第5話 ブラジルの皆さん聞こえますか


 新しいバイト先、新しい友人、新しい恋人。マッチングアプリも始めてみる。自撮りなんてほとんどしたことが無い。今ってどんな加工アプリが流行ってるんだろう。さすがに動物の鼻がつくやつはキツいか。あれ高校生の特権みたいなとこあるし。
 マッチングアプリはやめろと心配性の親から言われたので、それだけは取りやめることにする。けれどどうしても、何かが足りない。満たされない。
 悲しいことに、私は足りない何かに見当がついている。何か、なんて甚だしくすっとぼけている。しかし、それはどうしても手に入れられない。ドーナツの穴に哲学性を見出す話はよく聞くけれど、私もきっと同じだ。穴は結果に過ぎない。
 私は、私の薄っぺらな体に穴が開いて、向こう側の景色まで見えていることを想像する。あるいは地球だとしたら、きっとブラジルの皆さんにまでこんにちはが通る。
 だから、何かの代わりは代わりにすらなれていない。体の向こう側まで、あるいはブラジルまで貫通して、バラバラ落ちて、私の中には残ってくれない。

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