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シュレディンガーの君

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罪の救済

 君からのラインの返信が依然としてこない。さすがの私も焦り始めて、何かアクションを起こそうかなと思わなくもない。でもやっぱりやめておく。

 そもそも、まだ一日も経っていない。つまるところ、それは私の期待が高すぎる可能性がある。たかが一日、たった一日既読無視されているだけだ。そんなのは君にはよくある話だ。この数年の付き合いで、私はそれが身に染みているはずだ。

 その上、私なんか君のラインを一年ほ

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第1話 シュレディンガーの君

あらすじ
 私の心の真ん中で未だにタップダンスを踊っている君を綴ったショートショート。消えない憧憬は言葉にして吐き出すしか無い。全50話。

 我ながら依存心が強い人間だと思う。だから君を捨てた。だって依存は良くないって言うじゃない。

 けれどそれが良くなかった。自分勝手に連絡を断ち、一年音信不通になっても、私は君のことを考え続けている。私の中にあるのは、場所を取りすぎた君の不在だ。

 一年だ

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第2話 意外とミーハー

 私が好きなロックバンドは、二年前に君がバンドサークルの発表曲に選んでいたもの。私が一番好きな曲は、君が「今度これを歌うんだ」と、少しお節介気味にURLを送りつけてきたもの。
 音楽が特にそうなんだけれど、私の主成分はどうしようもなく君でできている。別にそうしたかったわけじゃない。君のことを全肯定するつもりもなかった。
 君の悪いところは知っている。意外と怒りっぽくて、気分屋で、高校の十分休みにい

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第3話 多様性とは言うけどね

 好きな恋愛小説がある、と君に言ったとき、君はいつも以上に淡白な面持ちでスマホをいじっていた。人生で一番好きな小説を話半分に流された私は、君が見ていない横で膨れ面をする。君が小説なんて読まないのは知ってるけどさ。
 それから一週間くらいして、唐突に君がメッセージを送ってくる。小説の感想だった。「なんかお前っぽいなって思ったわ」私はそこでようやく、君がスマホで電子書籍を購入していた事実を知った。
 

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第4話 恥ずかしいよ、やっぱり

 君は私の大切な人。それと同時に、私の家族とも付き合いがある。
 きっかけは私だった。その昔、私が君を知った頃、私があんまりにも君の話ばかりするものだから、家族が君に興味を持った。私の家族は私を通さずに君と会話ができるし、なんなら連絡先までもっている。私がうっかり君の話をしようものなら、家族がそれを君に伝えてしまう。私は、家族に君の話をできなくなった。恥ずかしいじゃない?
 だから、私が君の前から

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第5話 ブラジルの皆さん聞こえますか

 新しいバイト先、新しい友人、新しい恋人。マッチングアプリも始めてみる。自撮りなんてほとんどしたことが無い。今ってどんな加工アプリが流行ってるんだろう。さすがに動物の鼻がつくやつはキツいか。あれ高校生の特権みたいなとこあるし。
 マッチングアプリはやめろと心配性の親から言われたので、それだけは取りやめることにする。けれどどうしても、何かが足りない。満たされない。
 悲しいことに、私は足りない何かに

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第6話 私の分も食べたしね

 高校卒業後の打ち上げは焼き肉だった。男子基準で選ばれたコースは量が多すぎて女子に不評だったけれど、私たちの卓は綺麗に片付いた。「いっぱい食べる君が好き」ってコマーシャルが昔あったと思う。君のためにあるような言葉だ。
 女子の顰蹙なんて知ってか知らずか、男子はこの後、スケートに行こうと言い出した。私は馬鹿だろと内心で思ったんだけれど、何故だか女子のみんなにも好評で話し合いを始めた。私は唖然としてし

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第7話 辛いの苦手なのにね

 君がアイドルじゃなくて良かった。もしそうなら、私は君のせいで破産した挙句に、破滅的な犯罪に手を伸ばしていたかもしれない。強盗とか、空き巣とか。今までの人生からかけ離れすぎていて、上手くいくところが全く想像出来ないんだけれど、それでも。
 そんな世界があったとして、破産した私は何も言わずに姿を消すだろう。君の前から。自分の手元に君の痕跡を一心に拾い集めて、逆に私の荷物は君の部屋から少しずつ消してい

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第8話 予想はしてたから

 他人の匂いが苦手だ。人混みなんか大嫌いで、夜祭なんか頭を過りもしないくらい他人事だった。
 だが君が行こうと言ったので、私は何のなしに二つ返事をしてしまう。その日の夜に、君が計画書なんて大それたメッセージを送ってきた時には、私の意識はてんてこ舞いになった。君が誘ってきていたのは、全国的にも有名な大きなお祭りだった。山車が練り歩いて、巨大な太鼓が響き渡って、笛の音が鼓膜を揺らす。
 普段は過疎を実

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第9話 間違ってはいる

 たった一人を光明に例えるのは間違っている。いわんや神様だと思うのはどう考えても間違っている。
 そう確信している横で堂々と、君を神様だと思う私は頭がおかしいのかも知れない。
 ただ、君の頭がべらぼうに良いのも良くないと思う。知り合った後に知ったことなんだけれど、君は偏差値が七十を超えていて、県内の模試ランキングで一桁を取ったこともあるらしい。え、なにそればけもの? そんな人、うちの高校にいたわけ

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第10話 子供かよ、とは言わないでおこう

 君が挙動不審ぎみにカーテンを開けたので、私はつけていたイヤホンを外す。私が尋ねる間もなく、答えが聴こえてきた。どこかで花火が鳴った。
 答え合わせはもう済んだのに、君はわざわざ「花火やってる」なんて言う。
 滑りの悪い窓をスライドさせて、君がベランダに出る。キョロキョロと辺りを見渡し始めたところで、ようやく私は立ち上がった。バンバンと音は聞こえて忙しないくらいなのに、肝心の光源は見当たらない。

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第11話 気になってはいたからさ

 ハマっているらしいゲームを君が勧めてきた。SNSでもかなり話題で、イラストをよく見かける新作ゲームだった。
 気になってはいたが、絵柄が微妙に好きじゃなかったからスルーしようと思っていた。私はその前半部分だけを君に伝える。君は面白いよと熱心に布教し始めた。私は仕方が無いフリをしてダウンロードし始める。SNSで回ってきた生半可な知識で、君の話に相槌を打つ。
 画面を連打してチュートリアルを流す。子

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第12話 ごめんね占い

 君にラインを無視されている。君の既読無視は別に珍しいものじゃないから、私はそんなに気にしない。君はその類まれなる気まぐれさで、ラインの返信パターンを私に読ませない。
 ところが、今回ばかりは、君の既読無視の理由に見当がついている。
 恐らくだが、君は怒っている。それも嫉妬している。私が、君以外の人間との交流を仄めかしたからだ。ちょっと前まで流行っていた占い? 心理学? を私は君に話した。君はさっ

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第13話 どこだって都

 私が家出したいことを電話で言った時、君は「じゃあこっち泊まりにおいでよ」と躊躇なく言った。家を出るなんてのはただの夢想だった私は、そのフットワークの軽さに驚く。それははすぐに、尊敬に変わる。
 君が泊まりに来いと言ったのは、君の実家だった。わざわざお母さんの車で迎えに来た君は、キャリーバッグ片手の私を車中から笑う。笑うなよ。
 怒られるのが怖くて、こっそり家を出てきてしまった。親兄弟は外出中なの

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