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閑文字

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詩をまとめています。楽しんでいただけたらうれしいです。
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【詩】空に知られぬ村時雨

【詩】空に知られぬ村時雨

愛人の葬式です
押し込めるように曇り空です
 
青空からは
天使の羽根色の光を帯びて
チョココロネのように
渦巻きながら降りてきて、
白土地からは
御簾の砂塵を
アリジゴクのように
噴き出しながら昇っていって、
天と地は、
ゆびきりげんまんしました
 
森がうまれたのに
意志があるように見えないのを
薄情に思ってしまいます
 
時雨が降りました
なにかを隠すように降りました
洗われた空に
星の居場

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【詩】歩かされてきた

【詩】歩かされてきた

通学路を教えてもらったとき、
骨と街がこすれるようなキュキュッという音を
立てながら折れ曲がる
赤い道ができた
三年生になって、鉛筆の道は
石けりの軌道のなみなみの線で、
わざわざ隙間をとおって縁石をあるいて、
いつのまにか夕陽は、電線の一番下にきていた
枯れ葉を踏んで聞こえる音のように
小枝を踏んで聞こえる音のように
どんぐりを踏んで聞こえる音のように
シャーペンが折れて、残骸が散らばった道を、

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【詩】爽涼さ

【詩】爽涼さ

夏のこと、嫌いでいいんだよ
酸素のこと嫌いでいい
じゃあ生きないの?、って、
大上段に構えた言葉を踏み潰す
四十六万八千三百五十二粒
汗を熱せられた大地に渡して
六千七百三十八個
日干し煉瓦を運ぶ
村への水道橋は、三分の二までできた
千早振る神も見まさば立ちさわぎ雨のと川の樋口あけたべ
科学とか合理とか常識が好きな人が、
科学とか合理とか常識と同じ熱量で、
科学とか合理とか常識を超えた才能を崇拝し

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【詩】雨夜の月

【詩】雨夜の月

月明かりが侵入して、この部屋の暗さを知る
どこか遠いところでやっている
感謝祭の祭壇を照らす灯りが
ちろちろと流れ込んでくる
黒い森まで狂い踊って、焼け石にも水が走る、
喜びの声が届く
暗黙の部屋に
おふとんがつめたい
うでをいれる
なんどもなんども、打ちつけ穴を開け、
この部屋をチーズの姿にする雨
そんな雨が、
ぼくときみのあいだを裂いてくれたらいいのに
ぼくはぼくで、溶けてしまって、
きみはき

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【詩】路地裏

【詩】路地裏

ハッピーバースデーの歌も音程が求められる時代に、
淡々とふりつづける雨は、最低だな
濡れに濡れて、艶やかな艶の出る
厳然たる行き止まりを、ちからなく押してみる
壁肌の細かい小石が指先にささるのは、
染み込んで染めていく暗い雨より痛くなかった
アマビエが浸みわたった街が雨冷えする
階段の最後の一段を踏み外して寒くなったな、今年は
小説を読むためのろうそくの灯りで、
絞め技を掛け合う短夜をやり過ごした

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【詩】泡の中

【詩】泡の中

気泡の中から見える景色は水彩画。太陽も空も星も山も海も滲んで
、気の抜けたサイダーをくっきりと浮かび上がらせている。昔々あ
るところに、で口承された物語は、泡となって消えてしまいました
、で締めくくられている。ばあちゃんのじいちゃんが膜の外に出た
瞬間泡になって消えた、って語るばあちゃんの瞳の下の涙が、ビー
玉になって喉につっかえている。蜷川実花の個展に行ったとき、モ
デルやアイドルや俳優は、目線

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【詩】沈没のうた

【詩】沈没のうた

--前髪が視界に入るみにくさは肺を患った野犬のようで
マジックアワーが閉まりかけの緞帳に見えた。八七六五人のオーデ
ィションを勝ち抜いた主役の千穐楽のカーテンコールの夢みたいに
色鮮やかに並んだセブンのおにぎり。なんか有名なデザイナーがや
ったんだって。それはすごいね、はい三二一円。あの夕焼けみたい
に圧し潰されても、海苔はぱりぱり。
--チョコボール買うくらいの贅沢も許されない気がする無産市民

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【詩】孤独のうた

【詩】孤独のうた

--ヴォンゴレと液晶世界とぼくの貌きみはきれいに反復横跳び
きみがぼくと二人きりの世界になりたいのを、残酷だと感じてしま
うことはあるし、ぼくがきみと二人きりの世界になりたいのを、き
みが残酷だと感じていることもある。ぼくたちだったぼくときみに
は、残酷さを揃えることが必要だった。
--晴れ上がる十五時半の駅前でフードを被りたい気持ちになった
教科書をもらったら、教科書に名前を書く。上履きをもらっ

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【詩】沈没歌

【詩】沈没歌

夕焼けを圧し潰すように夜の帳が降りてきて(ヒグラシの音に合わせて)、ぼくは緞帳の表側を見てるのか裏側を見てるのかわからなくなった。両ななめ45度からのライティング。眼と赤い背もたれをのみ込んだ闇。どこからか鳴り続ける拍手。準備できてないことに気付いた恐怖。こんな夢みたいに色鮮やかに並んだセブンのおにぎり。なんか有名なデザイナーがやったんだって。それはすごいね、はい、321円。蒸し暑さが纏わり付いて

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【詩】春月日記

【詩】春月日記

――夕暮れる前に晴れ上がった駅前でフードを被りたい気持ちになった
おばあちゃんの葬式のときの、おじいちゃんの喪服姿は黒かった。六十年連れ添うと、ここまでこげるものなのかと思って、美しかった。でもわたしは、いつもの制服でいつものコンビニに入っているのに、きっとまだ永眠に似た夏の匂いが漂っているから、いつものヴェトナム人店員さんを気にしていた。ブレザーを桜のように光らせる術を知りたかったんだけど、ブレ

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【詩】星霜抄録

【詩】星霜抄録

夜はきみの若年性恋心を煮凝らせていくね
聞こえるかい?闇が勝利しないと、うたってられない虫の声を
かれらはとても美しい包丁でうすぎりにされていくんだ
とっても美しいんだよ とってもとっても、美しいんだよ
好奇心からきている好奇の目だから
眩しくても、光なんだからいいじゃないか
――ばあちゃんのうでのように細いヒナゲシが風に吹かれて泣いてしまった

【詩】北部紀行

【詩】北部紀行

避難訓練は、冬の帳が降りる時期にふさわしく、ぬるい空気ですすんでいる。全校生徒というつながりでは、統制の取れた美しい集合にはならない。腕を伸ばそうとすると、脚が足を引っ張って、中途半端に止められてしまって、着替え中のマネキンのような、歪んだガードレールのような、富山県のような、にんげんの手作りやなぁ、という感じのかたちにしかならない。いまの校庭はナスカよりも謎なのでは?、と謎の一部にすぎないものが

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【詩】完璧な水

【詩】完璧な水

夕陽と雲で、空が火山みたいになった日、きみは溶けて、溶けて溶けて溶けて、誰にも知られていない森の湖になる。みんな探す必要がないから知られていないのだけれど、ぼくみたいな、(ぼく以外にいるかは知らないが)自分の誕生日の月を嫌っている人間は、きみでしか喉の渇きを完全に癒すことができなくて、バイト終わり、すこし遠回りしてきみを探すんだ。
めんつゆに入れた瞬間に、氷にヒビが入る音で、なにかから解放された気

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【詩】天離(あまざか)る

春と夏のあいだには梅雨が横たわっていて、ほんとうは四季って一対三に分かれている。春は孤立させられて、いじめられている。桜色は、夏に切り裂かれて冬に薄められた血の色。秋はいつまで見過ごしているつもりですか?秋刀魚と焼き芋と松茸で忙しいのかもしれませんが、もっとたいせつなことがありますよ。一度星を割った隕石は力がつりあうとこに収まるだけです。地球って太陽にインプリンティングされたのかなって、飼育委員で

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