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かどみなかずき
2023年11月3日 18:11
愛人の葬式です押し込めるように曇り空です 青空からは天使の羽根色の光を帯びてチョココロネのように渦巻きながら降りてきて、白土地からは御簾の砂塵をアリジゴクのように噴き出しながら昇っていって、天と地は、ゆびきりげんまんしました 森がうまれたのに意志があるように見えないのを薄情に思ってしまいます 時雨が降りましたなにかを隠すように降りました洗われた空に星の居場
2023年10月25日 16:46
通学路を教えてもらったとき、骨と街がこすれるようなキュキュッという音を立てながら折れ曲がる赤い道ができた三年生になって、鉛筆の道は石けりの軌道のなみなみの線で、わざわざ隙間をとおって縁石をあるいて、いつのまにか夕陽は、電線の一番下にきていた枯れ葉を踏んで聞こえる音のように小枝を踏んで聞こえる音のようにどんぐりを踏んで聞こえる音のようにシャーペンが折れて、残骸が散らばった道を、
2023年10月22日 11:56
夏のこと、嫌いでいいんだよ酸素のこと嫌いでいいじゃあ生きないの?、って、大上段に構えた言葉を踏み潰す四十六万八千三百五十二粒汗を熱せられた大地に渡して六千七百三十八個日干し煉瓦を運ぶ村への水道橋は、三分の二までできた千早振る神も見まさば立ちさわぎ雨のと川の樋口あけたべ科学とか合理とか常識が好きな人が、科学とか合理とか常識と同じ熱量で、科学とか合理とか常識を超えた才能を崇拝し
2023年10月17日 18:00
月明かりが侵入して、この部屋の暗さを知るどこか遠いところでやっている感謝祭の祭壇を照らす灯りがちろちろと流れ込んでくる黒い森まで狂い踊って、焼け石にも水が走る、喜びの声が届く暗黙の部屋におふとんがつめたいうでをいれるなんどもなんども、打ちつけ穴を開け、この部屋をチーズの姿にする雨そんな雨が、ぼくときみのあいだを裂いてくれたらいいのにぼくはぼくで、溶けてしまって、きみはき
2023年10月10日 17:48
ハッピーバースデーの歌も音程が求められる時代に、淡々とふりつづける雨は、最低だな濡れに濡れて、艶やかな艶の出る厳然たる行き止まりを、ちからなく押してみる壁肌の細かい小石が指先にささるのは、染み込んで染めていく暗い雨より痛くなかったアマビエが浸みわたった街が雨冷えする階段の最後の一段を踏み外して寒くなったな、今年は小説を読むためのろうそくの灯りで、絞め技を掛け合う短夜をやり過ごした
2023年9月28日 15:17
気泡の中から見える景色は水彩画。太陽も空も星も山も海も滲んで、気の抜けたサイダーをくっきりと浮かび上がらせている。昔々あるところに、で口承された物語は、泡となって消えてしまいました、で締めくくられている。ばあちゃんのじいちゃんが膜の外に出た瞬間泡になって消えた、って語るばあちゃんの瞳の下の涙が、ビー玉になって喉につっかえている。蜷川実花の個展に行ったとき、モデルやアイドルや俳優は、目線
2023年9月25日 15:52
--前髪が視界に入るみにくさは肺を患った野犬のようでマジックアワーが閉まりかけの緞帳に見えた。八七六五人のオーディションを勝ち抜いた主役の千穐楽のカーテンコールの夢みたいに色鮮やかに並んだセブンのおにぎり。なんか有名なデザイナーがやったんだって。それはすごいね、はい三二一円。あの夕焼けみたいに圧し潰されても、海苔はぱりぱり。--チョコボール買うくらいの贅沢も許されない気がする無産市民
2023年9月22日 14:53
--ヴォンゴレと液晶世界とぼくの貌きみはきれいに反復横跳びきみがぼくと二人きりの世界になりたいのを、残酷だと感じてしまうことはあるし、ぼくがきみと二人きりの世界になりたいのを、きみが残酷だと感じていることもある。ぼくたちだったぼくときみには、残酷さを揃えることが必要だった。--晴れ上がる十五時半の駅前でフードを被りたい気持ちになった教科書をもらったら、教科書に名前を書く。上履きをもらっ
2023年9月15日 14:52
夕焼けを圧し潰すように夜の帳が降りてきて(ヒグラシの音に合わせて)、ぼくは緞帳の表側を見てるのか裏側を見てるのかわからなくなった。両ななめ45度からのライティング。眼と赤い背もたれをのみ込んだ闇。どこからか鳴り続ける拍手。準備できてないことに気付いた恐怖。こんな夢みたいに色鮮やかに並んだセブンのおにぎり。なんか有名なデザイナーがやったんだって。それはすごいね、はい、321円。蒸し暑さが纏わり付いて
2023年9月9日 16:54
――夕暮れる前に晴れ上がった駅前でフードを被りたい気持ちになったおばあちゃんの葬式のときの、おじいちゃんの喪服姿は黒かった。六十年連れ添うと、ここまでこげるものなのかと思って、美しかった。でもわたしは、いつもの制服でいつものコンビニに入っているのに、きっとまだ永眠に似た夏の匂いが漂っているから、いつものヴェトナム人店員さんを気にしていた。ブレザーを桜のように光らせる術を知りたかったんだけど、ブレ
2023年9月6日 19:22
夜はきみの若年性恋心を煮凝らせていくね聞こえるかい?闇が勝利しないと、うたってられない虫の声をかれらはとても美しい包丁でうすぎりにされていくんだとっても美しいんだよ とってもとっても、美しいんだよ好奇心からきている好奇の目だから眩しくても、光なんだからいいじゃないか――ばあちゃんのうでのように細いヒナゲシが風に吹かれて泣いてしまった
2023年9月3日 12:10
避難訓練は、冬の帳が降りる時期にふさわしく、ぬるい空気ですすんでいる。全校生徒というつながりでは、統制の取れた美しい集合にはならない。腕を伸ばそうとすると、脚が足を引っ張って、中途半端に止められてしまって、着替え中のマネキンのような、歪んだガードレールのような、富山県のような、にんげんの手作りやなぁ、という感じのかたちにしかならない。いまの校庭はナスカよりも謎なのでは?、と謎の一部にすぎないものが
2023年8月30日 16:01
夕陽と雲で、空が火山みたいになった日、きみは溶けて、溶けて溶けて溶けて、誰にも知られていない森の湖になる。みんな探す必要がないから知られていないのだけれど、ぼくみたいな、(ぼく以外にいるかは知らないが)自分の誕生日の月を嫌っている人間は、きみでしか喉の渇きを完全に癒すことができなくて、バイト終わり、すこし遠回りしてきみを探すんだ。めんつゆに入れた瞬間に、氷にヒビが入る音で、なにかから解放された気
2023年7月25日 15:34
春と夏のあいだには梅雨が横たわっていて、ほんとうは四季って一対三に分かれている。春は孤立させられて、いじめられている。桜色は、夏に切り裂かれて冬に薄められた血の色。秋はいつまで見過ごしているつもりですか?秋刀魚と焼き芋と松茸で忙しいのかもしれませんが、もっとたいせつなことがありますよ。一度星を割った隕石は力がつりあうとこに収まるだけです。地球って太陽にインプリンティングされたのかなって、飼育委員で