九十九物語 【廃遊園地】#4
ゴールデンウィークの初日に皆で決めていた肝試しをするという目的のため、私たちは、新しく出来た美浜トンネル前で集合することになっていた。
私は、当初、白峯神楽の忠告が気になってしまい、あまり行く気にはならなかったのだが、友達の境や桜井が家にまで押しかけてきたので行かざるえなかった。
美浜トンネルの歩道入り口前に行くと、数人の同級生がもう集まっている状態だった。美浜トンネル自体はそんなに怖いものではなかった。照明は新しいLEDライトで明るく、途切れることなく車が上りからも下りからもせわしく行きかっており、そして、なにより通行人も複数人通っており、怖いとかそうゆうのは無縁の場所だった。
「案外、こわくないな」
「当たり前だろ、ここは出来たばかりのトンネルなんだから。いわくつきのトンネルは、この上にあるんだから」
「えー? もう、ここでいいでしょ」
「ダメダメ。こんなところ通っても、雰囲気ないだろ? さぁ、この脇道にいこう」
家内はそう言いながらトンネルの横には通行止めのフェンスがしてあり、そして、ひび割れたアスファルトが続いていた。その道の先は薄暗く不気味さを醸し出していた。
「うわっ…、いかにもって感じ…」
「ちょっと、怖いね」
「いやいや。ここには霊はいねーから、それに昼だぜ」
みんなそう口々に言いながら、その薄暗い道を行き始めた。
女子たちは怖いため、友達同士の腕を掴み、背を小さくしながら、生まれたての小動物のように震えていた。
しばらく道なりをすすんでいくと、お目当ての旧美浜トンネルが見えてきた。距離としては、大体、100メートルくらいだろうか
トンネルは、暗く、そして、赤い照明がわずかにトンネル内を照らしていた。
「うぉ―――、すげぇ…」
「雰囲気の塊じゃないか」
「あたし、無理かも…」
トンネル内では私たちの声が響いていた。どこかしらで水の滴る音も響いている。
私たちは、イワシの大群のように固まって、この不気味なトンネルを歩み出した。
「おい、どうするよ。ここから出たときに、一人消えてたりしたら」
「ちょ…っと、やめてよ」
「……」
怖さのあまり喋り続けるもの、黙り込むもの両極端に分かれていた。
トンネルを半分まで行った時に、黙り込んでいた桜井が「アッ! 」と声をあげた。そこにいる全員は、叫びだした桜井のほうに目線を向けた。
「おい、びっくりさせるなよ」
「え? なに? 」
「どうしたの? 」
叫びだした桜井はまた、黙り込んでしまった。
そして、「なんでもない…」とだけ言っていた。
私たちは、彼女の不可解な行動に対して、何があったのかを聞いてみた
「いや、何があったんだよ、言ってみろよ」
「いや、ちょっと…」と言って、彼女はどもって話そうとはしなかったが、しばらく黙り込んでいた。
「ごめん、無理…」
「無理って、何? 」
「言えない…」
「おい、言ってくれよ。気になるだろ? 」
そして、そのまま黙っているばかりだったがやがて、重い口を開き始めた。
「みんなを怖がらせてしまうつもりは無いのだけれど、入り口付近に黒い人のようなものが手を降っている風に見えたから…」
それを聞いた瞬間、出口のほうに目線を向けると、ちょうど、黒い影がこちらにむかっているのがわかった。
「ちょっとマジでヤバいって! 」
「冗談だろ! 」
「ここ、幽霊が出ないじゃないのかよ!! 」
私たち一行は怖さが勝ってしまいトンネルの入口とは反対の出口付近へと叫びながら全速力で走り出した。
トンネルをくぐり抜け、しばらく走り続けて行くと、開けた場所にたどり着いていた。
駐車場スペースの白線がかすれているのが確認できる場所に出くわした。今は誰も使われていない場所のためアスファルトはむき出しになり、雑草が生い茂って草原のようになってしまっていた。
「ここって? 」
「おい、すげーな。こんなところ初めて来たぜ」
駐車場の目の前にあったのは、巨大な廃遊園地で数々のアトラクションが手付かずのまま放置されていた。
「ちょっと見に行こう」
「えぇ! 行かないほうがいいよ」
「だけど、戻ろうにも、戻れないだろう。あんな人影がいたようなトンネルによ」
「しばらく、様子みてからトンネルに戻ろうぜ」
そうゆう結論になり、私たちは、あの廃遊園地に向うのだった。
遊園地の名前はネバーエンディングランドという、ピーターパンにでてきそうなネバーランドっぽい名前の場所だった。
廃遊園地にある遊具はすべて錆びて朽ち果てつつある状態だった。メリーゴーランド、ジェットコースター、コーヒーカップ、観覧車、ゴーカートと多岐に渡る大きな遊具の数々がそこかしこに点在しており、そして、そこに五月特有の新緑の怪物に侵食されていた。
「わたしのおじいちゃんが建設に携わったことがあったって聞いたから、もうだいぶ、昔のだよね」
「へー」
「なんか、思ったより幻想的だね。夜だったらこんな所これないけれど、昼だから、気が楽だよね」
「分かる。なんか今にも動き出そうで、すごいねー」
私たちは、さきほどの恐怖体験を忘れて、そこにある遊具を次々と見物していった。青々とした新緑と人工物のコントラストが相まって、まるで、別世界に入り込んだ気がする世界観だった。
そうして、私達は施設内も探索をし始めたた。
「おい、ここって射的じゃないか?」
「おぉ、ほんとだ、的もある」
「景品は何だろうね」
「あの腐った熊のぬいぐるみみだろうな…」
「いらねー」
男子たちは、小さな拳銃で的を構えて的に向かって打っていた。
「すげー、これ、玉がでるぞ! 」といいつつ興奮していた。
わたしは、一つの施設に目にはいり、そこに向かった。
合わせ鏡の館と書いてあった。
中をのぞくと、そこは無数の合わせ鏡の迷路になっており、楽しそうに思えた。
「ねぇ、ちょっと入ってみる? 」
「えー、怖いよ」
「みんないれば大丈夫でしょ」
わたしたちはそんなことをいいながら、鏡の迷路に入り込んだ。
中は、無数のあわせ鏡で覆われていたが、屋根が壊れて、日の光が入っており怖い要素はなくむしろ楽しそうに思えた。
腐って破けているレッドカーペットの道を歩んでいき、途中迷ったりしていたが、「こっちじゃないよ」「わー、迷っちゃうね」と和気あいあいとして、不思議と楽しい気分になっていた。
しばらく歩いていると、私は、足元にあったコンクリート欠片に気がつかず、それに足をかけてしまいよろけてしまいふいに、合わせ鏡に手をつけてしまった。
その瞬間、世界はぐにゃりと歪んでしまった。