一生小説だけ書いて死にたい

来世はバオバブです。 いっぱいいいねしろ。 人生が言葉なら良かった。

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【超短編小説】私を食べたこともないくせに

 君からラインが来た。  どうやら私の母が、誕生日プレゼントで白米を贈ったらしい。君の感想はずばり「キミの味がする」だった。意味が分からない。  続けて君が「もしかして実家、コメ農家?」とか「炊き立てご飯の匂いがキミなんだけど」とか矢継ぎ早に送ってきた。  私の実家は残念だがコメ農家ではないし、私は実を言うと、コメがそんなに好きじゃない。一人暮らしをしていると、面倒な家事はしなくなるので、最後に炊飯器を使ったのがいつかも思い出せない。食べたかったら、レンチンの奴とかでいいわけ

    • 誰でもいいから救ってくれよ

       僕は虐められている。虐めといっても大したことは無い。僕の話や挨拶をわざとらしく無視されるとか、僕が授業で当てられた時に嫌な沈黙が流れてその後クスクス笑われるとかとか、そんな感じだ。トイレで水を掛けられたことは無いし、机にいたずら書きされたことも無い。物だってちゃんとある。シャー芯の一本さえ消えたことは無いのだ。大した虐めじゃない。  僕は大して気にしちゃいない。何しろ、僕が虐められるのは当然のことだ。  青白い肌に、骨が浮いたなまっちょろい体つき。筋肉が無くて葦みたくひょろ

      • なんだかんだ捨てられない友情がINFPとかいう人達になりがち。彼らの世間的ステータスに縛られない自由人気質が羨ましいのかもしれない。

        • ちょっとシニカルで絶望的なこういうの小説が好き

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        • 超短編・即興小説
          7本
        • シュレディンガーの君
          50本
        • ミステリー集
          7本
        • あなたの心に穴を開けてこの月光で満たしたい
          2本
        • 𝙣𝙤 𝙣𝙤𝙫𝙚𝙡
          14本
        • 届かないから永遠(ミステリー)
          2本

        記事

          世界が全部ペンキだったらいいのに

           日曜日、それは人々が労働から解放される、神により赦された神聖な日。  とは言え私は例外だ。教会の関係者でありながらむしろ労働に縛られた悲しき存在。あるいは罪深き咎人。信じてないので構いませんが。  それに、実を言うと日曜日には、ひそかな楽しみがある。日曜日にだけ現れる珍客――少年が。  教会というのは、言うなれば万人に開かれた空間だ。神様は厳しいのか優しいのかよく分からない存在で、どんな人間だろうと――出頭前の犯罪者であろうと寛大に受け入れる。そしてそれぞれの人間は、もちろ

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          世界が全部ペンキだったらいいのに

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          短編ミステリー「教会にて」

           それから、不思議な人を見た。夕暮れ、教会のステンドグラスに差す斜陽、眩しい。だがその人は、強烈なまでの夕陽を避けて、影のある席に腰を据えている。教会全体を見渡せるような、最後部の長椅子の、更に一番端の席。そこだけは、太陽の悪あがきから逃れることが出来る。そしてその人は、いつもそこに座っている。  私はその人を何度も見かけている。だから、見たと言うのは今となっては間違えた物言いだ。私は何度もその人を見かけ、そして見かける度に「不思議な人だ」と飽きもせず、つくづく思うものだった

          短編ミステリー「教会にて」

          証明:永遠と停滞の違いについて

           正直、ここに勤務し始めて一週間では、やりたいこともやるべきことも見つからない。ただ漫然と、ミシェルの部屋で考えていた。  亜門は忙しくなると言う宣言通り、各種彼の知り合いか何かに連絡しているのを見かけた。探偵ならではの連絡網だろうか。あとは単純に、警察にも連絡するだろうか。ただ失踪して数時間では、重要案件としては取り扱ってくれないだろう。常識的に考えて。おまけに探偵が警察に捜索依頼なんて。  それに、亜門のことは信じたいが、私はまだミシェルの失踪について半信半疑だった。  

          証明:永遠と停滞の違いについて

          汝、月から目を離すべからず

          【前回】 https://note.com/preview/ne403936e92c1?prev_access_key=989c526d9b84fb46a679fc9eec956fc2  ミシェルを初めて見た時のことを、亜門ははっきりと覚えている。尤も、それをわざわざ語ることはしない。ただ覚えているという実感と熱を、自らの胸の内で後生大事に抱えているのみだ。  とは言え、本当に初めの頃は、まさかこの人物とその後の人生で長いこと関わり続けるとは思ってもみなかった。ミシェルと

          汝、月から目を離すべからず

          蜘蛛の夢

           仔細は忘れたが、蜘蛛の夢を見た。その日、僕は二匹の蜘蛛を家の中で見つけ、殺した。  次の日、少し昨日より少し大きめで半透明な、小指の先くらいの蜘蛛が壁を上っていた。クリーム色の壁の上をじりじり足を動かすそれは、夢のそれによく似ていた。こいつだったかと思った。ティッシュを何枚も重ねて、殺した。  多分、季節柄だと思う。卵が孵ったとか、もしくは窓の隙間から団体で来たのかもしれない。昔は蜘蛛一匹すら殺せなかったが、今となっては容易いものだ。  だが蜘蛛の夢を見たのは、まだ不思議だ

          生活

           生活がにじり寄って居た。僕は眠れもせず、温かく朧げな小さな光をつけて、カフカを読んでいた。  ほとんど世捨て人の生活を送っていた。時々世間を思い出しては、ベッドで転がって泣くことがあった。カーテンは閉め切っていた。それでも足りないので。真っ黒な遮光カーテンを買って、元の遮光カーテンと二重にした。随分マシになった。だがまだ足りない。  のっぴきならない事情で、僕は世間に出て行かなければならなくなった。人には会いたくなかった。人は好きだが、この上なく苦手だった。人とかかわった後

          永遠と停滞と月明かり

           休もうとして休めるなら、それは幸福だ。それが出来ずに終わりの無い思考に延々と磨り潰される、壊れかけの歯車が壊れないままずっとギシギシ回るみたいな、そんな状態になれば、悲惨だ。  亜門は昔、ミシェルに対してそれを感じたことがある。それは――ある冬の日のことだった。冬の、朝……朝の陽射しが重く垂れ込めた雲を通して、薄い光彩をカーテン越しに届けていた。  ミシェルは夜型なので、朝早くに起きているのは意外だった。だがそのぼんやりと絶望した面影が、朝を拒絶するように虚ろに凪いでい

          中編ミステリー

          月が眩しい。 月が眩しい。  月が眩しい。そういう月夜だ。私は退屈な机に突っ伏して、来もしない客を待っている。カフェのバイトは慣れてきたが、慣れとはすなわち退屈をも意味している。ひんやりと差すようだったテーブルの冷たさも、今やすっかり私の体温が伝播して温くなった。同じことだ。  それにしても、薄暗い店内に差し込む月明かりが、本当に眩しい。退屈な装飾の店内に退屈なカフェミュージック。長い夜の勤務時間で、情動的なのは月明かりだけだ。尤も、店内奥に居る私に、月そのものは窺えない

          傲慢な祈り

           とある初夏、夕暮れ、空き教室の隅、開いた窓、揺れるカーテン、風に靡く前髪。  あたかも己自身がカメラか何かのように、瞬間を記憶している。刻一刻と傾く太陽に、何かを想いながら。止まったペンと、綺麗なままの紙一枚と、憂いを秘めた横顔、閉じる瞳。突いた右手は、ペンを持つのとは逆に、時折頬を爪で引っ掻いている。エアコンの切られた放課後では、上気した頬が、まるで遠い地平線の斜陽みたいだ。そのうち落ち着くだろうが、今は、まだ。 「……おい」  うなるような音が口から出て、亜門は自

          𝙘𝙖𝙡𝙡 𝙢𝙚 𝙗𝙮 𝙣𝙤 𝙣𝙤𝙫𝙚𝙡

          第14話 選り好むことを愛と呼ぶ  ラ・ロシュフコーは、ある人をたいそう尊敬すると同時に激しく恋するのは難しいと述べている。従って、恋愛か尊敬か、人はどちらかしか選ぶことは出来ない。ただ、恋愛とは利己的なものである。常に、利己的である。私は哲学者ではないし、その思想に追随することしか出来ない愚かな人間の一人だが、これは正しいと思う。  私は、あなたに利己的だった。分かって欲しいと思うことは、利己的だ。  静かな部屋に一人、暗くなり始めた空に白月がぽっかり浮かぶ。昼の間は

          𝙘𝙖𝙡𝙡 𝙢𝙚 𝙗𝙮 𝙣𝙤 𝙣𝙤𝙫𝙚𝙡

          𝙘𝙖𝙡𝙡 𝙢𝙚 𝙗𝙮 𝙣𝙤 𝙣𝙤𝙫𝙚𝙡

          第13話 小説の無い人生  この心を覆っている皮膚を抜け出して、どこか遠くに行きたい。この脳髄全てを投げ出して、何か別のもので満たしたい。そういう祈りが、いつからか消えない。  美味しいものを食べる、酒を飲む、誰かと話す、買い物をする、そういう欠乏を埋めるだけの短絡的な快楽で満足できない。したくない。許せない。  私は我が儘なのかもしれないし、きっとずっとそうだ。  自分の正しさを出来るだけ多くの人に押し付けたい。私が文章を書く理由が、きっとこれに尽きるだろうから。  けれ

          𝙘𝙖𝙡𝙡 𝙢𝙚 𝙗𝙮 𝙣𝙤 𝙣𝙤𝙫𝙚𝙡

          𝙘𝙖𝙡𝙡 𝙢𝙚 𝙗𝙮 𝙣𝙤 𝙣𝙤𝙫𝙚𝙡

          第12話 沈黙せよ  私のくだらない問いに、一定の回答を提示してくれたのは、かの大文豪レフ・トルストイであった。彼は敬虔なキリスト教的な人生論で以て、私の暗雲をほんの少しだけだが切り払いしてくれたのである。曰く、「愛について議論してはならないし、愛についてのあらゆる議論は愛を滅ぼす。だが愛について議論せずに居られるのは愛を理解している者だけで、ほとんどの人間は議論することにより愛を示す」  要するに、ほとんどの人間にとって、愛とは選り好みである。そして選り好みは差別無くては

          𝙘𝙖𝙡𝙡 𝙢𝙚 𝙗𝙮 𝙣𝙤 𝙣𝙤𝙫𝙚𝙡