第3話 多様性とは言うけどね
好きな恋愛小説がある、と君に言ったとき、君はいつも以上に淡白な面持ちでスマホをいじっていた。人生で一番好きな小説を話半分に流された私は、君が見ていない横で膨れ面をする。君が小説なんて読まないのは知ってるけどさ。
それから一週間くらいして、唐突に君がメッセージを送ってくる。小説の感想だった。「なんかお前っぽいなって思ったわ」私はそこでようやく、君がスマホで電子書籍を購入していた事実を知った。
それからまた時は流れて、その恋愛小説がSNSで取り上げられていたのを偶然目撃する。読書好きによるキャッチコピーは狂気。確かにハッピーエンドではなかったけれど、そんな言葉は思いもよらなかった。
私にとってその小説は、海辺で拾うシーグラスだった。透き通っていて綺麗。一途に想うこと、願うこと。その結晶。
そこで、はたと思うのだ。
私にとってのシーグラス。誰かにとっての狂気。同じ文字列でも、見る人によって感じ方は違うらしい。
君はどう解釈したのだろう。どう、私に重ねたのだろう。
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