【小説人】長﨑 太一

小説を書く人。 『河童堂奇譚 四月一日の客』 著:長﨑太一 お聞かせください、奇譚、…

【小説人】長﨑 太一

小説を書く人。 『河童堂奇譚 四月一日の客』 著:長﨑太一 お聞かせください、奇譚、怪談、法螺話。 河童堂で繰り広げられる、九つのエピソード。 ◆Amazon・楽天kobo・hontoなど計24店の電子書籍ストアより配信中 amzn.to/3rgznNJ #小説 #町中華

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  • 百物語にて候。

    百の物語、ぜひ一本手にとって頂けたら有難き幸せ。

  • 囁聞霧江は枯野を歩く

    各話5分くらいで読めます。 《聴き屋》囁聞霧江は聴くだけ解決しない。

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【短編小説】春もどき

「相談したいことがある」  友人から呼ばれ私は喫茶店を訪れていた。この喫茶店は私と友人が学生時代よく通い他愛もない話 に耽った場所である。  彼とわたしは大学生の頃に知り合った。入学直後の4月ではなく、正月もとっくに過ぎてしまった2月のころであった。彼は地面に這いつくばって何かをスケッチしていた。私は草を描いているのかと思ったが手元を覗くとソレ はサナギだった、蝶の蛹だった。私が不思議そうに見下していると、彼は 視線を蛹に向けたまま「何が出てくるか楽しみですね」と勝手に同意

    • 【ショートショート】Darker and darker.

       夜、旅の僧が一人大きな木の袂に座り瞑想に耽っていると女に声が聞こえてきた。僧は修業の身、煩悩は打ち払わなくてはならない。しかし、美しい声だった。声だけ聞こえる。暑い夏の日に首筋を伝う冷たい水のような、恐ろしくも心地よい声。  僧は堪らず声を漏らした。 「どうすれば貴女を見ることができますか」  瞑っていた目を開けても一寸先も目ないほど夜の闇は深い。その闇からあの声だけが漂ってくる。 「目玉を1つ頂ければ」  僧は持っていた独鈷で目を抉り、声のする方へ投げた。  しばらく

      • 【ショートショート】転送倫理

        「人間の転送実験は成功だ」  博士は高らかに宣言した。基地局さえ設置できればたとえ銀河の彼方へだろうと転送が可能になる。そんな夢の技術誕生のはずだった。 「でも博士、被検体の私はここにいますよ?」被験体第一号の助手は自分を指差し首をかしげた。  博士はそんな助手の肩に手を起き、得意げに答える「わかり易くいえばFAXと同じだ。あれも原本は手元に残るだろ」 「私が2人いては困ります。あちらの私は処分してください!!」  博士は転送先の基地局に連絡したあと、困り顔で助手に話

        • 【ショートショート】イイ腕

           今、筋骨隆々の大男と妙齢の女医が相対している。手術の経過を確認しながら男の大胸筋に触れる女医の手は何処か艶めかしく、男は術後の痛みが残っているのか鼻息荒い。 「ドクター、アンタ良い腕してる……助かったよ」  その男は、死んでもおかしくなかった事故から奇跡的に生還した。男は治療してくれた医者に精一杯の感謝を述べた。 「アンタもイイ腕になったじゃないか」と女医は大胸筋から流れるように手を滑らせて、自分が手術を施した男の太く逞しい腕を撫でた。  「いっって、まだなれねえや」男が

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        【短編小説】春もどき

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        • 百物語にて候。
          100本
        • 囁聞霧江は枯野を歩く
          4本

        記事

          【短編小説】夜明を待つ二人

           これは私が知るある男の、ある人生の、ある物語。それを、短く短く、切り出したから恋もありません。悲しみも絶望もありません。オチもございません。だって、人生のオチは死ぬコトですからね。  私がで河原の土手の階段に腰掛け、海の方を見ながら日の出を待っていると、男が一人隣に座り勝手に語り始めました。男は疲れたような、悲しいような顔をしていました。ただ、私は彼の話に耳を傾けるコトが苦ではありませんでした。 「"初日の出"は目出度いモノだと祖父が教えてくれました。僕は訳あって2ヶ月

          【短編小説】夜明を待つ二人

          【ショートショート】狩人の夜

           茂平は罠は使わない鉄砲一筋の狩人だった。茂平が二十歳そこらの時、罠に掛かり怪我をした熊を助けてやった。前足に酷い怪我をしていたので手拭いで縛ってやった。  罠を使わないのは茂平の流儀、だから罠に掛かった他人の獲物を逃がすのは狩人の作法に反する。しかし、若さや未熟さからくる気の迷いか仏心か熊を逃がしてしまった。    それから40年ほど経ったある晩、年老いた茂平が詰めていた山小屋に、髪はボサボサ、毛むくじゃらの丸太のような腕をした大男が訪ねて来て「一晩泊めて欲しい」と言うので

          【ショートショート】狩人の夜

          【ショートショート】きになるみらい

           タイムマシンは乗り物だとばかり思っていた。でも、差し出されたそれはまるで薬局に行けば一瓶600円くらいで買えるビタミン剤みたいな錠剤だった。  開発者が告げる「すぐ百年ですよ」  私は百年先の未来に向かう被験者に選ばれた。    そして私はそれを服用した。  日に日に身体が動かなくなる。足や手の指は筋張って枝分かれしてきた。さらに数日が経ち枝分かれした手の指から緑の葉が生え、足からは細かい根がでている。この頃になると水を口から摂取することは減り、根から水を吸い、光に向って

          【ショートショート】きになるみらい

          【ショートショート】代役達

           お盆の奇妙なアルバイトだった。他人の家の親戚のサクラをした。少子高齢化の影響だろうか、『お盆』という時期が連休を取得する口実へと成り代わっているからだろうか。地方に帰ってくる若者は減る一方、しかしお盆に帰ってくるご先祖様のために少しでも賑やかにしてやろうという気持ちからアルバイトを募集したと、雇い主の田中さんがおしえてくれた。  庭先で送り火を焚き、田中さんに連れられて墓まで来た。墓には『鈴木家之墓』と彫られている。しかもピカピカと光る墓石ではなく、ザラザラした質感の苔む

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          【ショートショート】追いかける地球

           「大統領、あれは地球と全く同じです」  天文学者が告げた言葉はとても信じられなかった。しかし、確かに地球のすぐ後方に地球を追いかけるかのように青い星が浮かんでいた。 「それに地球の公転より速いようです」 「いずれ衝突するということか?」大統領は天文学者に尋ねた。 「はい。数日後には…」  しかし、2つの地球は衝突しなかった。投影した映像のように重なり、追い越していった。 「あれはなんだったのだろう」と、執務室から空を眺めていた大統領に天文学者から連絡があった。 「大

          【ショートショート】追いかける地球

          【ショートショート】オアシス

           探検家は砂漠のバザールで古いオアシスへの地図を見つけた。地図の印を頼りに砂漠を歩き続けた。しかし、そこにあったのは日干し煉瓦で造られた粗末な井戸だった。井戸は枯れていたが奥底に箱があり中には本が収められていた。タイトルは『オアシス』探検家は「悪い冗談だな」と呟きながら本を開いた。すると、すぐに物語に引き込まれた。文字を追ううちに、いつの間にか探検家の心は潤い、満たされていった。  最後のページを捲ると古い地図が滑り落ちた。それはバザールで手に入れた地図に似ていて、同じように

          【ショートショート】オアシス

          【ショートショート】夢占

           私は階段を昇っている。コンクリートが剥き出しの廃墟のような階段を。  途中、花が咲いていた。ふつう、階段に花は生えないからここは廃墟なのだろうと分かった。私は花を摘んで、また階段を歩き始めた。  花を見つめながら歩いていると、いつしか足が勝手に動いていることにも気がついた。  そして、屋上に出た。気味悪く青い空。私は屋上を一歩、また一歩と進む。まるで体重を失くしたように軽い足取りで。  屋上に柵は無く平面の床が広がっていた。その先にも透明な床が続いていると信じているよう

          【ショートショート】夢占

          【ショートショート】ひとりごと

          「毎日、毎日、休日も出勤。有給休暇も出勤。意味、わからないでしょ?私も悪いの、そんなブラック企業や辞めちゃえばいいのに、やっと就職できたから辞めちゃだめだーって逃げちゃだめだーって、でもね、知り合いから勧められた栄養剤を飲んだの、錠剤のやつ。そしたら、疲れなんか吹っ飛んじゃって、毎日バリバリ仕事こなしっちゃって。でも、ある日突然、違法薬物の所持と使用の容疑だって刑事が証拠の映像とやらを見せてきたの。確かにアタシが薬を飲んでるの。でもこの口じゃあないのよ。もう一つの口が、ぼりぱ

          【ショートショート】ひとりごと

          【短編小説】Rainy days雨月奇譚

           宍戸 治三郎は江戸城での大番役を退いた後、雨月齋と名乗り江戸郊外の村にあった百姓家を買取り晴耕雨読の隠居生活を送っていた。大番役とは戦時には旗本備の先鋒、平時には江戸城の警衛や幕府直轄城の在番を勤める。 元は侍ではあるが偉ぶることもなく隣近所との中も良好であった。雨の日になると畑仕事は休みになることが多いので、村人たちが治三郎の百姓家に「雨月どの、雨月どの」と訪ねてきては碁に興じ、酒を飲んだ。その他で訪ねてくるのは世話焼きのお清くらいである。 《お清の視点》  治三郎様の

          【短編小説】Rainy days雨月奇譚

          【ショートショート】下剋上

          「お前どう責任とるつもりだ!」課長が係長に向かって唾を飛ばしながら怒鳴る。 「腹ァかっさばいて詫てやりますよ!」負けじと大見得を切る係長。 「やれるもんならやってみろ!!」更に怒る課長。  その刹那、係長は抜刀し課長の腹を真一文字に切り裂いた。「あんたの腹をね……」  血飛沫に濡れた刀を拭き取った書類が舞う中、刀を鞘に納めた係長が一言。 「斬捨て御免」

          【ショートショート】下剋上

          【ショートショート】気になる袋

           私は山間にある小さな町に住んでいる。その町を両断するように横たわる県道を私は通勤でいつも行き来している。小さい町とはいえ大動脈の役目を果たす道なだけあってそれなりに広く、見通しも良い。  いつも時速50㌔で走る車から見ている見慣れた景色の中に違和感を感じていた。その道端に黒い袋が捨てられていた。光沢からしてポリ袋、スイカでも入っているような丸みと大きさだった。それが一週間近くも県道の隅に打ち捨てられている。住民が片付けなくても役所の道路整備係が片付けてしまうはずなのに。  

          【ショートショート】気になる袋

          《短編小説》Time is Gold

           八千代の姉、おトキは若く美しい。白いうなじに掛かる一筋の乱れ髪、切れ長の目に見つめられれば荒行を耐え抜いた得の高い僧であっても色を覚えるほどだった。若いのは見た目だけではない。十七ほどに見える八千代に対して二十五程に見える姉だ。もちろん実の姉ではない。母と呼ばせている。  八千代もトキに負けず劣らず美しい。八千代から姉と呼ばれるトキは去年の夏、八千代をとある遊郭から連れ出し面倒をみている。二人が歩く姿を見れば姉妹と信じて疑わないだろう。しかし、二人が表を歩くことは無い。八千

          《短編小説》Time is Gold