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近世百物語・第五十九夜「太陽が隠れる時」

 日蝕にっしょくは太陽が隠れる現象です。古くから不吉なものとして考えられていました。『古事記』の中にも日の神がお隠れになって後、

——神々、手足の置きどころなく、よろずわざわい、ことごとく起これり。

 と伝わっています。

 いつだったか日蝕の時に亡霊を見たことがあります。街に溢れるような不気味な黒い人影の集団だったので、もしかすると亡霊ではなかったのかも知れません。その時は、たくさんの不気味な気配がして騒がしい気がしました。何やら心が落ち着かずイライラしていました。天候に影響されてこのような体験をすることも多いので、
——出来る限り気を落ちつけよう。
 と思いながら外の景色を見ていました。その時です、日蝕がはじまったのか、景色が暗くなりました。そして薄暗い景色の中にポツンポツンと人影が見え出したのです。最初、それはただの影のように見えました。かなり大量に見えたので、
——目の錯覚にしては激しいな。
 と思いながら見ていると、次第に輪郭がクッキリとしてきました。あきらかな人影ですが、ただ黒いだけで目鼻がハッキリと見えません。太った影とか痩せた影とか色々と見えました。同じ影を見ている訳ではありませんでした。ただそれだけで、明るくなるに従って影は消えてゆきました。
 それは陸地で見たのですが、船幽霊に似ていました。私は、毎回、見たものの正体をハッキリと認識出来ている訳ではありません。一瞬過ぎてとか不気味過ぎてとかの時は、細かい部分が記憶に残らないので、何だか分からない場合もあります。それは霊的な現象に限りませんが……。
 世の中には日蝕の関係で悪夢を見る人も多いです。しかし、そのことを知る人は少ないです。
 時々、
「どうして、このような悪夢を見るのでしょう?」
 と聞かれます。それは新月とか月の影響や、日蝕、自然の現象に影響されて見るものです。悪夢を見る場合は、人、それぞれの傾向と言うものがあります。この世には不吉な現象が様々あります。たとえば、たくさんの人々が天災で亡くなれば、その影響で悪夢を見る人が増えます。この現象は何も国内に限ったことではありません。外国で多くの人々が亡くなっても影響を受けるのです。もちろん、距離が近ければ近いほど影響は強くなります。隣の家で誰か殺されでもしたら、その影響は最大になります。そして悪夢を見るのです。

 奇妙な現象と言えば、最近、よくオタマジャクシが空から降ってくるニュースを見ます。これは幕末にもかなり頻繁に見られた現象です。
 一説によると、
「カモメが水と一緒にオタマジャクシを吸い込んで、飛んでる最中に吐いたのでは?」
 と言う説もあります。
 それはあるかも知れません。だとしたら、毎年、降るのではないのでしょうか?
 私は見たことがありませんが、祖母から、昔、聞いた話や先輩たちの体験談によると、

——雨が空中でオタマジャクシのようなものに変化して地面に落ちる現象である。

 と言うことです。
 普通、それは地面に落ちると元の雨のしずくに戻って地面に吸い込まれてしまうのですが、時としてそのままの形で、残る場合があります。それが、降って来たオタマジャクシの正体だそうです。これは別にオタマジャクシに限定される現象ではないので、蛙とか、魚とか、びっくりするのは霊符が降って来た例まであります。
 それを祖母の祖父が、若い時に見たそうです。祖母は、その時のことを思い出して、
「おじぃ様は、霊符の種類は分からないと言っていたんじゃ。いいか、あのように詳しい方が、自分が見たものの種類が分からないなど余程のことじゃ」
 と言っていました。
 そんな時は、風に乗って不気味な声が聞こえるそうです。この不気味な声は何度か聞いたことがあります。もっとも、私が聞いたのは声だけですが、それは女の人の笑い声のようなものでした。中学生の頃にそれを聞きました。
 地平線が見えるような広い十勝平野の真ん中で激しい風が吹いている時、突然、風が止み、声が聞こえたのです。私は、ただひとり広い大地に立っていました。もう時刻は夕方でした。自転車でひとりで移動している途中に風が激く吹いていたのです。見える場所に人工物はありません。当然、誰ひとりとして見える場所にはいないのです。しかし、耳元で女の人の声が聞こえます。しかも笑っているようです。次第に暗くなるあたりの景色に不釣り合な気がしました。そして、突然、激しい雷が聞こえ、さらに雨まで降って来ました。その時の雨は生臭い感じがしました。

 日蝕の時は、空が不安定なのでパソコンの調子が悪かったりします。雷の時も同じです。そして、人の心の調子も体調も悪くなる人が増えるのです。
 世界中のシャーマンたちは、
「この日には、外に出ず、静かに祈りを捧げるのだ」
 と言っています。なのに日蝕を見物に行く人も多いです。それは、ただの天体ショーとしてしか考えていないからです。

——天に対するつつしみを失えば、知らず知らずに不幸が忍びよって来る。

 と伝わります。
 天に対する慎みを失うことは、人に対する慎みも持たないと言うことです。そのような人は、常にトラブルの原因を作ります。そのトラブルが不幸を呼び込むのです。
 私の知り合いも、何人か日蝕を見るために、わざわざ旅行したようです。その人たちがあとで不幸になったとしても自業自得なので、
——これからの、その人達との付き合いをなしにしよう。
 と考えています。
 不幸を好む人と付き合わないのは、とても重要な物事です。不幸な人は、まわりを巻き込んで不幸を振り撒く傾向を持ちます。どうか、不幸を好む人に巻き込まれないでください。これは、このブログと一緒に書いている『不幸のすべて』のテーマでもありますので……。
 日蝕のわざわいは『不幸のすべて』第三十五話の中にある祓詞はらえことばなどを唱えて、各人で各々祓うことをお進めします。

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