第10話 子供かよ、とは言わないでおこう

 君が挙動不審ぎみにカーテンを開けたので、私はつけていたイヤホンを外す。私が尋ねる間もなく、答えが聴こえてきた。どこかで花火が鳴った。
 答え合わせはもう済んだのに、君はわざわざ「花火やってる」なんて言う。
 滑りの悪い窓をスライドさせて、君がベランダに出る。キョロキョロと辺りを見渡し始めたところで、ようやく私は立ち上がった。バンバンと音は聞こえて忙しないくらいなのに、肝心の光源は見当たらない。
 反対側だと君が言う。更には部屋着のままで玄関に向かったので、私は慌てて追いかけた。おい、このヨレヨレTシャツで外に出す気か。
 君は玄関でドアを開けて待っている。私は靴のかかとを潰して、きちんと履けたフリをする。コンクリートの地面が湿っている。少しだけ雨が降っているらしい。
 外には多くの人がいた。マンションやテナントビルをかいくぐるように光を探す。
 運悪く、音が聞こえなくなってしまった。ちょうど花火は終わったらしい。
 それなのに君には微塵の後悔も見えない。
 見えなかったね、なんて楽しそうに言う。

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