
先輩
部室に置いてあった赤マル
それを隠す濃く華奢なリップ
多分彼氏の影響なのだろう
何処と無く香るその匂いが
少し羨ましかった。
文化祭まで残り2週間
僕は学校生活に嫌気が差した
教室に入れば
僕の世界を掻き消す
あの子への嘲笑が
よく目立った
部室には
まだFを知らない僕のギターと
もうHを知った先輩のギターと
赤マルと100均のライター
僕は僕のギターを持って
その日から学校に行かなくなった
文化祭当日
好きだった人の為に学校に行った
文化祭で披露する曲もしっかり覚えて来た
披露が終わる
あの子も観に来てた
好きだった人にも告白された
僕は壊れた身体を治しながら
時間を取った
体育館に行く
先輩達のライブ準備の手伝いをしに
幕が閉じたそのステージは
蛍光色のバミリをも塞ぐ暗所で
裏口から届く日射に
少し視界を狂わされた
でも
あの匂いだけは
変わらない
先輩らしき人が
いや
先輩が来た
「ありがとう」
僕はそれを確認して家に帰った