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今週の読書録


極楽征夷大将軍

室町幕府の初代将軍•足利尊氏といえば、昔教科書から得た印象ではバイタリティ溢れるすごい人というイメージでした。
しかし、垣根涼介さんの直木賞受賞作『極楽征夷大将軍』を読むと、「えっ、なぜそれで…」と不思議がいっぱいのダメ人間。
周りが優秀かつ、なぜか人望はあるという奇跡の存在なので不可能を可能にしたものの、教科書で身についたできるやつという印象が消え去るような人物描写でした。

実の弟、家老からも「いいやつなんだよな…」と思われつつも、結構頻繁に怒られる。
政治どころか、強いイメージのある戦も戦力外。
泣いて笑って、弟に縋り付き、嫌になったら戦の途中で出家すると逃げ出すダメな人…
当時の誰かに強烈に恨まれていて、悪口ばかり書かれていたのか?と疑うほどの役立たずっぷりです。

足利尊氏の幼少期から晩年までを描いたこちらは長編ですが、飽きさせないテンポとコメディのように気の抜ける描写もあり、時代小説好きはもちろんヒューマンドラマがお好きな方にも楽しめる作品かもしれません。

やる気なし
使命感なし
執着なし
なぜこんな人間が天下を獲れてしまったのか?

動乱前夜、北条家の独裁政権が続いて、鎌倉府の信用は地に堕ちていた。
足利直義は、怠惰な兄・尊氏を常に励まし、幕府の粛清から足利家を守ろうとする。やがて後醍醐天皇から北条家討伐の勅命が下り、一族を挙げて反旗を翻した。
一方、足利家の重臣・高師直は倒幕後、朝廷の世が来たことに愕然とする。後醍醐天皇には、武士に政権を委ねるつもりなどなかったのだ。怒り狂う直義と共に、尊氏を抜きにして新生幕府の樹立を画策し始める。

混迷する時代に、尊氏のような意志を欠いた人間が、何度も失脚の窮地に立たされながらも権力の頂点へと登り詰められたのはなぜか?
幕府の祖でありながら、謎に包まれた初代将軍・足利尊氏の秘密を解き明かす歴史群像劇。

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アンリアル

最近ではVIVANTが人気を博しましたが、お好きな方にはこちらもいかがでしょうか?
長浦京さんの『アンリアル』もいわゆるスパイ組織に所属することになった警察出身者が主人公。
ただし、本人が使命感をもって志願したわけでも覚悟があったわけでもなく、特殊な能力をかわれて、脅された末の不条理な異動。

骨折する、銃で撃たれる、殺されかける。
忍者や映画のヒーローのような優れた戦闘能力は有していない主人公は、任務のたびに結構散々な目にあっています。

ニュースにはならないものの、平和のために暗躍する組織。
ミッションインポッシブルのような派手さはないものの、主人公は着実に事件を解決し真実に近づいていきます。

小説現代では、「NOC 緋色の追憶2」のタイトルで続編の連載中です。
続編では、物語の舞台が国内に留まらず主人公が海を渡るエピソードも。
次なる新刊も楽しみな作品です。

両親の死の真相を探るため、引きこもり生活を脱し警察官を志した19歳の沖野修也。
警察学校在学中、ある能力を使って二件の未解決事件を解決に導いたが、推理遊び扱いされ組織からは嫌悪の目を向けられることになってしまう。
そうした人々の目は皆、暗がりの中で身構える猫のように赤く光って見える。それこそが、沖野の持つ「特質」だった。
ある日、単独行動の挙句、公安の捜査を邪魔したことで、沖野は副所長室に呼び出され聞きなれない部署への異動を命じられる。
「内閣府国際平和協力本部事務局分室 国際交流課二係」。
そこは人知れず、諜報、防諜を行う、スパイ組織だった--。
日本を守る暗闘に巻き込まれた沖野は、闇に光る赤い目の数々と対峙していくことになるのだが……。

スパイ小説のシンギュラリティとなる記念碑的作品、ついに刊行。

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受精卵ワールド

胚培養士という仕事をご存じでしょうか?
本山聖子さんの『受精卵ワールド』では、胚培養士が主人公です。
この本は小説として興味深い内容ですが、妊娠せよ子を産め圧力をかけてくる周囲の方にもおすすめするとよいかもしれない一冊です。

最近では、晩婚化の影響もあり、不妊治療や体外受精のニュースを目にする機会が増えてきました。
日本では、13~14人に1人が体外受精で生まれているそうです。

婚活をしている友人から、お見合い相手に「産まない女に価値はないと言われた」と憤慨しつつ話を聞いた記憶もありますが、かつては子を産むことを現代以上に重要視されていた時代も。
今でも結婚したら、次は「お子さんは?」と挨拶のように聞いてくる方も確かにいます。
本人主体の子が欲しいだけではなく、周囲からのプレッシャーもあって産まなくては!とストレスをかかえる女性もいるようです。

30歳以上は高齢出産といわれていた一昔前が嘘のように、今では30を過ぎてからの結婚、初産の方も珍しくない時代です。
国立社会保障・人口問題研究所によると、20%のカップルが不妊治療もしくは不妊検査を受けたことがあるのだとか。
ただし、不妊治療をしても皆が皆、無事に妊娠出産できるわけではありません。
記事にも書かれているように、40代では不妊治療をしても妊娠できる確率はごくわずか。
40歳になると10%未満、45歳では1%未満なのだとか。
妊娠できた後にも流産の確率が、20代よりもはるかに高いそうです。

本の中でも、友人のかつての嫁ぎ先の義母から新しいお嫁さんの不妊治療の相談を受けて、主人公が理路整然と男性不妊の可能性も含めて、不妊治療の実態を説明する場面があります。

実際に不妊の原因は、男女ともに可能性があることを知らない方もいます。
また、産まれる子の性別に関しても、受精段階で決まることであって妊娠中に男の子が産まれますように!と神社仏閣に祈られてもどうにもならないということももっと認知度が上がってほしい情報です。

不妊治療クリニックで胚培養士として働く長谷川幸、32歳。子供の頃から虫メガネにはまり、小さな世界、そこに息づく命に魅了されてきた。受精卵と向き合い、命の誕生を願うこの仕事を天職だと思っているが、実は幸自身も出生に秘密を抱えていた。4組に1組が不妊治療をし、14人に1人が体外受精で生まれる世界に揺蕩う、報われない挑戦、人生の選択、それぞれの幸せ。生殖医療にかかわる人間たちの葛藤と希望を描く書下ろし長編。

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発売が楽しみな新刊~星を編む~

凪良ゆうさんの『汝、星のごとく』は、今年読んだ中でも感想を言葉で綴りきれないような印象的な一冊でした。

著者のインタビューでスピンオフが出ることを知り今から楽しみな一冊が『星を編む』です。
「春に翔ぶ」、「星を編む」は小説現代で既に読みましたが、北原先生の過去や櫂の死後に遺作を担当した編集者、『汝、星のごとく』では脇役だった人々が主人公の作品。

人の数だけ物語がある。
書下ろしもあるようなので、秋の読書の楽しみが増えました。

☆2023年本屋大賞受賞作 シリーズ最新作☆
第20回本屋大賞受賞作にして、40万部突破のベストセラー『汝、星のごとく』のスピンオフストーリー。

花火のように煌めいて、
届かぬ星を見上げて、
海のように見守って、
いつでもそこには愛があった。

「春に翔ぶ」瀬戸内の島で出会った櫂と暁海。二人を支える教師・北原の秘められた過去。北原が病院で出会った女子高生・明日見奈々が抱えていた問題とは……?
「星を編む」夜空に浮かぶ星を輝かせるために、自らをも燃やす編集者がいた。漫画原作者・作家となった櫂を担当した、編集者二人の物語。『汝、星のごとく』後日談。
「波を渡る」燃え尽きるような愛を経て、北原とともに過ごす暁海の心に去来する感情は……。愛の果て、そして、その先を描く、新しい愛の物語。

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春賀
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