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読書感想文をめぐって

2020年6月Twitter上で、ある一人の国語教師の発言が話題になった。

それが、

「『読書感想文』って必要なくない?」

という問いかけだ。

これがバズり、様々な声が寄せられた。

それらに目を通した所、読書感想文に疑問を感じている方々のご意見は主に「強制が良くないよね」という内容が多かったように私は感じた。

もちろん「読書感想文好きだった」という声や「有意義だ」というご意見もあった。

私はその賛否両論全てに頷きながら、「どれもこれも一理あるよな」と眺めていた。

だから、今から語る内容は、私個人の気持ちのお話で、決してどちらかの意見に偏るつもりはないことだけは、ご理解頂けたらと願う。

私自身は読書感想文が好きだ

学生時代から今日まで読書感想文の為に割く時間はとても有意義なものだったと私は感じている。

そう考える主な理由としては、

①自分では選ばないような作品に出会える

②他人が作品をどのように読んだかが提示され、共有することで気づきがある

③読書という孤独な営みに人との繋がりが生まれる


が挙げられる。

①自分では選ばないような作品に出会える

小学生の頃、読書感想文の課題図書は、親が積極的に何冊も買ってくれるので嬉しくて嬉しくて楽しみだった。

それぞれの作品についての紹介文が掲載されている冊子を読みながら、どの本を買ってもらおうか選ぶ時間が幸せだった。

少し背伸びして選んだりもした。

高校時代、「今年はいつもと違うやり方で課題図書を選びました。」という年があった。

教師たち一人一人が、自身の推薦図書を選出したのだ。

教科担当は関係ない。

数学教師や体育教師も含まれた。

今思い出しても、なんと面白い試みだろうか。

あの時の推薦図書一覧は永久に保存すべきだった。

時間が掛かってでも、教師全員分読めばよかったと今でも後悔している。

この時私は、当時憧れていた国語教師※ヤギさん の推薦図書、

茨木のり子『詩のこころを読む』

を迷わず選んだ。

岩波ジュニア新書であるこちらの作品は、各章には、[生まれて][恋唄][生きるじたばた][峠][別れ]とタイトルが付けられ、それらに相応しい詩が編まれている。

選出しているのが茨木のり子なだけあり、掲載されている詩人たちは、

谷川俊太郎、吉野弘、プレヴェール、黒田三郎、新川和江、岸田衿子、牟礼慶子、大岡信、工藤直子、石垣りん、永瀬清子、中原中也

と錚々たるメンバーだ。

ここに編まれた数々の詩は、私の基礎を作ったといっても過言でない。

この作品に十代で出会えたことは、とても幸福なことであった。

以下は、特に感銘を受けた作品の抜粋だ。

I was bornさ。受身形だよ。正しく言うと人間は生まれさせられるんだ。自分の意思ではないんだね。
吉野弘『I was born』
どれもひふがあって
みんなきちんと裂けたり
でっぱったりで
これらと
世の中やってゆく
帰って
泣いた
松下育男『顔』
くるあさごとに
くるくるしごと
くるまはぐるま
くるわばくるえ
岸田衿子『くるあさごとに』
できるなら
日々のくらさを土の中のくらさに
似せてはいけないでしょうか
地上は今
ひどく形而上学的な季節
(中略)
くらい土の中では
やがて来る華麗な祝祭のために
数かぎりないものたちが生きているのです
(中略)
まだ見えないうちにさえ
春だとも未来だともよぶことができるのです
牟礼慶子『見えない季節』

※ヤギさん 詳細記事はこちら

②他人が作品をどのように読んだかが提示され、共有することで気づきがある

現在、大人の読書感想文が熱い。

noteと12の出版社の合同企画

【好きな本について語ろう! 読書感想文投稿コンテスト「#読書の秋2020」】

が開催されている。

これが非常に面白い。

タグ検索すれば、自分が読んだ作品を他人はどのように読んだのか、すぐに確認が出来るのだ。

③読書という孤独な営みに人との繋がりが生まれる

この企画に合わせて、毎週水曜日ゲストを迎えnoteライブも配信された。

①文芸編集者が語りつくす!「今年の推し本」
日時:11月4日(水) 20:00〜21:00 
登壇者:小林順さん(KADOKAWA 文芸単行本編集一課 編集長)、谷口愛さん(集英社 文芸編集部)、花田朋子さん(文藝春秋 文春文庫局局長)
②本屋の未来〜リアルとオンラインの交差点のつくりかた
日時:11月11日(水) 20:00〜21:00 
登壇者:福井盛太さん(合同会社SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS FOUNDER/CEO)、山下優さん(青山ブックセンター本店店長)
③ビジネス書編集者が語りつくす!「今年の推し本」
日時:11月18日(水)20:00〜21:00
登壇者:今野良介さん(ダイヤモンド社 編集者)、中川ヒロミさん(日経BP 編集者)、林拓馬さん(ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集者)
④本×デジタルの未来 公開大会議
日時:11月25日(水) 20:00〜21:00 
登壇者:大塚啓志郎さん(ライツ社 代表取締役/編集長)、山口晶さん(早川書房 執行役員)

毎週楽しみで仕方なかった。

普段関わる機会などなかなかない方々のお話が聴けて、質問まで拾っていただける。

とても温かいイベントだった。

かつては孤独な営みだった読書、それが現代においては、他者との繋がりを生む。

読書はSNSと相性が良いと思う。

本を媒介としているから、伝えられることがある。

本を媒介としているから、聴いてもらえる読んでもらえることがある。

私はそう考える。

今後もこのような文化的で、出版業界が活気づくような文学イベントが開催されることを望むし、全力で参加することで継続に貢献出来ればと願う。

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