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Fake,Face 15

 とはいえコロナ禍で痛めつけられた財政と経済によって、インフレが進んで虎の子の退職金は軽くなっていった。もちろん感染による死亡リスクは、若い世代よりも高かった。
 コロナ後の世界は、社会の断層が低所得者や年金生活者を刃物のように切り裂いていった。
 30年前、冷戦に勝利した資本主義は本能に秘めた牙をむき、パンデミックが格差社会に追い打ちをかけた。
 ただこのタイミングに、感染症が広がる現実世界とは異なり、人間はデジタル空間という新天地を造った。
 しかしそこには何が待ってたのか。コンピューターウイルスという感染症だけでなく、真偽不明の情報があふれる世界。ここにも無限の可能性と闇があった。
 熱い酒は熱を失っていった。

 ヨシオはまだ酔っていないと思った。しかし、酔っていないと思い始めるとき、すでに酔いが回っている。
 ニュースを流していた居酒屋のテレビはサッカー中継になっていて、大相撲の白鵬がゴール前で鋭く切り返しきれいなゴールを決めた。抜かれた相手チームのデフェンスは安倍晋三だった。白鵬の腕が目を突いたと審判のバラク・オバマに激しく詰め寄って、選手らは入り乱れて騒然となった。ボールを持って何やら叫んでいるゴールキーパーはパブロ・ピカソで、モハメド・アリは騒ぎから離れて······

 今朝、目覚めがけに見た夢とまったく同じ映像だった。
 「そんなに飲んだか?」
 レジにいたモナ・リザに代金を払って、ヨシオは店を出た。足取りが乱れるほどではなかったが、腰が引けた後ろ姿は老人のものだった。
 通りではカルロス・ゴーンがフレンチブルドッグに引っ張られて散歩していた。犬はかつて仲の良かった同僚の顔をして、電柱のにおいを嗅いでいた。

 すっかり酔いが回ったヨシオは、タクシーに乗り込んで行き先を告げた。運転手が確認のためルームミラー越しに後ろを見た。
 「シートベルトをお願いします」
 ミハイル・ゴルバチョフが愛想良くハンドルを切った。

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アキボー@時代遅れのジャーナリスト
シニアの旅に挑戦しながら、旅行記や短編小説を書きます。写真も好きで、歴史へのこだわりも。新聞社時代の裏話もたまに登場します。「面白そう」と思われたら、ご支援を!