マガジンのカバー画像

Fake,Face

17
単調な日常に現れた異変。見慣れた人が別人となっている。そして自分自身は本物なのか。意表を突くグレー・ファンタジーをお楽しみください。
運営しているクリエイター

#小説

Fake,Face 17

 近所の眼科で検査を受け、眼球そのものには異常がなかったが、ヨシオの顔は右半分がガーゼで…

Fake,Face 16

 「ギャー」  女の悲鳴で、ヨシオは目を覚ました。 妻のキョウコが叫んでいる。  「そ…

Fake,Face 15

 とはいえコロナ禍で痛めつけられた財政と経済によって、インフレが進んで虎の子の退職金は軽…

Fake,Face 14

 なおもヨシオは居酒屋の片隅で杯を重ねた。記憶の泉から、あのオーストラリア旅行の思い出を…

Fake,Face 13

 ほとんどの旅行者は帽子の上からネットをかぶり、顔を守っていた。  「こんな虫のこと、ガ…

Fake,Face 12

 ヨシオはレンタカーに飛び込むと、エンジンキーを回し同時に前後の窓を全開にしながらアクセ…

Fake,Face 11

 ヨシオは一瞬にして激しく泣いた。男は驚いてヨシオがつかんでいた足を引いた。同時に、近くから「ヨシオが!」と呼ぶ父の声が聞こえ、すぐに抱き上げられた。  「子どもが、その、済みません」  「いや、いいですよ」  そんなやり取りが交わされ、ヨシオはなおも父にしがみついて泣き続けた。  「お父さんに似てきたね」  子どものころのヨシオは、そう言われると嬉しかった。強くて器用な父。父のような男になって、きれいに磨いた革靴で砂粒を踏みつぶす音を立てたかった。  しかし、成長して父を

Fake,Face 10

 「なぜこっちが気になる?」  ヨシオは2本目の酒を注文してから、しばらく目を閉じ、財布…

Fake,Face 9

 ヨシオは図書館を出て、商店街をあてもなく歩いた。街は何事もなかったようなたたずまいで、…

Fake,Face 8

 「こうなれば図書館で確かめるか·····」  ヨシオは手早く身支度を調え、野球帽をかぶ…

Fake,Face 7

 事態に納得できないヨシオは思い立ってスマートフォンを取った。  「あいつに電話して確か…

Fake,Face 6

 「妻が帰ってきたのか?」  それにしては少し早い。ドアフォンのモニターを見ると、ウェブ…

Fake,Face 5

 テレビ映像でも、ネット検索でも、アドルフ・ヒトラーとアルベルト・アインシュタインの容貌…

Fake,Face 4

 どこかで狂っている―。ゴーンと鳴り響く寺院の鐘の中にいるような、激しい混乱にヨシオは目を閉じた。  いや、これはテレビを観ている者、ヨシオの側に問題があるのかもしれいない。映像はアドルフ・ヒトラーの顔のヒトラーが映っているが、ヨシオだけがヒトラーの顔をアルベルト・アインシュタインの顔に置き換えているのではないか···。  自分の認識が間違っているのか。むしろその可能性の方が高い。  しかし突然そんなことが起こるのか。昨晩は深酒をしていない。もちろん二日酔いではない。熱もない