春夏秋冬ツキ

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   東洲斎レイ。  エンタメ、ミステリー、純文学と幅広い分野での本を執筆し、瞬く間にその名を世間に轟かせた小説家がいた。彼が出す小説はことごとく重版になり、この書店不況の中でも嬉しい悲鳴が出るくらいの作家だった。  ただ一つ、変わった点を言えば、彼は、一切の公の場から出ることはなかった。例え文学賞を受賞したときでさえもそのスタンスは崩さず、文壇の表舞台から姿を現すことはなかった。いわゆる覆面作家だった。噂によると、出版社の中でさえも限られた人しか東洲斎レイの素顔をしらないと

    • 九十九物語 【友鏡】#10

      #創作大賞2023  ゴールデンウィークが終わり、私は、学校に向った。教室にはいつもどうり、友達が私が教室に入ると出迎えてくれた。「急に帰るなんて―――」というお小言を言われたくらいでとくには何もなかった。 あれ以来、悪夢をみることも体重がふえることも無くなってしまったのだ。 「そうだ…神楽に再度お礼を言わなければ―――」  白峯神楽が座っている机に向かった 「神楽! 」 「んー? 」  彼は、机に伏せていたが、名前を呼ばれた際、私のほうチラ見した 「やぁ、有栖川さん、なん

      • 九十九物語 【襲った怪異の正体】#9

        #創作大賞2023 「違うよ」 「え? あぁ、ツクモガミが私を襲った―――」 「さっきも言ったけれど、あのツクモガミはキミの深層心理を写し出しただけで、そこに悪意も善意もない。鏡の国自体も君の作った世界だ」 「え? じゃ、じゃあ、誰が私を襲った言うの? 」 「誰もキミを襲ってなどいないよ」 「は?? 何言っているの? 」 「襲っているのはキミ自身だよ」 「え…? 」 「キミは、落合彩葉という存在に恐れおののいた。その証拠に彼女の存在を否定するかのような態度を

        • 九十九物語 【大きい葛籠の中身】#7

          #創作大賞2023  どれくらい眠っていたのだろう?  目を開けると、あたりは暗がりに包まれ、鈴虫などの声が聞えてくるばかりだった。 「おっ、起きたかい… 」  声をかけてくれたのは、白峯神楽だった。彼は、私が起きるまでずっとそばにいてくれたようだった。そして、小さなカンテラとキャンプに使うようなシングルバーナーでケトルを載せてお湯を沸かせていた。 「ここって… 」  あたりを見回すと、私たちが肝試しにきて入った合わせ鏡の館だった。 「合わせ鏡のど真ん中で鏡の前

          九十九物語 【落合いろはという存在】#8

          #創作大賞2023  落合彩葉 葉っぱの色が変わるように喜怒哀楽が多くいつも明るい性格で、私に話しかけてくれた彼女だった。両親すでに他界し、天涯孤独であった彼女とは保育園の頃からの仲良しだった。 同じ小学校。 同じ中学校 同じクラス。 同じ班分け。 席でさえ隣だった。 いわば腐れ縁を通り越した竹馬の友だった。他の友達からは姉妹なんじゃないかとからかわれてしまうくらいに仲がよかった。一緒に手をつないで帰ったり、自宅に招いて泊ったりしたこともある。 四月の中旬だ

          九十九物語 【落合いろはという存在】#8

          九十九物語 【鏡の国の有栖川】#6

          #創作大賞2023  激しいデジャブが起こっていた。  これは紛れもない私がいつも夢で見ている光景だ。そして、謎の少女が教卓に両肘を付けてあの不敵な笑みを浮かべて、私のことを上目使いで見ている。  私は彼女に対して言い知れぬ恐怖感を覚えた。 「フフフ」  彼女が現れた瞬間、足から体にかけて傷口が開き赤い血が噴出し、体中がちまみれ状態だった。 「嘘―――! 」  傷口が開く理由が分からないが彼女のせいで痣や傷がつくことことは明白だった。 「あなた…何者なの? 」

          九十九物語 【鏡の国の有栖川】#6

          九十九物語 【鏡の国の有栖川】#5

          #創作大賞2023 気がつくと私は教室の自分の席に座っているのだった。 「え…? 」  いつもどおりの教室だが、違和感をぬぐえなかった。いつもの教室内にあるものがすべて反転している状態だった。 「なにこれ―――? 痛い!! 」  体中の節々の痛さ、そして、足のふくらはぎから太ももにかけて、筋肉痛のような激しい痛みが走っていた。それでいて、体はいつにましても動かしずらかったのだ。  そして私のすぐ隣に制服をきたあの謎の少女が私すぐ隣に座っているのだ。  「え!?」

          九十九物語 【鏡の国の有栖川】#5

          九十九物語 【廃遊園地】#4

          #創作大賞2023  ゴールデンウィークの初日に皆で決めていた肝試しをするという目的のため、私たちは、新しく出来た美浜トンネル前で集合することになっていた。  私は、当初、白峯神楽の忠告が気になってしまい、あまり行く気にはならなかったのだが、友達の境や桜井が家にまで押しかけてきたので行かざるえなかった。 美浜トンネルの歩道入り口前に行くと、数人の同級生がもう集まっている状態だった。美浜トンネル自体はそんなに怖いものではなかった。照明は新しいLEDライトで明るく、途切れる

          九十九物語 【廃遊園地】#4

          九十九物語 【ジャバーウォック】#3

          #創作大賞2023 「ジャバーウォックを殺せ?」 「夢の中で誰かがそう言っていた。だから、私はその謎の少女の名前だと思ってるけれど、そんな妖怪がいるの? 」 「ルイス・キャロルの鏡の国のアリスにはそんな怪物の描写はあったけれどね」 「鏡の国のアリス? 不思議じゃなくて?」 「不思議の国のアリスの後日談だよ。不思議の国のアリスに比べて知名度低くてね」 「じゃ、そのジャバーウォックって、どんな怪物なの? 」 「さぁ? 」 「さぁ? って、なんなの? 」 「そもそ

          九十九物語 【ジャバーウォック】#3

          九十九物語 【白峯神楽の忠告】#2

          #創作大賞2023 「なぁ! なぁ! なぁ! 女子の皆さん。肝試し興味ないですか?」  私たちの会話に入ってきたのは廃墟探索を趣味としている家内カイキがきた。 「肝試し?」 「俺らゴールデンウィーク中にしようってんだけれど、俺らだけだと余りにもむさ苦しくて華がないと思って誘ってきたんよ」 「でも、この辺りにそんな心霊スポットみたいな場所存在した?」 「この校舎を真っすぐ行った方向に国道に出るじゃないですか? その奥をずっ―――っと! 行くと、旧美浜トンネルがあるじ

          九十九物語 【白峯神楽の忠告】#2

          九十九物語【白峯神楽という存在】#1

          あらすじ 主人公の有栖川桜花は、毎晩のごとく悪夢をみているのだった。内容は有栖川桜花が拳銃をもって謎の少女にむけて発砲するという夢である。そんな悪夢を彼女は何度もみてしまうことによって、身体的にも影響が出始めた中で妖怪退治を名乗る白峯神楽というクラスメイトの中でも変人である彼に相談してもらい、その悪夢の真相に迫った物語である。 #創作大賞2023 #イラストストーリー部門 私は毎晩のごとく同じ悪夢を見てしまう。 その悪夢は、学校の教室にいて教卓を通して教室全体を俯瞰し

          九十九物語【白峯神楽という存在】#1