九十九物語 【鏡の国の有栖川】#5
気がつくと私は教室の自分の席に座っているのだった。
「え…? 」
いつもどおりの教室だが、違和感をぬぐえなかった。いつもの教室内にあるものがすべて反転している状態だった。
「なにこれ―――? 痛い!! 」
体中の節々の痛さ、そして、足のふくらはぎから太ももにかけて、筋肉痛のような激しい痛みが走っていた。それでいて、体はいつにましても動かしずらかったのだ。
そして私のすぐ隣に制服をきたあの謎の少女が私すぐ隣に座っているのだ。
「え!?」
しばらくすると、朝の長細いチャイム鳴り、同時に、担任が教室に入ってきたのだが、生徒たちは自分の席に戻ることなく、ただおしゃべりを続けるのであった。
「どうなっているの…? 」
朝礼が始まろうとしたとき、先生から隣の女子について説明があるのだろうと思っていたが、何も説明することなく普段どうりに朝のホームルームを済ませていた。
誰一人として、担任の話など聞く様子などなくひたすら友達とだべっていて、学級崩壊でもしているみたいに思えてならなかった。けれども、担任はそれが普通といわんばかりにそのまま授業を始めているのだ。
その間、女子は私のことをじっとみているのを感じ取り、言い知れぬ気持ちの悪さを感じていた。
「何なの…? 」
私は、そっと彼女見た。
彼女は頬杖をつきながら、不敵な笑みを浮かべつつ、私のことを見ていた。それがいたく恐怖感を覚えてしまい、すぐに前を向いてしまった。それと同時に体の調子の悪さと足の痛みが増してきたように気がしてならなかった。
「そうだ…。白峯神楽なら―――なにか知っているのかもしれない―――」
私は、白峯神楽が座っているほうに目線をむけると、高峯神楽がいた。
彼は、学習机に椅子をのせ、さらにその座り方も奇妙で椅子の背もたれ部分に座り、座席に足を組み、紅茶の匂いを楽しみながら先生の授業をウンウンと頷きながら聞いていた
嘗め過ぎでしょ―――!
けれども、その事についてもだれも、何も指摘することはなく、それどころか、それを真似している人が廊下側にもう一人いた。まるで、白峯神楽と左右対称になるようにして存在しているのだった。
私は、神楽のところへ向かい、謎の女子や、この世界についてのことを聞きに行こうとしたのだが、なぜかうまく歩けなかった。。
「あれ? どうして…?」
早く神楽の場所まで歩きたいのにも関わらず、何回もその場で足踏みしてしまうそんな感じだった。
「ほんと、どうなっているの…⁉」
だが、一歩ずつかみしめるようにして大きく歩けば、一歩進むことがようやく出来た。すると、クラスメイト達が瞬間的に移動しはじめた。そして、一人ずつ消えはじめていた。
私は、もう大きく歩むと、また次々と生徒が移動しはじめ、そして、姿を消す人が増えていった。原因がなにかはすぐにわかった。歩きながらクラスを見ていると、あの謎の少女がクラスメイトを次々と襲って、消しているのがわかった。
彼女が生徒に触れた瞬間、消えているのだ。けれどもクラスメイトたちは消えている人が目でみてもわかるはずなのに、誰も何も言わない。悲鳴すら上げない。まるで、それが当たり前のようだった。
なんとかして、神楽のところまでたどりつくかなければ、次、消されるのは私かも知れない。
「はぁ…はぁ…」
私は何とかして、神楽のもとにたどりつけたのだった。彼は紅茶をすすって見下すよう私を見ていた。
「ねぇ、神楽、どうなっているの? 」
「名前と用件を言いなさい」
彼は偉そうにそういった。
「はぁ? 」
彼は、そういい紅茶をすするのだった。
「有栖川桜花だけど…」
そう答えると、白峯は、イラついた表情で「馬鹿げた名前だ! 」と答えるのだった。
「バッッ!? はぁ!? 」
「どうゆう意味なんだ? 」
「いや、もう名前とか、どうでもいいから。どうなっているの? なんで、こんな歩きずらいの? あの謎の少女もいるしーーー」
「キミはクイーンではないからな。足が遅いことくらい当たり前だ。そんなこともわからないのか? 」
もはや、何を言っているのか全くわからないうえに、上から目線で話す白峯神楽は通常よりも、腹立たしい気持ちが芽生えていた。
コイツ…殴りたい…
「由々しき事態だ! 」
それでいて、終始、ご立腹だった。
「ねぇ、この動きずらいのなんとかして! はやくしないと、彼女にみんな殺されちゃうよ」
「クイーンになればいい話だ。あそこまでのタイルは何個だ? 」
彼はそういいながら、教室の黒板前にある教卓を指差したあと、教室にある地面のタイルをさしていた。
「え…? 三つくらいだけれど、それがなに? 」
「それなら不可入性だ」
「またわけの分からないことを…」
「『その話題はもうたくさんだから、どうするかを言ったほうよかろう、なにしろこれから一生ここにいるわけにもいかんからな』と言う意味だ」
その言葉にそんなに要約できるわけないだろ…
私は、意味がわからなかったが、神楽が指差した教卓に向おうとしたとき、彼は「さようなら」といった。
「え? 」
振り向いたときには白峯神楽は消えており変わりに謎の少女がそこにいた。
「あれ? まずい…」
白峯神楽も消されてしまったみたいだ。
すると、今度はクラスメイトの女子たちがいつの間にか隣にきており、楽しそうに談笑していた。
「そんなことないよ! 私、全然、白峯君のこと好きじゃないよー」
教室内で誰が好きかというありふれた話題で盛り上がっているようだった。
「てゆうか、キモくない? 」
「わかる! なんか意味不明なこと口走っているしね」
「塩のなめすぎで頭がおかしいのじゃないかな?」
ひどい言われようだった。
だけれど、今の私なら妙に共感してしまいそうな話題だった。彼女たちは、会話に夢中になってしまい教卓にいくまでの通路を邪魔して行こうにもいけなかった。
「ねぇ…」
彼女たちは私の存在には気がついていないみたいに会話を続けているのだった。
「ねぇ! 」
もう一段階、声をあげたが彼女たちの会話はとどまることはなかった。まるで、私の声が聞こえていないみたいだった。
私は、無視されていることに腹を立てて、今度は叫ぶようにした。
「ねぇったら! 」
その声で、彼女たちはやっと私の存在に気がついたみたいだった。
「え、なに…、」
「あ…、いたの…? 」
「ずいぶん声が小さいのね、気が付かなかった…」
「ちょっと、どいてくれない?」
「……」
「……」
「……」
彼女たちは、私の呼びかけに対して無視をして、また、楽し気に会話を続けるのだった。その態度に対して、イラついた
「ほんと、なんなの?? 」
私は、あの楽し気に談笑しているクラスメイト達に怒りを覚えながら見ていると、またあの謎の少女がそのグループの一人を襲って消してしまった。
口角をあげて、ニヤニヤと見下すようにして笑っていたのだった。
このままだと、私を含めたみんながころされてしまう。私は、勢いよくその謎の少女の胸ぐらを掴んみ押し倒した。
彼女はキョトンとした顔をしていた。
すると、教室中が私の言動に対して、ざわざわとしていた。
「ちょ、ちょっと、何しているの!? 」
「押し倒すなんて、ルール違反よ。正気なの!? 」
友人たちは、私の突然起こした言動に対して非難轟々だった。
「え…! なんで…! 私は、ただ助けようと―――」
謎の少女は、私のことを哀れな奴だと言わんばかりの表情でニヤニヤとせせら笑うだけで何もしなかった。
「こいつ…」
私は押し倒した女子に馬乗りになって、彼女の制服の胸ぐらを掴み殴ろうとしたが担任が駆け付けて、私をとり抑えため殴ることはできなかった。
「こら! 何しているんだ、キミたち!? いい加減にしろ!! 」
「離して、私は、コイツをシバくの! 」
私は、一体、何を口走っているのだろう。
ここの世界に入ってからというもの私も段々頭がおかしくなっていることが理解できていた。それでいてこの少女に対して、言い知れぬ畏怖の念を持っていおり、私はどうしても許せなかった。
そう、存在がゆるせなかったのだ
ただ、憎しみに満ちた感情が彼女に向かって沸々と起きていた。
彼女のほうに目をむけた。
クラスメイト達は、彼女の身を案じている様子だった。そして、彼女も大した事ないと言うような素振りをしていた。
そして、「ルール違反はよくない。みんなもとの位置に戻るように」
担任はそういうだけだった。そして、クラスメイトたちは自分がいた場所にもどるのだった。
「もう、意味不明なんだけれど…」
教卓まであと二歩
私は、また一歩大きく踏み出した。
「足が痛い…、なんで? 」
そう思いながら、私は、痛み感じる足をさすりつつ、ズボンを脱いで足をみた。
「はっ! 」
足に怪我をした覚えなんてないはずなのに、赤い傷が複数箇所になっていた。
なんで…! どうゆうことなの…!?
体中の傷口を作りながら、私は、なんとか神楽が指差していた教卓までもう一歩。
私が教卓までたどり着くと、全身の傷は残ったままだったが、先ほどまでの体の動きにくさがうそのようになくなり自由に動けるようになった。
「なんだったの?」
チャイムが鳴り響いていた。
教室内には誰もいなくなっており、まるで、人だけが消えてしまったかのように静まりかえっていた。
第六話目