【詩】北部紀行
避難訓練は、冬の帳が降りる時期にふさわしく、ぬるい空気ですすんでいる。全校生徒というつながりでは、統制の取れた美しい集合にはならない。腕を伸ばそうとすると、脚が足を引っ張って、中途半端に止められてしまって、着替え中のマネキンのような、歪んだガードレールのような、富山県のような、にんげんの手作りやなぁ、という感じのかたちにしかならない。いまの校庭はナスカよりも謎なのでは?、と謎の一部にすぎないものが砂に絵をかいていた。
――萩の花なめらかな白に描かれたいつも使ってた茶碗が割れた
三階の廊下は放射線構図になってるね、なんて口にするのも憚られるようになった。探してないときの自動販売機のように並んだ窓。雨と仲良くしていない曇り。健康的に汚れているだけの雲に、わたしは、どうせ裏切るつもりなんだろうと、喚き散らして、罵って、一人、肉を抉り心臓を吐き出して沼になった。
――台風よそんなに窓を叩いたらそのうち大きなケガをするよ
文部科学省だけでつながった、どこかのだれかが自殺したから、屋上に繋がる階段は誰も使えなくなった。手すりも段数も構図も同じでも、そこだけ鬱蒼としていた。わたしみたいに。って思えば特別感を得られます。セピア色って、経年劣化ってことじゃん。騙されてたよ、わたし。あれ?みんなもそうなら、なにが騙していたのだろう?
――電球がきれたまんまの玄関に忘れられたホットだったコーヒー
扉を開けると厳寒で、環境は幼子に合わせてつくられないように、地球はにんげんに合わせてできていなかった。御神木は世論に流されて、海の涯から落ちていった。地球から追いやられた塵芥は、ナントカっていう物理法則にしたがって、流れて吹き溜まって、月になってる。わたしは不幸に風流を感じていて、でも、月に指導者があらわれたら、落ちてくることも知っている。落ちていくことすらせずに、落ちてくる日を待っているだけ。
――「わかる」としか言いようのないチリつきは家が擦れる音に似ていた
誰かの声で扉から中に入って、梅雨みたいにどっちなのかよく分からない場所に放り出された。黄色い青空は太陽を希釈していた。砂浜のように、わたしの学んできたものは崩れて、しつこいコゲだけ残った。はじめてキャベツを炒めたときにフライパンをコゲつかせてしまって、いま思えば理不尽に怒りながら、掃除していた。どれだけ腕が痛くなってもスポンジ越しに当たる感触は消えなくて、さらに怒った。自分のせい、ということは頭にない。根負けして底に残ったコゲを見たとき、美しいと感じてしまった。