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ゲンバノミライ(仮)

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被災した街の復興プロジェクトを舞台に、現場を取り巻く人たちや工事につながっている人たちの日常や思いを短く綴っていきます。※完全なるフィクションです。実在の人物や組織、場所、技術な…
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#復興

第69話 ワイヤーソーの舞さん

第69話 ワイヤーソーの舞さん

「ほら、見てください! きれいな断面。ぎっしりと詰まっています」

コンクリート構造物を解体する会社で働く梶原舞は、構造物の切断作業が終わった後に現れた表面を、必ずじっくりと見定める。

「いい仕事してましたね!」

隣にいる現場監督の山内衛にそう話し掛けると、「おうっ」と応じた。
照れているのか目を合わさないが、目元は緩んでいる。

「中がスカスカだったら、どうしよう…。その時は黙っていてくれよ

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第68話 親不孝な高山さん

第68話 親不孝な高山さん

「レベルはオッケー?」
「一番奥がもうちょい下かな」
「これくらい?」
「もう一押し。もうちょい。
はい、オッケー!」

高山伸也はユニットバスの施工を専門とする職人だ。
決められた高さにユニットバスの床を据え付けて、水平器で傾斜をチェックした。定規のようなアルミ製フレームの中央に液体が詰まっているガラス管があり、気泡の位置と目盛りを見ながら、水平かどうかを確認する昔ながらの測定器だ。高山はデジタ

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第67話 海を望む和也さん

第67話 海を望む和也さん

「空き地だって希望だ」。
森本和也は、このキャッチコピーに触れた時、頭に血が上った。
心の奥底から憤りがわき上がってきた。

和也は、海辺にあるこの街の小さな集落で生まれ育った。
2階の自分の部屋から、海を見るのが好きだった。海が怖いなんて、あの日まで知らなかった。

結婚前に、妻になるさくらを初めて連れてきた時に、「私もこの景色が好き」と言ってくれた。だから、生まれた娘には、海からの希望とともに

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第65話 わびおの小田君

第65話 わびおの小田君

「大丈夫ですか!! どこにいるんですか!!」

あの災害で甚大な被害を受けた海辺の街の復興プロジェクトで、下請け建設会社の土木技術者として働く小田文男は、現場に出て陣頭指揮を執っていた。そこに、専務である久保拓也から電話が入った。

「事故った。すまない。
田辺さん…、CJVの田辺さんに申し訳ございませんと、それだけ伝えてほしい。頼む…」

か細い声で言われたところで、ガタッと音がした。

携帯電

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第64話 ジエンドの久保専務

第64話 ジエンドの久保専務

ああ、俺の人生終わった…。

ゆっくりと目を開く。顔の前面にはエアバッグが広がっている。フロントガラスが派手に割れている。
頭が痛い。顔の右側で血が滴り落ちている。どこが切れているのかは分からない。

「大丈夫ですか!」

ドアの外から人の声が聞こえる。
シートベルトを外して、ドアを開けて、外に出て…。
やるべき事はうっすら思い至るのだが、体が動かない。

ああ…、痛い。苦しい…。

力が抜けてい

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第63話 待ちの田辺さん

第63話 待ちの田辺さん

「申し訳ございません!!

うちの専務が交通事故を起こしました。救急車で病院に搬送されています。

容態は分かりませんが、自分から電話を掛けてきたので、命に別状はないと思いますが…。
田辺さんにだけは連絡してくれと、お詫びを伝えてくれと、そう申しておりましたので電話しました」

この街の復興事業を一体的に手掛けているコーポレーティッド・ジョイントベンチャー、いわゆる「CJV」の事務所に、下請け企業

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第58話 相棒思いの信さん

第58話 相棒思いの信さん

塩化ビニールの排水管がゆっくりと所定の位置に寄ってくる。
あらかじめ設置してある片側の固定金具にぴったりとはまった。
据え付けの軸線にしっかりと沿っている。鉛直の精度も所定の範囲内だ。
大塚信は、スマートグラスをいったん外して上下の取り合いや異常が無いことを確認すると、反対側の固定金具をはめて、ボルトを軽く差し込んだ。
再び、スマートグラスを装着して、タブレット端末からOKを指示した。ボルトを締め

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ゲンバノミライ(仮) 第57話 丸の智さん

ゲンバノミライ(仮) 第57話 丸の智さん

自分にとって大事な仕事になる。そう思って乗り込んだ現場に、よりによってあの人がいるなんて。運が悪いというか、何というか。いや、むしろ、天が与えてくれたチャンスと思うべきなのか。
大事なのは平常心だ。磨き上げてきた自分の腕を信じて、いつも通り、一つ一つの作業を精緻に進めていけば良い。

真っ暗で高いと同時に深い縦穴。転落すれば命を失う危険な場所だ。巨大な生物が息を吸い上げるように風が下から上へと通り

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ゲンバノミライ(仮) 第56話 遠くからのエリーさん

ゲンバノミライ(仮) 第56話 遠くからのエリーさん

窓を開けると、鮮やかに朝日が差し込んできた。冷え込む時期に入ったが、こうやって日の光を浴びると温かい気持ちになる。
垣田エリーは、酸味のきいたブラックコーヒーを一口飲んで、いつものように設計システムを立ち上げた。担当する大型複合施設の規模縮小に向けた設計変更作業が、大詰めを迎えていた。
海辺の街の復興に向けて、構想立案から調査・設計、施工、その後の運営までを一手に担うコーポレーティッド・ジョイント

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ゲンバノミライ(仮) 第55話 時代遅れの永井さん

ゲンバノミライ(仮) 第55話 時代遅れの永井さん

じりじり、じりじり。
右から左へとゆっくりゆっくりと手を動かしていく、
まばゆい火花が散る中で、母材となる金属を超高温で溶融させて少しずつ重ねながら、接合させる。
肉眼で見てはいけないため、もちろん、遮光ガラスが付いた保護面越しの光景だ。

隙間やくぼみなどがあってはいけない。
ロボットのよりも緻密にきれいに仕上げてやる。

絶対に負けてはいけない。
そう思う。
一方で、自分は一体何と戦っているの

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ゲンバノミライ(仮)第54話 モデルの村井さん

ゲンバノミライ(仮)第54話 モデルの村井さん

「すごいです!
絵を描かせてください」

最初にそう言われたときに、意味が分からなかった。
誇らしいとか、恥ずかしいとか、そういう感情よりも、馬鹿にされていると思った。新手の詐欺かもしれないと疑った。

村井武則は、解体工事の現場で散水作業を担当している。
新しい建物などを構築する前に、既存の構造物を壊して更地に戻すのが解体屋の役目だ。安全に物を壊すという作業は緻密な計画が不可欠で、難しい現場も少

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ゲンバノミライ(仮) 第53話 笑顔の黒田さん

ゲンバノミライ(仮) 第53話 笑顔の黒田さん

くっくっくっ。笑いを押し殺す苦しそうな息づかいが車内にまん延する。
黒田沙織は、仕事を終えて会社の寮まで帰るまでのこの時間が1日で一番好きだ。

車から下りると、先輩の梨本洋子が距離を取ってから「あ~あ。もう笑いが止まらなくておかしくなりそうだったわよ。ここまで来ると、テレビ番組の罰ゲームだよ」と声を吐き出した。ほかの面々も「さおりんの話は中毒性があるよな。お笑い芸人になった方がいいよ」「俺も死に

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ゲンバノミライ(仮)第52話  懇願する本村さん

ゲンバノミライ(仮)第52話  懇願する本村さん

「なぜ、あんなことをやろうと思ったんですか?」
「やるせなくなって、やりきれなくなって。だって嘘じゃないですか。復興だなんて。よくそんなことが言えますよね」
「この街を復興させようと多くの方々が努力しているのは事実ですよ」

「復興って、何ですか? ビルができることですか?」

「違います。普通の暮らしに戻ることです。それは、前とまったく同じではないかもしれません。残念ですが、同じ形を再現すること

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ゲンバノミライ(仮)第48話 警察の小池警部補

ゲンバノミライ(仮)第48話 警察の小池警部補

窃盗事件の処理をしていた小池義之警部補に建設現場での事故の第一報が入ったのは、午後過ぎのことだった。

「よりによって…」
思わず言葉が漏れた。

復興街づくりのシンボルとなる工事で、この街の誰もが知っている。徐々にそびえ立っていく姿を見るたびに、ワクワクする気持ちがわき上がっていた。無事に工事が完成してほしい。門外漢の小池でさえ、そう思っていたのだ。

「すごい突風が吹いて、ミシミシとか、鉄と鉄

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