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伊島 秀_Shu Ijima
2024年11月22日 18:49
作者:大江健三郎(1935〜2023)作品名:「死者の奢り」刊行年:1958年刊行(日本)戦後日本の不条理と存在の虚無を鋭く描き出した作品。[あらすじ]主人公である「私」は、病院の死体安置所で働く若い男である。彼の日常は、死者たちを運ぶ単調な労働によって成り立っている。しかし、その単調さの中に、死の冷たさや生きることへの不可解さが浮かび上がる。ある日、「私」は職場の女性である「
2024年11月10日 21:57
作者:アンドレ・ジッド(1869〜1951)作品名:「田園交響楽」(訳:中村真一郎)刊行年:1919年刊行(フランス)善意と自己欺瞞、愛とエゴが交錯した人間の心を鋭くえぐる悲劇。[あらすじ]アンドレ・ジッドの『田園交響楽』は、スイスの牧歌的な自然に抱かれた小さな村を舞台に、盲目の孤児ジェルトリュードを保護した一人の牧師の内なる葛藤を描き出す。神の使徒としての信仰心に燃える彼は、天の
2024年11月9日 06:29
作者:萩原朔太郎(1886〜1942)作品名:「萩原朔太郎詩集」刊行年:1981年刊行(日本)孤独を纏い、言葉をつむぐ詩の革命者の静かな叫び。[読後の印象]私が萩原朔太郎の詩は、私にとってある意味で罪である。私の心の奥底で詩への憧憬を宿らせ、現実の世界から剥がしたのは、紛れもなく萩原朔太郎の詩そのものでもあるのだ。萩原朔太郎の詩集は、日本近代詩に革命的変容をもたらした。その詩
2024年11月2日 10:13
作者:高村光太郎(1883〜1956)作品名:「高村光太郎詩集」刊行年:1948年刊行(日本)自然、愛、そして人の魂が響きあう、温かく力強い生の賛歌。[読後の印象]私の記憶を辿ると、いわゆる近代詩という形式を意識的に読んだ初めての詩は、おそらく高村光太郎だろう。高村光太郎の詩集、とりわけ『智恵子抄』や詩「道程」に表されたその詩情は、日本近代詩における不朽の金字塔であり、今日に至るま
2024年10月26日 21:32
作者:谷崎潤一郎(1886〜1965)作品名:「秘密」刊行年:1911年刊行(日本)谷崎美学が凝縮した、闇に潜む欲望と退廃の誘惑。[あらすじ]夜の闇を纏った街を舞台に、人間の愛と欲望、そして自己の本質に迫る物語である。主人公は誰にも知られぬ秘密を抱え、自己の性を超えた扮装に身を委ね、夜毎、化粧と女装を纏い彷徨う。ある夜、ふいに現れた過去の恋人であり妖艶なT女との再会によって、主人
2024年10月18日 07:02
作者:太宰治(1909〜1948)作品名:「人間失格」刊行年:1948年刊行(日本)ニヒリズムと自己憐憫に終始した感傷的な告白。[あらすじ]ひとりの男が己の存在そのものを否定し、破滅へと向かう生の悲劇を冷徹に描いた作品である。大庭葉蔵という人物は、他者との交わりにおいて自らを欺き、仮面をかぶり続けることでしか生きられぬ卑小な存在である。彼の心には社会との隔絶と自己嫌悪が絶えず巣食
2024年10月13日 16:28
作者:夏目漱石(1867〜1916)作品名:「こころ」刊行年:1914年刊行(日本)明治から大正へと移り変わる激動の時代に描いた、恋という原罪。[あらすじ]明治時代末期の日本を舞台に、人間関係、恋という罪の意識、そして孤独といった根源的なテーマを描いた作品である。「先生」と呼ばれる謎めいた男性と、その先生に惹かれる「私」(語り手)との関係を中心に物語は進んでゆく。三部構成の物語は