似非エッセイ#12『血』

先日久しぶりに血を抜いた。
あれはいつになっても慣れない。出来る事ならもう一生ごめんだ。
ほとんどの人が同じだと思うけれど僕は血が苦手だ。
たとえ自分のものでなくても血を見ると、まるで自分の体内から血が失われているような錯覚で頭に不快な浮遊感が押し寄せる。
思うにあの独特な、赤黒い色が良くないのだろう。
映画などに出てくる血はほとんどが作り物だけど、たまに本物そっくりのあの嫌な色をしたものもあって一瞬現実との境を見失いかける。
そう考えるとフィクション内の残酷シーン(いわゆるグロ描写)への耐性も昔より下がった気がする。
拳銃で撃たれる場面なんかは今でも割と平気だけど、個人的には刃物を使われると目を背けがちになる。刃物でも【刺す】はまだ耐えられるけど、【切る】には滅法弱い。
北野武監督作品の人気シリーズ『アウトレイジ』の一作目で、ある物を使ってヤクザが指を詰めるシーンがある。当時劇場で観ていた僕は思い切り瞼を閉じた。家で観ていたら情けない悲鳴を上げていただろう。未だに思い出すだけで背筋が凍る。

だから【刺す】だけの注射(予防接種とか)なら実はそこまで苦手ではない。
血が抜かれるという行為が怖いのだ。もちろん最中の僕は目を瞑るか逸らすかしている。直視など到底できない。
そんなわけで久しぶりの採血はいつもより長く感じた。
気を紛らすため楽しい事を考えようとしたけど咄嗟に浮かばずにひたすら天井を眺めていた。真っ白にな天井は遠いようで近いようで、やっぱり遠いと思った。
僕の血は一体どんな色をしていたのだろうか。
できればこの先もそれを知らぬまま過ごしていきたいものだ。




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