【詩】春月日記
――夕暮れる前に晴れ上がった駅前でフードを被りたい気持ちになった
おばあちゃんの葬式のときの、おじいちゃんの喪服姿は黒かった。六十年連れ添うと、ここまでこげるものなのかと思って、美しかった。でもわたしは、いつもの制服でいつものコンビニに入っているのに、きっとまだ永眠に似た夏の匂いが漂っているから、いつものヴェトナム人店員さんを気にしていた。ブレザーを桜のように光らせる術を知りたかったんだけど、ブレザーは着るものを切り出すだけで、わたしに名前は付けられなかった。保険の先生はもっと光を浴びなさいって言った。
――安いだけのTシャツが貼り付く雑踏の隅 海に行かない夏だったな
おもしろいとされる人が一番奥に座っている。無免許運転のように流れる星は、どこかのだれかの願いを叶えて、どこかのだれかの家に墜落する。土煙と生活だった瓦礫の前で立ち尽くすとき、溶けた内臓みたいななにかを吐き出したくなる。でも異星人だからなぁ。へんな病気を持ってるかもしれへんし。だいいち、そんなんで悩むなんて弱すぎひん?わしが口利きしてやるから、こっちにきて強くなれや。
――突然に窓を叩いてこのうたをそんなに見たいの? ……無視かよ。
海風がわたしの前髪をこわしてくれるって知ったから、シースルーで抜け感を意識するのをやめてもいいって思えた。誰かに見せたいと思わない波と空だったから、わざわざ来た甲斐があった。砂浜は人間環境の境界にふさわしく、足場をさらさらと崩して、わたしをやわらかく否定してくれる。ひとりだって知る。修辞技法にはわたさずに、ただ知る。ことしは遊泳禁止の看板を撮ることができた。