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九十九物語【白峯神楽という存在】#1
あらすじ
主人公の有栖川桜花は、毎晩のごとく悪夢をみているのだった。内容は有栖川桜花が拳銃をもって謎の少女にむけて発砲するという夢である。そんな悪夢を彼女は何度もみてしまうことによって、身体的にも影響が出始めた中で妖怪退治を名乗る白峯神楽というクラスメイトの中でも変人である彼に相談してもらい、その悪夢の真相に迫った物語である。
私は毎晩のごとく同じ悪夢を見てしまう。
その悪夢は、学校の教室にいて教卓を通して教室全体を俯瞰している。教室内は静寂でこの校舎自体に人の気配を感じさせない雰囲気を醸し出していた。そして、目の前には見知らぬ少女が立っているのだ。
風貌が小悪魔めいて可愛らしくもある謎の美少女が両手を顎に乗せ、上目遣いで私のことをニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら見ている。
この教室には私と彼女以外誰もいない。
「フフフ」
謎の少女が斜め四十五度くらいの尺度で首を傾げるとそのいたずら気で甘く透き通った声を出した。
「誰…? 」
私はそう問いかけるが彼女は何も答えようとはしない。
そして、私の手にはなぜか拳銃を携えており、私は弾丸を装填しようとしていた。
私は、言い知れぬ恐怖感によって、鳥肌が立ち冷や汗が流れているのがわかった。すると、今度は、足から太ももにかけて傷口ができ始め、そして、それは体全身へといきわたりそして、血まみれになっていくのだ。
「まただ…!」
この傷ができ始めたと同時に彼女の容貌が変化しだす合図なのだ。黒い目は白目を剥き、醜い怪物へと遂げて私に襲い掛かかかろうとする。
そして、どこで聞いたことがある誰かがこう言うのだった。
「そのジャバーウォックを殺せ! 」
私は、見定めて、拳銃を彼女の顔に標準をあわせ引き金を引くのだ。
「パァー――ン!! 」
「ハッ! 」
まるで、銃声が合図のように私はいつもそこで目が覚めてしまう。
熱帯夜でもないのに体中汗まみれでビショビショになって、青白い顔をし、顔からはなぜか大量の涙をこぼしていた。
「ジャバーウォック…? 」
私は、夢の中でてくるその単語を呟いていた。
なんだか頭にいろいろなイメージが浮かんでくる気がするのだけれど―――ただ、それがどんなイメージなのか、はっきりしない。なにか、思いだそうで思い出せない。そんな悶々とした感じがしてやまないのだ。
あの少女が何者で、なぜ、私を襲ってくるのか?
そのときには私には分からなかった。けれど、逆に言ってしまえばこんなことが起こらなかったら、彼とも関わることも無かったかもしれない。
そう、白峯神楽という男子高校生なんかに―――
四月も終盤になり、ゴールデンウイーク目前という時期だった。教室内では、授業の合間の休憩時間や昼休みになると、私たちは仲の良いグループを作っては、大型連休中に何をするのかなんていう話題をだしてざわざわと落ち着かない様子でいた。けれども、私は、毎晩みてしまう悪夢に思考を取られてゴールデンウィークの話についてなんて、どうでもよかった。それに、深刻な問題も出始めていた。あの夢を見始めて以来、私の体にも影響がで始めたからだ。
私は、ぼんやりと窓の外の風景を眺めながら、これから、どうなっていくのだろうという茫漠とした気持ちで不安になっているのだった。
「……」
「ねぇ―――」
「……」
「ねぇ―――花ちゃん!」
「んん??」
「おい、そこの有栖川桜花!」
「もぉー、また話聞いていなかったの?」
「なに…?」
「だから~、ゴールデンウィーク中になにするかって話」
「あぁ…、ふわぁ~」
「なに? 寝不足なの?」
「まぁ…、そんなところ…。なんか…近頃、体が重く感じるし、体中がだるいし、変な夢はみるから気分が晴れないんだ」
「季節の変わり目だからじゃないの? ほら五月病という言葉ってあるのだしでさぁ。まぁ、なんかあったら私に相談してね」
「うん、そうかもね…」
私は適当に答えていた。現実に私のこの問題を解決できる人なんていないからである。いや存在すらしないのかもしれない。
「みんなは、ゴールデンウイークに何したい? 」
「う~ん。どこか行きたい気分だね。新しいカフェ巡りとかしない―――? 」
「その前に、彼氏とか作っておきたいかも」
「わかる~。私も相手がいたらいいのにな~」
「クラスで一番イケメンな白峯神楽君に告白すれば良いだけじゃない? 」
「でも、白峯君は、ちょっとね…」
「色んな意味でハードル高いよね…」
「ねー、世に言う残念イケメンっていう感じだからさー」
雑談している友達は白峯神楽のほうに視線を移していた。彼は、自分の席で本を立てながら眠りに落ちている様子だった。
「…でも、イケメンだし、ミステリアスな雰囲気があるから嫌いにはなれないんだよね」
「それに、あんな白峯君だけど倍率高いよ」
「滑り止めで、高橋にしておけば~」
女子たちは笑いながら高峯神楽を揶揄するようにして雑談をしていた
白峯神楽という存在———
今年の四月に転校してきた男子高校生だ。入学当初は顔立ちが良いということで別クラスからもそのご尊顔をお拝もうとするくらいには人気だった。いつもは机に伏せて寝てばかりいる印象なのだが、学期末、中間のテストは常に一位をキープ。授業時間に寝ていて教師に問題を当てられたとしても、すぐに答えてしまう。いわゆる、優等生であり天才だ。それでいて、男子、女子問わず人気は高い人物―――なのだが、変人気質があるのがキズだった―――
白峯神楽の変人逸話は枚挙にいとわない。
まるで誰かがそこにいるかのようにいきなり喋っていること。誰かに追われているように全力で走っていること。授業の最中、いきなり笑い出したりしたかと思えば、『この悪魔が! 』とか言い出したりする始末である。
はたから見ればヤバい奴だと誰もが思うのだが、そこは白峯神楽という人物が功を奏したのだろう。天才と馬鹿は紙一重という諺どおりの人なんだとクラスメイト達は勝手に解釈していた。
だが、一部界隈では、高峯神楽が奇行を繰り返しているのは、私たちに見えない何かがいるのではないかと噂されていた。そんなわけでクラスから距離を置かれている存在だった。
いや、普通の価値観を持っている人がいるなら、彼に近づこうと思うやつはいないのである。
私を含めてだけれども―――
第二話 【白峯神楽の忠告】
第三話 【ジャバーウォック】
第四話
第五話 【鏡の国の有栖川】
第六話 【鏡の国の有栖川】
第七話 【大きい葛籠の中身】
第八話 【落合色葉という存在】
第九話 【襲った怪異の正体】
第十話【友鏡】