恩田陸/私の家では何も起こらない
息の長い作家は、村上春樹の言葉を借りるならば皆、“職業としての小説家”だ。
彼らの中には唯一無二の持ち味を生み出しながらも、数本の柱を持っている作家が一定数いる。
村上春樹は、短編中編長編翻訳、
山田詠美は、外国人との恋愛を描いた作品と青春小説、
といった具合に。
中でも恩田陸の柱の多さには毎回舌を巻く。
しかもそのどれもが高く評価されるのだからもう舌はぐるんぐるん、唸ることさえ出来ない。
そうか恩田さんあなたは魔術師だったのか。
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巻末に収められている〈恩田陸×名久井直子 作品解説対談〉にてこう語るように、こちらの作品は古い年代の海外に佇むお屋敷を舞台にしたホラー連作短編集だ。
どこかお伽話のような雰囲気も漂っている。
アダムスファミリー感もある。
ティムバートン感もある。
昔ベッドで眠りにつく前に聴かせられた絵本のような世界観がそこにはある。
なるほど、さすが郷愁(ノスタルジア)の魔術師。
ありとあらゆる方法で毎回ツボをついてくる。
こちらの作品は当時、怪談専門誌『幽』に連載されていたものを1冊の本にまとめたものだ。
とても薄くてさくっと読めてしまう。
私自身はずっと恩田さんの青春小説のファンだったが違う作風も読んでみようと手に取った。
ジャンルはホラーだが、童話の『ヘンゼルとグレーテル』くらいの怖さなので苦手な方でも読めるのではないだろうか。
それにしても、この手の作風って力量が伴わない人が描いたら途端に陳腐になりそうだ。
そこはさすが魔術師、熟練された確かな筆致で、首尾良く仕上げられた作品だ。