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閑文字

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詩をまとめています。楽しんでいただけたらうれしいです。
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#言葉

噓が混ざる

地面を叩きはじめてようやく
雨が降っていることに気づいた
雨の正体は粒なんだってことに脳ででしか気づけなくて
目でとらえられるのは竹串みたいなもの
無数の雨粒がバケツのみなもにまるく刺さっている
透き通っているものが偉いって声が
揃い始めたあたりから
雨は短時間で大量に降るようになった気がする
逆かもね。ねもかくゃぎ
Gyakukamone.enomakukayG
不純物の美しさに感動することを許

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漂白

息子の制服のワイシャツの襟汚れをごしごしこすっていると
鹿の解体をしているような気分になった
すうっととぎれなく皮が剥がれる快感とおなじものが
へその奥でふくらんでいった
あんなにはやく危険を察知して
北風のように駆けうつくしく跳び越えていた胡桃色の体躯が
玩具みたいにパコパコと外れて
なまぐさい笑みが自然とこぼれた、ことを思い出した
白くなったワイシャツを見て
なにかとんでもないものに加担してい

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翼を折りたい

いまわたしの願いごとが叶うならば翼を折りたい
そんなうたをタコ公園を歩くハトがうたっている
育児に協力的でなかったことを疎まれて
家庭に居場所がなくなり娘の成人と同時に離婚された男が
餌を撒いて集めたハトが一斉に飛び立った
空を飛ぶってこんなに楽しいことなのに
どうしてそんな馬鹿げたことを言っているの?
そうやって言ってしまえる上から目線が嫌になったから
という言葉を砂利の方へ落とした
飛ぼうが歩

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幻想

幻想

夜空の白い星々を見上げながら
カササギの橋に降りる霜って
凍った水のあつまりなんだと思った
田んぼの一枚一枚に月はしっかり映るように
しずくの一粒一粒にわたしが映る
水からしずくが生まれるたびに
わたしが孤独でいる世界も増える

こんなことを考えてみたところで、夜は更けていくだけで
誰かがわたしのもとに来てくれるというわけではない
それでも考えてしまうわたしはきっと損な性格なんだろう

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敬遠

敬遠

道はとうに隠されてしまった
燃えカスのように赤いてのひらが
幾千、幾万と重なり合って
アキノソラガグロテスクニアオイ
国中に愛が溢れているのなら
いま踏みつけている葉っぱや枝もきっと愛で
愛の断末魔はひどく軽くてちょっといい音だった
シカガナク
紅葉を踏みにじって小枝をくりかえし踏みつける
シカガナク
まだ若い木をバキバキとへし折る
シカガナク
大きな木に体当たりする
それはビクともせずわたしは立

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水をこわがらない猫

水をこわがらない猫がいる。水をこわがらない猫は、水をこわがらないので、水場に行く。水をこわがらない猫は、まわりにいるのが水をこわがる猫ばかりなので、水をこわがらないことをよくほめてもらえる。だから水をこわがらない猫は、水がこわくない自分のことを、特別な存在なんだと思い、水はほんとうはこわいものではないと主張し、大勢の水をこわがる猫を率いて水場に行き、水をこわがらずに飛び込んでみんな溺れた。
 

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わたしがその手を離してはいけない

結婚しました。
夫はとても責任感が強く、夢をしっかり持ちながら現実を冷静に見つめ、みんなのためになることを自分の使命としている人です。わたしはそんな夫と手を取り合い、その理想へ歩むことにしました。
 
夫が死にました。
もともと身体は強いほうではなかったのですが、流行り病で急に逝ってしまいました。わたしは最後に手を握りました。冷たく硬くなり、人というよりはモノ、という感触は忘れることができません。

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せんぷうきほどのまじめさがほしい

もう拝まないでくれ、もう拝まないでくれ
一月一日は朝を配るたびに祈りを返されて申し訳なくなる
わたしはあそこにいる新聞配達のお兄さんと何も変わらないのに
世界平和とか背負わせないでほしい
「太陽がこのまえそう言ってたんだよね」と
たまたま隣に座った月から聞いた
隣のアパートが無くなったから立ち寄れるようになったらしい
ホコリが自分は美しいものであるかのように舞っている
ぼくはそれを美しいと思った

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再生

再生

目が濁っていなかった頃に見た富士山は
今でもわたしの瞼に残っています
夢のために耐えている人に憧れたのに
ただなんとなく耐える人間になっていました
冬になると肌は冷気で切りつけられ血が流れる
それなのに血が流れていないと肌を切りつけて
ようやく今年も冬がやってきましたね、と火鉢にあたる
気持ちの悪い笑顔で
汚さしか見えなくなってしまいました
汚さがないと白さが分からなくなってしまいました
だからこ

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漂流

漂流

脚で挟んだひんやりと動かない布団
いのちあるあたたかな動きをするものがない部屋
この部屋でもっとも生きものめいているのは
天から長く長く垂れ下がっている月の光
羽のさきっぽのうまれたてみたいな毛で
わたしの顔の表面だけをなでつづける
身体の表面だけをくすぐりつづける
この腕の中で眠るものが欲しいと思う気持ちは
恋と呼んでもいいのだろうか?

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読んでいただきあ

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生きていればいい

乾燥した皺だらけの無数の手が
僕を生きられるように改造していった
一瞬で無数の手に全身を掴まれたかと思ったら
すぐに離れて、その時には僕は呼吸ができるようになっていた
空気を吸うって、広辞苑を呑み込むみたいで、
とても苦しくて、空気の無い海中に飛び込んだら
無数の手がまた一瞬で全身を掴んで
僕を鰓呼吸に改造した
ナイフを取るのもロープを取るのも
手の本数で負けてしまいさきに奪われてしまう
屋上から

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独歩

一年を通じて
風はさまざまなものを運びますが
なにも乗せていない風というのもいいものですね
ただの風はわたしの熱を引き取ってくれます
夏が来たらしい
なにもかも燃やし尽くしてかがやく夏が
夏はきっと燃やして灰になった桜を覚えているでしょう
焦げ付いたように忘れることはできないのだろう
あぁ天の香具山はあんなに遠くになってしまいました
本当に歩いてきたのですね
純白の衣を干す働き者な指先まで
夏の光

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路地裏

大通りより路地裏の方が多い
女性がブーツから生脚を出している
ゴミを荒らしたカラスが翼を広げている
覆面たちが背中を叩き合っている
コスプレイヤーが撮影している
桃太郎が酔い潰れている
マネキンの頭が水たまりに落ちている
クロワッサンと三日月を見比べて居る人がいる
壁にもたれてメイド服が喫煙している
室外機はエアコンの数だけある
家族でドラム缶風呂に入っている
乳首の透けたばあさんが靴磨きをしてい

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栞紐

本から垂れている糸は空中に消えている
その糸はきっと見えなくなっているだけで
地球のどこかで美しい絨毯に編まれているはず
そうでなければこの涙が説明できなくなってしまう

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