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播磨陰陽師の独り言・第七十七話「大正琴の音色」
子供の頃、家にあった唯一の楽器は大正琴でした。大正琴と言うのは、大正時代に作られた琴の一種です。鍵盤の部分に数字が書いてあり、オタマジャクシではなく、数字の楽譜を見て演奏する楽器です。もちろん、小学校で買わされるピアニカやリコーダーはありました。それらは、音楽室以外では袋に入っていて練習することもありません。
大正琴と言えば、
——いのち短かし、恋せよ乙女。あかき唇、あせぬ間に……。
と、ゴンドラの唄が頭をよぎります。
大正琴を使っていた母が、その曲くらいしかまともに弾けなかったこともあり、当時、森繁久弥さんが紅白で歌って流行していたこともあって、どこへ行ってもその曲ばかり聞くのです。
私はゴンドラの唄を聴くと黒沢監督の映画『生きる』を思い出します。映画の中で志村喬さんが演じる主人公が、夜の公園のブランコに乗って涙を流しながら唄うゴンドラの唄は、忘れることの出来ないシーンのひとつです。最初にレーサーディスクを買った時は、この『生きる』のディスクを買いました。
さて、最近、カゴピタで何度か大正琴を見かけました。カゴピタと言うのは鹿児島のテレビ局で放送されている番組で、中で流れている〈ぶらり行ってみっが〉と言うコーナーをオンデマンドで見ることが出来ます。鹿児島弁好きな私としては見ない訳にはまいりません。ちなみに、大阪で入院していた病院の看護師さんたちは、なぜか、ほとんど鹿児島の人でした。鹿児島の人は、とても優しい感じがします。そのカゴピタの番組の中の鹿児島市内をぶらぶらして面白そうな場所にぶらりと入ってレポートする番組が〈ぶらり行ってみっが〉なのです。鹿児島には、まだまだ大正琴の教室が多いようで、時々、番組の中で大正琴を見かけます。
最近は、電子大正琴と言う楽器があるそうです。電子大正琴は大正琴の形をした電子楽器です。専用の弓でバイオリンのような音まで出せるそうです。チャンスがあったら触ってみたいなぁ。
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