたちを照らすつもりで地球まで光を届けていないだろうにと思うと、とてつもなく大きく絶対的な天体が途端に卑近で不憫なものに思えた。 そのうちに、太陽がわざわざ地球くんだりまで光を持
高校3年生の夏、受験勉強の息抜きを兼ねてクラスで肝試しをやることになった。男女ペアで旧校舎を一周するというなんともベタなものである。俺はこの企画に、当時好きだった橘とお近付きになりたいというこれまたベタな下心でもって便乗した。 肝試しが始まってから、安易な下心を後悔するのは一瞬だった。旧校舎の古さと暗さが想像以上に怖かったのだ。我ながら呆れてしまうほど、その雰囲気にビビり散らかしていた。橘に格好良いところを見せたかったのに、これじゃまるで駄目じゃないか。もはや足はすくみ、涙
「おじちゃん、来たよぉ」 玄関から悟の声が響く。休日のたびに遊びに来る甥に男はもはや反応を示さず、キャンバスを睨み続けていた。 しばらくして、男がため息をつきながら「よう、悟」と声をかけると、部屋の隅で画集を眺めていた悟はパッと顔を上げた。 「今日は何の絵?」 画集を閉じて近寄ってくる悟に対し、男は体勢を維持したまま、数日前に描き上げた工場夜景の絵だといってキャンバスを見せる。手前に埠頭と、海を挟んだ向こう岸に工業地帯の眩い光。埠頭の先には1人の女がこちらに背を向けて立
「死にたい」は間違った感情でも悪でもなくて それは確かなのに避けるべき話題で事情で感情でそれも間違ってはいなくて だってやっぱり残されたら虚しいから あなたがいるから、あなたもいるから私生きてきたのに もちろんそんな約束はしていないけれど 勝手に信じて勝手に裏切られたと嘆くのは自傷行為ですか? 「死」が逃げ道になってしまうことが断然不愉快 正当に認められるべき手段として確立すればいいのにと常に思っている 君を失った純粋な痛みだけに浸っていたいよ 勘繰りや虚実吹聴に
色、色が落ちていく これは何色ですか 一瞬光っては私の喉を絞めて占めて締めて 消えてゆく 調べる間もなく 私はあなたの名を永遠に知ることができません 原色しか知らぬ脳では 捕まえることのできない深淵を 覗くというよりも掠めるごとく そして現れるたびに異なるので あるいは全くの別人なのでしょうか あしながおじさんからの手紙を待つ少女のように 太宰に陶酔し自らを捧げんとした女性たちのように 私はあなたがまた姿を見せてくれるのを待っています
一文字名からの解脱を謀りたい。何かいい名前はないかなー。
そうぞう力とは知識です。 私たちのまわりには、見えてしまう謎が多すぎる 閉じていれば永遠に見えなくなるはずの闇は なぜか開け放たれていて けれどもそれはやっぱり本物ではない、 本物ではない扉をあけて、私たちは 最初に飛び込んだものの足跡を必死に追うのです そうぞう力とは知識です。 鑑定団を頼らなければ分からない真偽を 今日も私たちはひとりでに勝手にしゃしゃり出て ああだこうだと宣います 本物の足跡などひとつも見たことがないくせに 記憶と妄想と伝聞と創造の区別もつかないま
触れた物事に対して傍観者でいたくない当事者でありたくて動いているのよ おこぼれを受けることで当事者面したくないしないで批評も参入も求めていないわ 溜まった課題?時間だけが流れる焦燥感? なにをみればいいのかおしえてよ、だれが?
「生」に執着がない、と言ったら嘘になるけど、あんまり惰性で生きていたくもなくて、教科書に載りたいとは思わないけど、誰でもできることだけやって人生終えるのはあまりにもつまらないとも思う。もう20年生きてきちゃったんだし。 実をいうと成人する前にはもう人生を終えていたかった、というか中学生の頃に描いていた人生像ではとっくに終えているはずだったんだけど、まぁそんなのは一種の厨二病みたいなもので、とはいえ次の目標は27クラブに入ることだからまだまだ現役バチバチに痛い妄想を繰り広げてい
久しぶりにたくさん文章を書いたせいか、頭の中が全く鎮まってくれなくなってしまった。 眠いのに、妙に頭が冴えてしまう。 ここ3日ほど、ずっと家にこもってブルーライトの光を浴び続けていたせいもあると思う。 ゆりかごに乗っているような揺れを感じる。 中心は強く収縮しているのに、外側は無限に拡張していく感覚。 目を瞑ってもそんな状態が続いて、とても寝られたもんじゃない。(伝わるのかなこれ。自分でも書いていて何を言っているのか分からない) いろんな文章が反芻しているし、いろん
エンジ色の、ところどころに四角い模様が入っている椅子に座る。窓の向こうを時々白い電灯が過ぎ去っていく。車内には数分おきに、次の停車駅を知らせるアナウンスがかかる。 バイトを終えて帰路につく。 今日で期末テストとレポートが全て終わった。明日から春休みが始まる。大学2年生最後の夜だ。 1年前の、1年生が終わった時、時の流れの早さに驚いた。もう大学生活の4分の1が終わってしまったのかと感じた衝撃と焦りは、今でも覚えている。 2年生もどうせ早いんだろうと思っていた。サークルの先輩
世の中には本当に意味のわからない文章を書くやつがいて、それはふたつの意味で「意味のわからない」なんだけれども、ひとつはガチで頭がいい人、ちゃんと積み上げてきたものがあって語彙力も構成力も全てが伴って綺麗なあるいは独自の世界観を持った文章を書く人、私にもなれる可能性があったラインはこれで、どこだか分からないけれど多分努力とかそういう類の道をどこかで間違えた結果辿りつけなかったところなのだと思っている、でもこういうやつらに対して敬服するのはまだ、痒いところに手が届くボキャブラリー