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第2話 意外とミーハー
私が好きなロックバンドは、二年前に君がバンドサークルの発表曲に選んでいたもの。私が一番好きな曲は、君が「今度これを歌うんだ」と、少しお節介気味にURLを送りつけてきたもの。
音楽が特にそうなんだけれど、私の主成分はどうしようもなく君でできている。別にそうしたかったわけじゃない。君のことを全肯定するつもりもなかった。
君の悪いところは知っている。意外と怒りっぽくて、気分屋で、高校の十分休みにい
第3話 多様性とは言うけどね
好きな恋愛小説がある、と君に言ったとき、君はいつも以上に淡白な面持ちでスマホをいじっていた。人生で一番好きな小説を話半分に流された私は、君が見ていない横で膨れ面をする。君が小説なんて読まないのは知ってるけどさ。
それから一週間くらいして、唐突に君がメッセージを送ってくる。小説の感想だった。「なんかお前っぽいなって思ったわ」私はそこでようやく、君がスマホで電子書籍を購入していた事実を知った。
第4話 恥ずかしいよ、やっぱり
君は私の大切な人。それと同時に、私の家族とも付き合いがある。
きっかけは私だった。その昔、私が君を知った頃、私があんまりにも君の話ばかりするものだから、家族が君に興味を持った。私の家族は私を通さずに君と会話ができるし、なんなら連絡先までもっている。私がうっかり君の話をしようものなら、家族がそれを君に伝えてしまう。私は、家族に君の話をできなくなった。恥ずかしいじゃない?
だから、私が君の前から
第5話 ブラジルの皆さん聞こえますか
新しいバイト先、新しい友人、新しい恋人。マッチングアプリも始めてみる。自撮りなんてほとんどしたことが無い。今ってどんな加工アプリが流行ってるんだろう。さすがに動物の鼻がつくやつはキツいか。あれ高校生の特権みたいなとこあるし。
マッチングアプリはやめろと心配性の親から言われたので、それだけは取りやめることにする。けれどどうしても、何かが足りない。満たされない。
悲しいことに、私は足りない何かに
第6話 私の分も食べたしね
高校卒業後の打ち上げは焼き肉だった。男子基準で選ばれたコースは量が多すぎて女子に不評だったけれど、私たちの卓は綺麗に片付いた。「いっぱい食べる君が好き」ってコマーシャルが昔あったと思う。君のためにあるような言葉だ。
女子の顰蹙なんて知ってか知らずか、男子はこの後、スケートに行こうと言い出した。私は馬鹿だろと内心で思ったんだけれど、何故だか女子のみんなにも好評で話し合いを始めた。私は唖然としてし
第7話 辛いの苦手なのにね
君がアイドルじゃなくて良かった。もしそうなら、私は君のせいで破産した挙句に、破滅的な犯罪に手を伸ばしていたかもしれない。強盗とか、空き巣とか。今までの人生からかけ離れすぎていて、上手くいくところが全く想像出来ないんだけれど、それでも。
そんな世界があったとして、破産した私は何も言わずに姿を消すだろう。君の前から。自分の手元に君の痕跡を一心に拾い集めて、逆に私の荷物は君の部屋から少しずつ消してい
第8話 予想はしてたから
他人の匂いが苦手だ。人混みなんか大嫌いで、夜祭なんか頭を過りもしないくらい他人事だった。
だが君が行こうと言ったので、私は何のなしに二つ返事をしてしまう。その日の夜に、君が計画書なんて大それたメッセージを送ってきた時には、私の意識はてんてこ舞いになった。君が誘ってきていたのは、全国的にも有名な大きなお祭りだった。山車が練り歩いて、巨大な太鼓が響き渡って、笛の音が鼓膜を揺らす。
普段は過疎を実
第9話 間違ってはいる
たった一人を光明に例えるのは間違っている。いわんや神様だと思うのはどう考えても間違っている。
そう確信している横で堂々と、君を神様だと思う私は頭がおかしいのかも知れない。
ただ、君の頭がべらぼうに良いのも良くないと思う。知り合った後に知ったことなんだけれど、君は偏差値が七十を超えていて、県内の模試ランキングで一桁を取ったこともあるらしい。え、なにそればけもの? そんな人、うちの高校にいたわけ