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【連作短編】|囁聞霧江《ささやききりえ》は枯野を歩く ~故郷・前編~
あらすじ
【聴き屋】囁聞霧江は他人の話を聞くだけ。他人の話を聞いて聞いて、最後に囁く。霧江に話を聞いてもらった人々は霧江に囁かれて、あるべき素形へ、あるべき場所へ旅に出る。
霧江に話を聞いてもらいにやってきた岩藤良夫は、故郷に帰りたくないと言う……。
『旅に病んで夢は枯野をかけ回る』松尾芭蕉
故郷は遠くにありて思うもの。故郷と書いて田舎と読む。故郷とは多くの人が帰りたいと思う場所の
【連作短編】|囁聞霧江《ささやききりえ 》は枯野を歩く ~故郷・後編~
「お電話した岩藤です」
男の声に囁聞霧江の脳は妄想の世界から現実に引き戻される。
年は五十歳前後、岩藤良夫は痩せた体に髪は薄く不精ひげには白いものが多く見える。
霧江は彼に話しかけられる少し前から、誰かを探すような動作を察して岩藤らしき男を視界に捉えてから、霧江は妄想に耽っていた。彼女は依頼者の生い立ち、性格、言動などを妄想して会話のパターンをシュミレーションする。そうして、相手が一番望んで
【連作短編】|囁聞霧江《ささやききりえ 》は枯野を歩く②〜学び舎・ 前編〜
「皆さん、コンバンは~。今夜は廃校を探検したいと思いま〜す」
いかにも軽薄な間延びした声は、「俺は今、変なコトをしていますよ」という自己満足と欺瞞に満ちた演出に彩られていた。
「ちょっとカメラ止めてぇ!オネェさんも楽しそうな顔してくれないと!そういうのも視聴者に伝わるんだよ」やたらと大げさな身振り手振りで騒ぐ城ヶ崎慎吾に霧江は「はぁ」と、殆ど溜息の返事を返した。初夏の蒸し暑い夜、《聴き屋》である
【連作短編】|囁聞霧江《ささやききりえ 》は枯野を歩く②〜学び舎・後編
城ヶ崎慎吾は逃げている。
「あるはずない。そんなはずない」
彼は始めから"学校の七不思議、数えてみた"の企画を6番目の七不思議を本物に見せかけて、最後の1つを知ると死んでしまうから試せなかった。と演出するつもりだった。だが、実際は丁度よい最後の1つが決まらず、なしくずし的に設定したものだった。彼は《学校の七不思議などない》という妄想に取り憑かれていた。
「全部あなたの妄想だ。と言ったんです」