行夜梛

作家志望による似非エッセイ集【ゴールデンレコード】 https://mobile.twitter.com/yukiya__nagi

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最近の記事

似非エッセイ#19『声』

ついに起きてしまった。 誰かが言った。 一方で 起こるべくして起きた。 との声も挙がる。 声が行き交っている。 大きな声に小さな声。 熱がこもった声と冷めた声。 憂う声。願う声。絶望する(した)声。 助けを求める声。 鼓舞する声。 世界中で声が行き交っている。 その最中で多くの声が 今まさに『その地』で 失われている。 届かない声ばかりが 今日もまた響く。

    • 似非エッセイ#18『すべての前日』

      本を読んだ。 2016年に相模原の障害者施設で起きた戦後最悪とも呼ばれた無差別大量殺人事件についての本。 ある章で被害者遺族や被告の友人たちによる裁判内での証言をまとめられていた。 あまりにも突然に、そして理不尽に家族を奪われた遺族たちの憎悪と無念がこもった証言もさることながら、特に興味深かったのは被告の友人ら(元交際相手含む)の証言だった。 今回初めて知ったのだけど、この事件の犯人(死刑が確定し現在は死刑囚)は、事件前から多くの友人知人に犯行を仄めかす発言を繰り返していた

      • 似非エッセイ#17『餃子と元恋人たち』

        昨日仕事でチルドの餃子を品出ししていて、ふと気付いたことがあった。 今まで付き合った女性と餃子には妙な縁があるな、と。 シンプルなのでいえば、この世の食べ物の中で一番餃子が好きだという元カノがいた。 また別の元カノは、僕と別れてから餃子のチェーン店で働き出した。 一番印象的なのは、僕が人生で唯一相手の実家まで足を運んだ元カノだ。 確か僕が20歳になったばかりの頃だった。 僕、元カノ、その母親、妹、弟 その五人で餃子を作った。 自他共に認める人見知りの僕が、初対面の相手家

        • 似非エッセイ#16『理不尽様へ』

          我ながら日陰の人生を歩んできたと自負がある。のっけからこんなことを語るのもどうかと思うが事実だ。 これもまた、胸を張って言うことではないけど、人間それぞれ持つ『運』を数値化したら、自分の数値は平均を遥かに下回るだろう。自信がある。 もちろん自分の努力や頑張りが足りないのもあると思う。でもそれでもやっぱり、努力や頑張りでどうにも出来ない部分、つまり『運』には恵まれているとは例え口を裂けられても(?)口にしたくはない。 具体的にどう運が悪いかとかはあえて書かない。誰も読みたくない

          似非エッセイ#15『大人になれないまま』

          あいつとはもう10年近く会っていなかった。 いつか、そのうち、また、会えると思っていた。 当たり前だ。だって俺たちはまだ30代を折り返したばかりじゃないか。 二度と会えなくなるにはあまりにも早過ぎる。 なのに、あいつは先に行った。 若い時からヤンチャくれで、入学式で喧嘩して高校を初日から停学になるような奴だった。 ある日偶然街であった時は、警察に連れて行かれている最中だった。 また別の日。俺が同じ高校の友達とゲームセンターにいたら悪そうな集団によくわからない理由で絡まれた。

          似非エッセイ#15『大人になれないまま』

          似非エッセイ#14『(限)無題』

          映画脚本なり小説なりを書き始めて10年以上になる。 いくつ書き上げたか覚えてないけど、すべてに必ず題名をつけてきた。 書いている途中に思いつく、あるいは題名が先に思い付いて書き出す場合はいいのだけど、そうでない時は悩みの種になる。 有名な落語(余談だけど個人的に最近落語ブーム到来中)で「寿限無」という演目がある。 大切な子供の名前が決められず、寺の和尚に縁起のいい言葉を次々に聞き出して、結局勿体ないからと全部付けてしまうというアレだ。 作者にとって作品はいわば我が子。気持

          似非エッセイ#14『(限)無題』

          似非エッセイ#13『腕時計』

          最近、よく腕時計が遅れる。 それなりに使っているから仕方がないとは いえ、ネジを回す度になんだか物寂しくなる。 ちなみに断然アナログ派で、細かい話をするとすーっと進むタイプよりも、カチ、カチと一秒ずつ刻む秒針の方が好み。 文字盤っていう響きもたまらない。 むかし密着番組で見た時計職人の仕事は 途方に暮れるような作業の連続だった。 憧れるけど、不器用で忍耐弱い自分には絶対に無理だと思った。 完成した時計の値段にまたびっくり。 1000万を腕に巻くってどんな心境だよ。 持っ

          似非エッセイ#13『腕時計』

          似非エッセイ番外編『再開』

          前回の記事からなんと一年。 何をしていたかというと相変わらず小説を書いていたわけですが、これがまあ筆が乗らない乗らない! 小説が乗らないのだからこちらのnoteも乗らないわけで、気付けば一年経過です。 世間がようやく少し、あの頃に戻りかけたこのタイミングで、何食わぬ顔で戻ってきました。 変わったことといえばペンネームですね。 これからは行夜凪(ゆきやなぎ)と申しますことに決めました。 これからもマイペースに、書きたいことがある時に書きにこようと思います。 あくまで最優

          似非エッセイ番外編『再開』

          似非エッセイ#12『血』

          先日久しぶりに血を抜いた。 あれはいつになっても慣れない。出来る事ならもう一生ごめんだ。 ほとんどの人が同じだと思うけれど僕は血が苦手だ。 たとえ自分のものでなくても血を見ると、まるで自分の体内から血が失われているような錯覚で頭に不快な浮遊感が押し寄せる。 思うにあの独特な、赤黒い色が良くないのだろう。 映画などに出てくる血はほとんどが作り物だけど、たまに本物そっくりのあの嫌な色をしたものもあって一瞬現実との境を見失いかける。 そう考えるとフィクション内の残酷シーン(いわゆる

          似非エッセイ#12『血』

          似非エッセイ#11『この日』

          忘れられない日がある。 一日という事でなく日付という意味で。 そのひとつが今日だ。 ずっと遠い昔、僕は“この日”のために一本の腕時計を買った。 目にも止まらぬまま過ぎてゆく時を 目に見えるよう刻んでくれる存在。 確かベルトの色は赤でシンプルな文字盤のデザインをしていた。 当時の僕はまだ社会人二年目だったから決して高級な品ではなかった。 それでもずっと遠い昔の“今日”、それを渡した相手は子供のように喜んでくれた。 手首に巻いてからしばらくの間、刻まれる時をじっと眺め続けてい

          似非エッセイ#11『この日』

          似非エッセイ#10『途中』

          相変わらず間が空いてばかりの似非エッセイ。 なんと八月はまるまるスルーという体たらく。 ならば!と九月は初日から書いてみる。 とはいえ過ごす日々に変わりはなく、来る日も来る日も仕事→執筆→仕事のループ。 そんな中でもうすぐ歳をまたひとつ重ねてしまうわけで、、 だけど実際のところ、誕生日を迎えたからといって自分が歳をとったという実感はあまりない。 身体にメーターでもあればわかりやすいのだけどそれもない。 だから蝋燭を吹き消したり、クラッカーから飛び出す紙を浴びたりして、なんとか

          似非エッセイ#10『途中』

          似非エッセイ#09『斜めからの眺め』

          その夜、毎週欠かさず観ていたテレビドラマを観終わった後で僕はふらっと家を出た。 山の中にある実家から、街灯もない細い道を下って下って、やっと広い道路に出ると目の前に母校である中学校のプールが現れる。 もちろん外からは見えないようになっているし、まして中に忍び込む事なんて絶対に出来ない。 だけどその夜、僕はどうしてもそのプールに忍び込みたかった。 ついさっきまで見ていた、男子高校生がシンクロをやるドラマの影響も多分にあったけど、端っこの辺りには別の理由が隠れていた。 それは僕

          似非エッセイ#09『斜めからの眺め』

          似非エッセイ#08『世の、中で、今』

          新人賞応募のための小説執筆に集中していたため、約1ヶ月ぶりの似非エッセイ。 相変わらず仕事は休みの方が多いという状況だが、給付金も無事に振り込まれ、休んでばかりの割には経済的には珍しく余裕がある。 しかし、いつもより暇もお金もあるというのに行動にはまだ制限がある。 あまりにも色々な面でちぐはぐし過ぎていて、まるで現実のすぐ隣の穴ぐらで身を潜めているような感覚だ。 喩えるならば現実世界とのかくれんぼ。 もし見つかってしまったら、本来過ごすはずだった現実に戻される。 週に5日

          似非エッセイ#08『世の、中で、今』

          似非エッセイ#07『厄介もの』

          自分の中に確かに存在しているのに、決して表に出てこない奴がいる。 時に言葉であったり、思考であったり、表情であったりする。形を変えたがる奴らしい。 こうして文章を書いている時なんかは特に逃げ足が早い。そのくせ時々「鬼さんこちら」と挑発してくる。 お前の目的は何だ?というかお前は何なんだ? 肝心な質問には一切黙りを決め込む。 僕が小説を書くのは、こいつの正体を暴くためなのではないか。そんな気がしている。 だったらこの先もうまく逃げ続けてくれよ。そう願う自分もいる。 ああ

          似非エッセイ#07『厄介もの』

          似非エッセイ#06『その味は屈辱』

          恥ずかしながら食べ物の好き嫌いがとても多い。例を挙げるのもキリがないくらい、とにかく食べれない物ばかりだ。 単純に味が苦手な物から、見た目で拒否反応が出てしまう食わず嫌い、食あたりのトラウマ、など理由は様々だ。 周りからはよくこんな事を言われる。 『食べてみれば美味しいって』 特に食わず嫌いな物について話す時によく耳にする言葉だ。 だが、自分の味覚が人よりも異常だと自覚している身としては、理屈はわかるのだが、やはり僕にとっては負け濃厚のギャンブルなのだ。 だから外食の時も、

          似非エッセイ#06『その味は屈辱』

          似非エッセイ#05『俯瞰』

          直角に見下ろすのがたまらなく好きだ。 たとえば、コーヒーカップ。 揺れる水面。深く透き通った黒。 香りのオマケまでついてくる。この上ない贅沢。 高い所は苦手だけど、街並みや交差点なんかを真上から映した画にはつい目がいってしまう。 ずっと昔、ストックフォトの会社で働いていた時、すべてを俯瞰アングルだけで撮影するという企画をやった。 床も壁も真っ白ないわゆる【白ホリ】と呼ばれるスタジオに、デスクやパソコン、ソファなどを配置してビジネスシーンから日常生活の切り取りまでアイデアと

          似非エッセイ#05『俯瞰』