第65話 わびおの小田君
「大丈夫ですか!! どこにいるんですか!!」
あの災害で甚大な被害を受けた海辺の街の復興プロジェクトで、下請け建設会社の土木技術者として働く小田文男は、現場に出て陣頭指揮を執っていた。そこに、専務である久保拓也から電話が入った。
「事故った。すまない。
田辺さん…、CJVの田辺さんに申し訳ございませんと、それだけ伝えてほしい。頼む…」
か細い声で言われたところで、ガタッと音がした。
携帯電話はつながっているが、声を掛けても応答は全く無い。
交通事故なのか、現場の労働災害なのかも分からない。
落ち着け。
どうすればいいのか、考えろ。
助けに行くのが最優先だ。
小田は協力会社の職長の萩原耕作を呼んだ。
「ごめんなさい! 申し訳ないです!
うちの専務が事故に遭ったみたいで…。俺、行ってきます。
だから、今日は仕事をここで止めます」
萩原は驚いた様子だったが、小田の真剣な表情を見て、「分かりました。みんなには言っておきますから、すぐに行ってください」と応じてくれた。
当ては無いが、とりあえずつながっている電話だけが頼りだった。
まずは元請けに伝えなければいけない。この街の復興事業は計画から施工、運営までをコーポレーティッド・ジョイントベンチャー(CJV)と呼ぶ官民の共同事業体が一体的に担っている。CJVの面々が出払っているタイミングだったので、小田は、会社貸与のスマートフォンで連絡アプリを起動した。
久保からはCJVの田辺修平に謝罪するよう言われていた。
だが、小田は腑に落ちなかった。
田辺はゼネコンから出向してきている40代後半の技術者だ。優しくて人当たりが良い印象だが、現場で下請けを引っ張っていく強引さには欠ける。この復興事業のように繁忙極める現場では、正直、あまり適任とは思えない。CJVでの立場も、年齢の割に下の方のイメージだ。
小田は、自分を能力が無い方の部類の人間だと思っている。仕事でも日常生活でも失敗が多い。困ったことをやらかすたびに、すぐに謝る。大柄の体を直角になるように折り曲げて、大きな声で謝罪する。
子どもの頃からずっと変わらない。すぐに謝るから、周りから「詫び男(わびお)」と呼ばれていた。失敗だらけだから仕方が無い。謝罪満載も一つの個性と割り切っている。
失敗へのフォローが必要な緊急事態に必要なことは、人間関係に対する嗅覚。それが謝罪人生で学んできた大事なポイントだ。
先ほど萩原に現場を止めると言ってしまったが、元請けであるCJVの許可は得ていない。まずは、そこから攻めなければいけないが、恐らく田辺には決定権がない。最初に田辺に相談して優柔不断な態度を取られると結論が出るまでに時間がかかり、すぐに動けなくなる。それは最悪のパターンだ。
小田は、会ったことがあるCJVメンバーの顔を思い浮かべていた。
誰に最初に謝るべきか。
ぴんときたのが土木工事全般を取り仕切っている高崎直人だった。CJVや協力会社が集まる打ち合わせが紛糾した際に、冷静な物言いで上司を諫める場面があった。
直接話したことは数回ほどだが、合理的に物を決められる人間だと感じている。高崎を呼び出して、手短に要件を伝えた。
「うち専務の久保が、事故に遭ったと連絡してきました。今も電話がつながっているのですが、応答がありません。
大変申し訳ないのですが、現場を止めて探しに行かせてください!
早出と残業でフォローします!!
お願いします!!」
目の前にいるわけではないが、小田は頭を下げながら大きな声で申し入れた。萩原たち協力会社の面々もこちらをじっと見ている。
「分かりました。CJVからも手伝います。
今日の作業終了は、私の方からCJV内で共有します。
小田さんは久保専務を探しに行ってください」
「ありがとうございます!!」
アプリを切ると、小田はつながっている携帯電話に再度、話し掛けた。
「専務!!
今、どこですか?
答えてください!!」
…。
返事はないが、何か音が聞こえた。
周りに誰かいるのかもしれない。
小田は、ワイヤレスイヤホンを付けたまま車へと向かった。タブレット端末で地図アプリを立ち上げ、携帯電話の先での変化を待った。
遠くから救急車の音が近づいてきている。
やはりそうだ。誰かが救急を呼んでくれている。
大きな音がした。ガラスが割られて、大きな声が聞こえてきた。
「大丈夫ですか! 聞こえますか?
今から病院に行きますよ」
「痛いですね。まずはマスクを付けさせてもらいますね。
ストレッチャーに移すときに痛むかもしれませんが、我慢してくださいね」
久保の応答は聞こえないが、救急隊員には反応しているようだ。
ちょっとほっとした。
「足の方を持って、そう。いくよ。よいしょ!」
ストレッチャーに、体を載せる音がした。
今だ。
「すいませーん!! 聞こえますか!!
その男性の関係者です!!」
携帯電話に人が近づいてきた。
「もしもし、救急の者です。この方をご存じですか?」
「小田と言います。その男性は久保拓也。私の上司です。
久保は無事ですか?」
「意識はありますが、詳しいことはまだ分かりません。
これから緊急搬送します。
ええと、もう一度、お名前をお願いします」
「小田です。小さい田んぼで小田です」
「小田さんですね。確認したい点がありますので、後で電話します。番号を教えてください」
小田は、私用の携帯電話番号を伝えて、手短に言葉をつないだ。
「そこはどこですか?」
「細かいところまでは説明できませんが」と前置きがあって、半島の名前を教えてくれた。この地域の最南端の方だ。
あの奥に現場がある。パトロールに行く途中だったのかもしれない。
小田は地図アプリを開いて、久保が事故を起こした半島を拡大してから、検索で「救急病院」と入れた。内陸の鉄道駅の近くにある大きな病院が一番近い。おそらく、この病院に行くはずだ。
小田は、現場を出ると内陸側へと車を走らせた。少ししてから携帯が鳴った。先ほどの救急隊員だった。
久保の氏名や年齢、連絡先などの質問に答えた後に、搬送先を尋ねた。予想通りだった。
「どうかよろしくお願いします! 私も病院に向かいます」と伝えた。
感染症対策のため容態が安定していたとしても面会はできないと制されたが、構まないと伝えて電話を切った。
小田は、CJVに電話を入れた。田辺はちょうど事務所にいて、久保の事故のことと謝罪の旨を伝えた。
田辺は、病院に来ると言ってくれた。
「申し訳ございません!!」
久保との間に、どういうトラブルが起きているのかは分からない。だが、久保が謝ると言っているのであれば、自分も頭を下げるのは当然のことだ。詳細は病院で会った時に聞けばよい。
久保は、中学と高校の部活で先輩だった。建設会社の社長の息子ということで羽振りが良く、菓子やジュースなどをおごってくれた。仲良くなったきっかけは休日に出掛けた内陸の街での出来事だった。
ハンバーガー屋に入ると、隣に女子2人が座ってきた。
久保が、「めちゃくちゃ可愛いよな。声を掛けようぜ」とささやいてきた。確かに目を引く容姿だが、ちょっとやんちゃな雰囲気だったので、小田は嫌な予感がした。
「あんなに可愛いなら、彼氏がいますよ。やめときましょうよ」と返した。
だが、久保は「このチャンスを逃したら、二度と会わないかもしれないぞ。任せておけって」と、やる気満々だった。小田は、曖昧な表情のまま、うなずいた。
久保は、長身で端正な顔立ちだから、相手の二人組もまんざらでは無い様子だった。盛り上がって話していたところで、急に二人の表情が変わった。
後ろを振り向くと、柄の悪い5人組がこちらをにらみつけている。明らかに学年が上で、体格も大きい。
「なんかさあ、無理矢理ナンパされて…」
さっきまで笑顔で話していた女子たちが、言い訳がましく伝えた。
「お前ら、ちょっと来いよ」
裏の駐車場に連れて行かれた。5対2で囲まれた。小突かれて殴られそうになったところで、小田が「すいませんでした!」と地面の頭を付けて謝った。
自分が悪いかどうかなど関係ない。この場を切り抜けることが肝心だ。
小田が何度も謝っていると、久保も同じように「ごめんなさい!!」と頭を下げた。ちょうどそのタイミングで、ハンバーガー屋の店員が出てきた「どうかしましたか?」と声を掛けてきた。
リーダー格が「何でもねえよ。行くぞ」と言うと、そそくさと離れていった。店員も店に戻り、二人で駐車場に残された。
「いやあ、危なかったですね。殴られないで良かったぁ」
小田はへたり込んで、そう言った。
そうすると久保は、「もうちょっと我慢すれば、土下座なんてしなくて済んだんだよ」と軽口をたたいた。
久保の足は震えていた。
今もびびっているじゃないか。
小田はさすがにイラッとした。
だが、小田が大切にしているのは、場がうまく収まること。
ピンチを脱した時点で目的は達成している。それで良い。
仲の良い先輩後輩として二人で出掛けていたが、久保が部活を引退して以降は疎遠になっていった。
再会したのは、小田の祖父の告別式だった。
都会の大学を卒業して事務職として働いていた。机にじっと座ってパソコンの画面に向き合うのが仕事で気が滅入っていた。仕事が忙しく久しぶりの帰郷だった。
祖父は、大往生とも言える年齢だった。遺影を見て、もう一度、会いたかったと思った。焼香して振り返ると、参列者の奥に見慣れた顔が合った。
久保だった。
「久保さん! どうしたんですか?」
「小田のじいさんが亡くなったって聞いたから来たんだよ」
「どこで聞いたんですか?」
「俺さあ、うちの会社に入って働いてるんだけど、地元で仕事をしていると、いろいろ話が入ってくるんだよ。
小田さんって聞いて、孫がうちの高校で、俺よりちょっと下くらいって言われてさあ。
もしかしたら、わびおじゃねえかって」
「それで来てくれたんですか? すごいっすね!」
二人で飲みに行って、久保が家業の建設会社を継ぐつもりだと知った。
「デスクワークが向いていない」と愚痴をこぼしたら、真面目な顔で「うちで働かないか?」と誘われた。
大学で土木を学んでいなくても、現場で経験を積んで順に資格を取得していけば一人前の技術者になれるという。
「自然相手って、大変だけど、面白いぜ。
今は1級の資格を取るために毎日勉強してるんだ」
久保は良いことしか言わなかった。
この街の公共事業が尻すぼみで、未来が暗いことなど全く知らなかった。会社を辞めて、実家に帰ってからそんなことを言われても遅い。
「大丈夫だって。なんとかなるって!」
この人は相変わらず調子が良かった。
でも、久保の言葉で一つだけ本当の事があった。
現場の仕事は、大変だが面白いのだ。
重機で土を動かしたり、鉄筋コンクリートで構造物を作ったり、道路を舗装したり。初めてのことばかりで、わくわくした。一番驚いたのは護岸整備だ。川の流れを迂回させて、施工場所から水の流れを無くして河床を整えて護岸を構築していった。
小さな工事ばかりだったが、街の光景を少しずつ塗り替えて、より安全に、そしてきれいになっていく。驚きであり、喜びであった。
覚えることは山積みで、仕事に追われるまま、あっという間に年月が過ぎていった。もたもたして職人たちから怒鳴られることなど日常茶飯事だ。ようやく工事の流れが分かった頃に、工事が完成する。次の現場に行くと、覚えなければいけないことがリセットされて、再び叱られるのだ。
でも、わびおの小田にとっては、たいしたことでは無かった。誤ることと謝ることは、得意中の得意だ。
とは言え、経験を積むにつれ現場の切り回し方が徐々に分かってくる。2級の資格から取得して、2年目の挑戦で1級にも合格した。結婚して、子どもができた。
この街と一緒に生きていく。
そう腹をくくった時期に、あの災害が起きた。
すべてが変わった。
土木の現場で蓄積してきた経験が役立ったことはある。頼りにされたこともある。
だが、自分からすれば、すべてがリセットだった。今までの経験は、本当の意味での経験じゃなかったと思った。
災害廃棄物を少しずつ動かして、道路を通行できるようにして、膨大な災害廃棄物の処理を手伝い、そして今、新たに街をつくる復興プロジェクトに協力会社の一員として参画している。
復興プロジェクトへの参画は、地元の有力建設会社の下請に入れてもらう所から始まった。生まれ育った街が、広大な作業エリアに変貌した。大手ゼネコンが主導する工事は、技術面でも管理面でも勝手が違い大変だった。必死になってしがみついていった。
徐々にCJVから認められるようになり、請け負う工事が増えていった。
いったん回り始めると、売り上げが右肩上がりになっていった。
久保は勢いづいていた。技術者も増やしていった。時には競合会社から引き抜くようにして、体制を強化していった。
数字だけを見ると、それは良いことだった。
でも、徐々に全体を制御することができなくなっていった。知らない顔の方が多くなり、会社としての一体感が失われていった。工事がうまく回らないような些細なトラブルが増えていった。その上、感染症の陽性者が出て、濃厚接触のため作業が止まるような状況もあった。
身の丈にあっていない。こんなの俺たちには無理だ。
それが正直な思いだった。
だから、小田は先週、久保に進言したのだ。
「ちょっと背伸びしすぎじゃないですか?」
「うるさい! なんとかするんだよ!」
会話は続かず、久保はそっぽを向いて、スマートフォンをいじりだした。
小田は、それ以上、声を掛けられなかった。
久保の足が震えていた。
学生時代に絡まれて謝った日に強がっていた姿と重なるような気がした。
小田は、あの日以来、久保と顔を合わせていなかった。こちらから歩み寄らなければいけないとは思いつつも、現場が忙しく余裕が無かった。ずっと気になっていたから、久保から電話があって、ほっとしたのだ。
その電話が、事故の知らせだった。
小田は病院に着くと、「救急隊員から来てほしいと呼ばれた」と受付に伝えて病院に入ったが、感染症対策のため面会は断られた。
とりあえず、田辺を待った。
「いやあ、そうでしたか。
本当に申し訳ございません!!
なんとか手配できるかやってみます。
でも、なんせ久保がこの状態でして、もしかしたらご迷惑をおかけするかもしれません。
明日にCJVの事務所に行って、私の方からご説明します!!」
田辺によると、来月始まる予定の高台移転の工事で、作業手配の報告ができていなかった。この工区のリーダーを務めるCJVの宮崎貴史に電話で問い質された後に、久保が交通事故にあったようだった。
小田は、会社に電話したが、誰も来月からの工事のことを把握していなかった。おそらく手配できてないのだろう。
沿岸部の建設会社は仕事がいっぱいだ。内陸部の建設会社に頼み込むしかない。
病院では、久保の処置が続いていて、まだしばらくかかりそうだった。
田辺には「私が見ていますから大丈夫です」と伝えて、帰ってもらった。
田辺を見送ってから、小田は内陸部の建設会社に向かった。目当ては、この地域の業界団体の会長を務める大村伸三だ。小柄だが目つきが鋭く、まさに現場のたたき上げというイメージの人物だった。
久保が大村の会社から技術者を引き抜いた経緯があり、お互いの関係は最悪。だからこそ、まずは大村に謝罪するところから始めるべき。それが、わびおである小田の直感だった。
大村が在社していたのはラッキーだった。
名刺を差し出すと、大村は「帰れ」と一言だけ発して、名刺を地面に捨てて踏みつけた。
小田は、すぐに土下座をして「申し訳ございませんでした!! お願いします!! 許してください!!」と何度も繰り返した。
大きな声で「いいから帰れ!」と一括された。
小田は、床に頭を付けたまま、じっと耐えた。
大村の会社の社員が集まってきて、小田を引きはがした。そのまま外に出された。
もう真っ暗だった。
入り口の前に立って頭を垂れたまま、大村が出てくるのを待った。
2時間ほどしてから、大村が出てきた。一瞥しただけで、何も言わずに帰って行った。
小田は、もう一度、病院に寄った。しばらく入院が必要だが、久保の容態は安定していて、命に別状は無かった。
病室のガラス越しに「あとは何とかします。ゆっくり休んでください!」と呼び掛けたら、看護師が駆け寄ってきて「静かにしてください!」と怒られた。ちらっと久保の方に目をやると、目が笑っていた。少しほっとした。
翌朝、現場が始まる前にCJV事務所に寄って、宮崎と田辺に「駄目でしたが、明日には何とかします!」と頭を下げた。現場作業が終わってから、大村の会社に向かった。「申し訳ございませんでした!!」と謝罪を告げると、前日と同じように会社の外に出された。
次の日もその翌日も、CJV事務所から現場作業、そして大村の会社へ顔を出すのを繰り返した。
1週間後、状況が変わった。
宮崎が、工程を見直してくれた。乗り込み時期を半月遅らせるが、2ヶ月後のタイミングに作業員を倍増して擁壁と造成を並行して進めて、予定通りに作業を終える案だった。
その日の夜、大村が初めて話し掛けてくれた。
「そもそも、お前は何しに来ているんだ?」
小田は、久保が交通事故で入院していることを伝えて、「身の程知らずでした!! お願いですから力を貸してくださいい!! 久保も、そう申しております!!」と謝罪した。
久保の発言は嘘だった。だが、そんなことはどうでも良い。後で久保に謝れば良い。
大村からは「嫌だ」と言われた。そして、大村の会社の社員達に、外に放り出された。
その頃には、社員達とも顔なじみになっており、「寒いから風邪引くなよ」と心配される有り様だった。
次の日にも、作業後に小田は大村の会社に出向いた。
「そこに座れ」と言われた。
テーブルの上に、一升瓶と湯飲みが置かれてあった。
「飲めよ」
この地方で一番の日本酒だ。小田は、一気に飲み干した。
身も心も疲れ切った身体にしみこんでいった。
「旨いか?」と聞かれた。
せき止められていた苦しい感情が、一気に溶け出した。涙があふれてきた。
言葉が出なかった。小田はゆっくりとうなずくことしかできなかった。
大村は、小田の肩をぽんと叩くと、ポケットから携帯電話を取りだした。
「おう。ちょっといいか。うちの仕事じゃないんだが、復興で人が足りない。人を出してもらえないか。
小田っていう若いのに電話を掛けてくれ」
靴の跡が付いた名刺を出して、小田の携帯番号を伝えると、電話を切った。
その後も、別の協力会社に電話を掛けてくれた。
すぐに相手先から電話が来た。
工程の遅れを取り戻すための増員メンバーの目処が立った。
ほっとした様子の小田を前に、大村も日本酒を飲み始めた。
「お前は、悪くないじゃないか。なんで謝るんだ?」
なぜと言われても…。
仕事に対する責任感か?
それとも久保への義理か?
小田は、答えに窮した。
「俺、現場の仕事が好きなんです。
だから、現場を進めるのが一番大事なんです」
とっさに出た言葉だった。
大村は、しばらく黙り込んでから、口を開いた。
「俺は、久保の野郎を今でもむかついている。力なんか貸したくない。
だけどな、現場をやり遂げたいって奴は応援する」
小田は、ほっと救われた気分になった。
「うわあ、良かった。ありがとうございます」
緊張の糸がほぐれて、顔が緩んだ。
そういった途端、大村がぴくりと眉を動かした。
「久保に言っておけ! 1回だけだってな」
「はいっ!! 申し訳ございません!!」
小田は、わびおに戻って、頭を下げた。
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