マガジンのカバー画像

播磨陰陽道

581
運営しているクリエイター

2021年10月の記事一覧

御伽怪談第ニ集・第五話「不名誉な噂〈後編〉」

御伽怪談第ニ集・第五話「不名誉な噂〈後編〉」

  五

 次郎兵衛の友人・秀吉が、いきなり叫んだ。
「それは、いってぇ、どう言う了簡だぁ。ろくろ首などいる筈もないやないか」
 そう申すのも無理はなかった。不思議なことに……ろくろ首は関東か、西日本でも日本海側の一部の地域に限定された現象だったのである。伊勢生まれの秀吉は、現実の〈ろくろ首〉を見聞きしたことがなかった。
 もちろん、ろくろ首がいることは存じていた。だが、ただの迷信だと思っていた。

もっとみる
播磨陰陽師の独り言・第八十二話「分相応の生き方を」

播磨陰陽師の独り言・第八十二話「分相応の生き方を」

 入院する前、自分で出来る範囲を超え、かなりオーバーワークになっていました。仕事がオーバーワークになると、あちこちに歪みが生まれ自転車操業になってゆきます。しかし、どこかで一度、立ち止まってみなければ今がそうだと分からなかったのです。
 これらのことを何度か経験してみて、
——余裕を持った生き方こそが、人間らしい生き方だよな。
 と、つくづく感じました。
 分相応と言う言葉があります。
 どこかで

もっとみる
不幸のすべて・第十三話「なぜ不幸なのだろう?」

不幸のすべて・第十三話「なぜ不幸なのだろう?」

 昔は、わざわざ泣女と呼ばれる職業の人を雇って葬式の時に泣いてもらっていました。

——葬儀に出た僧侶はその泣女を諭し、人が生きる事の大切さや様々な物事を列席者に教えた。

 とあります。ですが最近は泣女を雇うまでもなく、人を諭さねばならない僧侶までが狼狽し、あろうことか、果てには泣いたりもするのが現状だったりします。
 多くの不幸は自業自得であるにもかかわらず、そのような状況下では、どんな不幸も

もっとみる
近世百物語・第六十三夜「あれこれの心霊写真」

近世百物語・第六十三夜「あれこれの心霊写真」

 世の中には〈心霊写真〉と呼ばれるものがあります。その多くは錯覚ですが、中には錯覚とは言いがたいものもあります。自分で心霊写真を撮ることは少ないですが、職業柄、心霊写真の判定やお祓いを頼まれることが多いです。
 『怖い話のウラ話』第10話にも書きましたが、心霊写真は自動プリント・マシンが発明されてから世の中に増えました。それまでは写真屋さんが手作業で現像していましたので、奇妙な写真はおおぴらに現像

もっとみる
播磨陰陽師の独り言・第八十一話「映画ハーヴェイのこと」

播磨陰陽師の独り言・第八十一話「映画ハーヴェイのこと」

 いくつかの映画は様々な理由からテレビでは放映されなくなりました。昔は大丈夫だった映画も、最近はダメになりました。その理由の多くはテレビ局側の自主規制であって明確な理由は説明されません。そんな放映されなくなった映画の中に良い映画が含まれています。
 映画『ハーヴェイ』と呼ばれる作品もそのひとつです。ハーヴェイは主人公にだけ見える大きなウサギの名前です。
 映画『ロジャー・ラビット』の中に、
「大き

もっとみる
近世百物語・第六十二夜「仏法嫌い」

近世百物語・第六十二夜「仏法嫌い」

 私は自他共に認める仏法嫌いです。播磨陰陽師は神道系の陰陽師ですので、先祖代々、仏法そのものを嫌います。と言うのは、先祖が仏法に滅ぼされた物部一族の末裔にあたるからかも知れません。
 伝承にも、

——われらは、仏法僧を、嫌う者なり。

 と伝わっています。しかし、陰陽道には仏法系の陰陽師たちもいます。彼らは〈法師陰陽師〉と呼ばれ区別されています。特に播磨の国では、国内に住む法師陰陽師たちを忌み嫌

もっとみる
播磨陰陽師の独り言・第八十話「ブロック玩具」

播磨陰陽師の独り言・第八十話「ブロック玩具」

 以前に、子供の頃に、ダイアブロックなどのブロック玩具で遊んでいたことを書いていました。
 最近のブロック玩具は、あれからかなり進化しているようです。もう、五十年以上も経っているのだから当然と言えば当然です。
 幼い子供の知能のほとんどはブロック玩具か、粘土細工か、さもなくばお絵描きで養われて行きます。もちろん、私も例外ではありませんでした。幼い頃は、ダイアブロックと、油粘土と、ちびたクレヨンだけ

もっとみる
近世百物語・第六十一夜「生き物を食べる草」

近世百物語・第六十一夜「生き物を食べる草」

 以前、『近世百物語』第四十四夜の中に猫を食べる道について書きました。私は仔犬や小動物を食べる植物と言うものを見たことがあります。植物図鑑や資料ではそれらを見たことはありません。霊的な世界の住人なのかも知れません。図鑑に載っていない種類の生き物は霊的なものが多いです。
 生き物を食べる植物の多くは蔓系の植物です。人里と山の中間くらいの場所で時々見かけました。それが、そう言う種類の植物だと分かったの

もっとみる
播磨陰陽師の独り言・第七十九話「ピンホール・カメラ」

播磨陰陽師の独り言・第七十九話「ピンホール・カメラ」

 カメラが好きです。昔からカメラが好きでした。今はデジタル・カメラが主流ですが、昔はそんな物はありませんでした。
 最初に触ったカメラは自作のピンホール・カメラです。その前に雑誌の付録の日光写真を少しいじってから、雑誌に作り方が載っていたピンホール・カメラを作ってみたのです。
 日光写真と言うのは感熱紙のような紙の上に、絵の印刷された半透明の紙を乗せて、しばらく日光にさらすものです。インクのないと

もっとみる
近世百物語・第六十夜「お遍路さん」

近世百物語・第六十夜「お遍路さん」

 子供の頃、よくお遍路さんを見かけました。四国の八十八ヶ所を歩くあのお遍路さんです。行くところへ行けば珍しい姿ではないのでしょうが、なにせ十勝平野のことです。北海道には弘法大師の霊場などあろう筈もありません。それどころか寺や霊場すらあまり見かけません。お遍路さんたちの姿は、いつでも必ず、祖母の家の近くでのみ、見ていました。しかも夕方か夜にしか見たことがありません。
 お遍路さんどころか、虚無僧の姿

もっとみる
怖い話のウラ話・第17話「コップ酒の悪霊」

怖い話のウラ話・第17話「コップ酒の悪霊」

 ある番組で、自称霊能者の方が、
「コップにお酒をついで、部屋の真ん中に置いておくんです。翌日、お酒の味が落ちていたら悪い霊が入っているので……」
 と言いました。
 おいおい、悪い霊が入っている酒を味見するなよ。誰が考えるんだろうねそんな非常識なこと。仮に、もし悪霊が入っているお酒を飲んだとしたら、体内に侵入しますから……。悪霊を確かめるくらいのことで、人生が終わりになる可能性もあります。しかも

もっとみる
播磨陰陽師の独り言・第七十八話「エゾシカと醤油」

播磨陰陽師の独り言・第七十八話「エゾシカと醤油」

 わが家には何種類かの醤油があります。大手の有名な醤油はありませんが、いくつかの地方の特産醤油を取り寄せて使っています。
 実家の廊下には歩くのに邪魔な大きなフリーザーがあって、中に、時々、エゾシカの足が入っていました。横置きのフリーザーは丸ごとエゾシカの足が入ります。もちろん、鮭も、タラバガニも、切らずに入る大きさです。それはそれで良いのですが、なにせ廊下の半分を占領しているため、歩くには少々邪

もっとみる
近世百物語・第五十九夜「太陽が隠れる時」

近世百物語・第五十九夜「太陽が隠れる時」

 日蝕は太陽が隠れる現象です。古くから不吉なものとして考えられていました。『古事記』の中にも日の神がお隠れになって後、

——神々、手足の置きどころなく、萬の厄、ことごとく起これり。

 と伝わっています。

 いつだったか日蝕の時に亡霊を見たことがあります。街に溢れるような不気味な黒い人影の集団だったので、もしかすると亡霊ではなかったのかも知れません。その時は、たくさんの不気味な気配がして騒がし

もっとみる
播磨陰陽師の独り言・第七十七話「大正琴の音色」

播磨陰陽師の独り言・第七十七話「大正琴の音色」

 子供の頃、家にあった唯一の楽器は大正琴でした。大正琴と言うのは、大正時代に作られた琴の一種です。鍵盤の部分に数字が書いてあり、オタマジャクシではなく、数字の楽譜を見て演奏する楽器です。もちろん、小学校で買わされるピアニカやリコーダーはありました。それらは、音楽室以外では袋に入っていて練習することもありません。
 大正琴と言えば、
——いのち短かし、恋せよ乙女。あかき唇、あせぬ間に……。
 と、ゴ

もっとみる